No.9「国境なき奇術団(3)」
そして奇術師の5人は賊の武器を破壊、回収して無力化し、日が沈むまで荒野を移動し続けた後、川沿いにテントを設置して野営を始めた。
人工の明かりがない真っ暗な夜、彼らは燃えたぎる焚き火を中央に、笑いながら食卓を囲む。
「───にしても今日の奴らは弱かったな!! 私はもう少し骨がある奴と戦いたいぜ!!」
「うるさい。」
「あぁ!?」
「ははっ、確かにな。この調子だと腕が鈍りそうだ!」
「ふっ、心配するなマックス。お前の怪力は健在だったぞ。」
「そうだよ、今日も何人も吹っ飛んでったよね!」
「おっ、そうかそうか。でもな、お前たちも相変わらず大したものだったぞ。」
「ん?」
「?」
「そうね、貴方たちの魔法はいつ見ても凄いものだわ。」
「そうかな、えへへ。」
「そりゃどーも。」
その仲間からの評価に少年と少女は照れくさそうに、どこか複雑そうにお互いに目を逸らした。
彼らが本物の魔法を扱うことは、奇術団を結成したその日から、他の3人には周知の事実ではある。しかしジェードとテルルには誇らしい思いなどは一切なく、むしろ彼らはその力を良くは思っていない。
それは奇術師としては有益な力であれど、それを手にした彼らにすれば、それは人としては最低最悪のモノなのだから。
「───まぁ俺の方が全体的に優っているがな。」
「なんでさ!?」
しかし少年は鼻で笑いながら少女の魔法を嘲笑った。その不当な扱いにテルルは驚き、ただ納得がいかずに憤慨する。
「そりゃ殴るしか能が───ぐぇ!?」
そこで少年の腹には少女の拳が炸裂していた。顔が青ざめる彼の口からは情けない声が吐き出される。
「ほら、私の方が強いじゃん!」
「っ! この脳筋女! 燃やしてやろうか!?」
「やってみろ!!」
「ぐぼぉ!?」
そして拳を握って勝ち誇るテルルに、苛立ったジェードは手から炎を出そうとしたが、その動作よりも少女の動きの方が圧倒的に速く、出遅れた少年は再び容赦なく殴られる。
「はははっ、まったくお前らは元気だな。」
「おっ? 殴り合いなら私も参加するぜ!!!!」
「ふふ、お馬鹿さんたち。」
その光景を慣れ親しんだように酒を飲んで傍観する大人組の3人のマジシャンたち。しかしヒルデガルトは興奮して立ち上がり参戦し、マックスとセイコは大人しく観戦することを選んだ。
そして唐突に始まる野営地での大乱闘。酒で酔っ払って乱入してきた傭兵に、ジェードとテルルは青ざめながらも共闘して応戦するが、やはり純粋な腕っぷしはヒルデガルトが群を抜いて遥かに強く、子ども組の2人を倒して暴走し始めたところで、マックスが慌てて止めに入った。
その後は平和的な催しとして腕相撲を行い、その結果は当然のことながら、筋肉ゴリラのマックスが圧勝していた。
「おっしゃーーー!!」
「くそっ!! もう1回だマックス!!」
それでもヒルデガルトは怒りながらゴリラに挑み続けるも、やはり結果は変わらない。しかも無駄に力んだことで、川辺にゲロを吐き散らして無様に敗北した。
「あはは、また私の勝ち〜! ジェード弱ーい!」
「くっ、あり得ない。」
「・・・」
その隣ではテルルが嬉しそうにピースサインを掲げ、それを見せつけられて屈辱を味わうジェード。静かに沈黙し、決して顔には出さないが、その腹の底が煮え繰り返りそうなセイコ。
今宵の腕相撲の最終的な結果はマックス、ヒルデガルト、テルル、ジェード、セイコの順であり、上位2人はともかく、下位3人は接戦の末の僅差であった。
それから5人はしばらく焚き火を囲って歓談した後、酔い潰れ、泥酔したマックスとヒルデガルトをセイコが舌打ちをしながら運び出し、今宵の宴はお開きとなった。
「ねぇねぇジェード。」
「?」
見張り番のジェードが晩餐の後片付けをしていると、同じく監視役の少女が声をかけてくる。
「やっぱりさ、旅は大勢の方が楽しいよね。」
テルルはどこか寂しそうに、懐かしそうにして、かつての少年との旅を思い出しながら囁く。
「・・・ふっ、そうかもな。」
その少女が思い浮かべた情景をジェードも鮮明に思い出す。それは奇術団を結成する前の、少年と少女の2人だけの旅の記憶。それは決して良い思い出とはいえない、お互いに憎み合い、荒んでいた頃の話だ。
「だから頑張ろうね。最後まで。」
そして少女は普段のような子供のような純粋な笑みではなく、どこか複雑な感情を込めた微笑みを見せた。それは言葉にしなくとも、少年には伝わってしまう。
「あぁ。」
だからこそ、ジェードは少女の顔を真っ直ぐに見つめて、その淡い想いを受け止めて、正々堂々と答えるのだった。




