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No.3「奇術師の魔法(3)」

 黒服に大人しく従うテルルとミリィは薄暗い夜の路地裏を歩いていた。その腕には結束バンドによる拘束を、その背中には銃口を突きつけられて。そしてたどり着いた先は行き止まり、ギャングのたまり場となっているアンパスだった。そこには更に数人の黒服の男たち、それと明らかに彼らとは異なる風貌の女性がいた。


「お母さん!!」


「───ミリィ!?」


 先ほどまでは涙を堪えていた幼子だったが、思わぬ母親との再会に声を漏らして走り出す。どうやら彼女がミリィの母親で間違いないらしい。お互いに無我夢中に走って抱き合う親子。


「───っ。」


その感動の瞬間を見たテルルは静かに微笑んだ。それと同時に周囲の地形、男たちの配置、状況を冷静に観察する。何故ならこの後の展開など予想するまでもないからだ。


「さて、感動の再会を邪魔して悪いがな、こっちも仕事なんでね。お母さん、あんたには決断してもらうよ。金を払うか、身売りするか、娘を差し出すか。さっさと決めてくれ。」


「・・・」


 ミリィを大切に抱き寄せる母親に対して、ギャングの中の1人、白スーツの男が声を張り上げる。その手に持つ黒い銃を空に掲げて。


「───ちょっといい?」


「・・・なんだお前?」


 その白スーツの男は目を細めて固まった。この場に紛れ込んだ部外者であるテルルの存在を認識して。その男は周りの仲間に耳打ちされて、少女の方を見ながら何度か頷いて状況を把握する。


「そうか、なるほどな。あの店の奴か。はは、お母さん、選択肢が増えて良かったな。生贄候補が1人追加だ。」


「ちょっと、勝手に話を進めないでよ。そもそも私は何も知らないし。」


「・・・なに、簡単な話さ。その馬鹿な女が俺たちに金を借りた、それを返してもらいにきた、それだけだ。」


「っ!? だから私は借りてなんか───」


「あーはいはい、お母さん、お口チャック。」


 白スーツの男は不敵に笑いながら銃口を見せびらかす。その下衆な仕草に怯える母親と娘のミリィ。それを数歩離れた位置で見つめるテルルは苛立ちを募らせ始めた。


「そう、