No.8「国境なき奇術団(2)」
その古びた車は国を跨いで走り続ける。ただ彼らの輝ける場所を目指して。
その鉄の塊に運ばれるのは5人の奇術師。ジェード、テルル、セイコ、マックス、そしてヒルデガルト。その生まれ育った場所は違えど、現在はマジックを選び取り、同じ志を持って旅をするマジシャンたち。その奇術の腕だけを頼りに世界を渡り歩く。彼らは国境なき奇術団だ。
そして一向が乗る車はパリを出発して数時間が経ち、現在はほとんど未舗装の荒れた道を走っていた。
「───ねぇ、まだ着かないの〜?」
「残念だけど、まだまだね。あと短時間に何回聞いても意味ないわよテルル。」
「え〜。」
やや大きく揺れる車内でテルルが呟く。確かに年若い少女にとって、何もない移動時間というのは退屈で苦痛を感じるものだ。ましてや彼女は他人よりも活動的で常に元気が有り余っている。ゆえに体力を持て余すのは当然だ。
「やっぱ正規ルートから外れると時間がかかるな。おいセイコ、本当にこっちでいいのか。」
「助手席は黙ってなさい。」
「・・・おぅ。」
運転席には無表情でハンドルを握るセイコ、その隣の助手席には情けない表情を浮かべるマックス。
「おいテルル、暇ならもう一回戦やるぞ!! ジェード、お前もだ! 本なんか読んでないで付き合え!!」
「オッケー!」
「・・・仕方がない。」
そして車の後方部、その大きな荷台部分には退屈そうにするジェードとテルル、ヒルデガルトが木箱に入った積荷に囲われながら、なけなしの金銭を賭けたポーカーに興じていた。
「むむむ〜。」
「あぁ?」
「・・・ふん。」
彼らの手元にはトランプ、それを見つめる表情は三者三様。テルルは顔に出やすく、その思考が読みやすい。ヒルデガルトは普通に馬鹿なため、何も考えていない。そしてジェードだけはポーカーフェイスを決して崩さず、常に冷静さを保つ。
「おらっ、1個揃った!」
「はい! スリーカード!」
「ほい、ストレート。」
「あぁ!?」
「あー!また負けた!」
「はは、悪いな。毎度あり。」
「あぁ!?」
「もう!」
その勝負の結果は語るまでもなく、少年の独り勝ち、文句なしの圧勝だ。そのため少女は不貞腐れて保存食を乱暴に食べ始める。
「クソっ! あり得ねぇ!」
「───おいっ、ぐぇ!」
その一方で頭の足りないヒルデガルトはジェードに負け続けて、手持ちの有り金を全て取られ、その結果に一切納得のいかない愚かな女は少年の首を絞めて揺らしていた。
「クソがっ!!」
「ぐっ! 落ち着け! 俺を殺す気か!?」
「ここで死ねジェード!!!!」
「ぐぉぉ!!」
そしてヒルデガルトが青ざめる少年の意識を奪う、まさにその時だった。
「「「───!?」」」
その瞬間、勢いよく急停止した車。それに連動して3人の乗った荷台は激しく揺れる。その中にあった積荷は散乱して宙を舞う。
「・・・クソガッ!」
「・・・痛たた!」
ヒルデガルトは積荷に押しつぶされて呻き、テルルはひっくり返って、情けない姿を晒していた。
「・・・セイコ! マックス!」
その中でも比較的無事であった少年は車の前方に座っていた女性と男の名を叫ぶ。
「・・・ちっ、頭打った、痛い。」
「ジェード、賊だ、全方位。俺のライフル持って出てこい。」
「なるほど、そういう事か。」
それを合図に5人は迅速に行動を開始する。少年も即座に装備を整えて、警戒しながら荷台から出ると、何もない荒野の道に停止した車を、銃器を持った覆面の男たちが取り囲んでいた。
「まったく、正規ルートを使わないから。」
「何か?」
「・・・いえ、なんでも。」
ジェードは運転手に苦情を言いつけるも、その強烈な圧に押されて黙り込む。
「おいっ! お前ら車ごと置いていきな! 抵抗すんなよ!」
覆面の1人が銃を掲げて大きく叫ぶ。しかし奇術団の面々には恐怖も焦りもない。マックスは敵の武装を見定め、セイコは地図を見つめ、ジェード、テルル、ヒルデガルトの荷台組は呑気に会話をしている。
その気の抜けた様子に困惑し、苛立ちを覚えた覆面の男は、彼らの車に向かって銃を発砲した。それが戦闘開始の号令となった。
「ヒャッハー!!!!」
その瞬間、頭に血が上ったヒルデガルトは突っ走った。その両手には鋭利なアーミーナイフを持ち、視界に入る敵を容赦なく切り刻んで、悪魔のような笑みを浮かべるピンク髪の眼帯。
「ははっ! ははっ!」
その暴れ狂う様は、まさに品性のカケラもなく、その狂気的な姿は哀れな山賊たちを震え上がらせ、無造作に飛び交う銃弾と悲鳴の中を駆け回る。彼女は傭兵上がりの戦闘狂だ。
「ちっ、相変わらず汚ねぇ戦い方だ!」
それと対照的に、巨漢の男であるマッカスは正確に自動小銃で敵を撃ち続け、その動きを無力化させる。
「くそッ、死ねやっ!!」
「───ん?」
そして死角から接近してきた賊が、彼の横腹にナイフを突き刺そうとするが、男はその刃物を拳で破壊した。
「なっ!?」
「ははっ!」
そのままマックスは笑いながら、武器を失った賊を殴りつけ、その怪力で遥か彼方に吹き飛ばした。彼は元職業軍人の精鋭だ。
それと同時刻、彼ら2人の反対方向ではジェードとテルル、セイコが賊と対峙していた。
「───くそッ、弾が当たんねぇぞ!」
「何なんだよ!」
「おいっ足が!」
「っ!?」
「ふっ。」
少年は混乱する賊を前に拍子抜けしたように笑う彼らの銃弾の雨はジェードが燃やし尽くす。そして瞬時に足を凍らせて動きを止める。
「はいっ、さようなら!」
その隙にテルルが賊の目の前まで接近し、その手に硬度の高い宝石を握りしめて、彼らの顔面に物理的に硬い拳をお見舞いする。
「くっ、ふざけんな!」
その絶望的な状況を見て、賊の1人が必死に逃げ出すが、すでにセイコが先回りしていた。
「邪魔だ、どけっ!」
男は乱暴に手を伸ばすが、それが彼女に届くことはない。セイコは男に指を立てて、それを規則的に左右に揺らす。その指の動きに一瞬でも男の意識を集中させた後、彼女は流れるように自身の目に視線を誘導、それから彼の血走った目を真っ直ぐに見つめ、その眼鏡の奥の瞳で命令を下す。
「───止まれ。」
「っ!? ・・・はい。」
「───そこで眠りなさい。」
「・・・っ。」
その言葉に従うように、男は意識を閉ざしてその場に倒れた。そして彼が起き上がる前に、セイコは飛び出しナイフを取り出して、その足を斬りつけた。彼女は天才級の催眠術の使い手。他の4人に比べたら、セイコだけは純粋な凄腕のマジシャンだ。
「───よし、全員そのまま狩り続けろ!」
「ヒャッハー!」
「おっけー!」
「あぁ!」
「了解。」
銃を撃ち続けるマックスの掛け声を皮切りに、一向は残り僅かな賊の殲滅戦へと移行する。ヒルデガルトはアーミーナイフを振り回し、セイコは拳銃を手に精密な射撃をする。そしてジェードとテルルは魔法という超常の力を駆使して戦う。
この奇術団には誰1人として常人は存在しない。彼らは全員が超常異常者の集まり。世界中を渡り歩き、戦闘経験が豊富な彼らには、この程度の敵などは相手にもならない。
それから数分後、哀れな賊たちは呆気なく壊滅するのだった。




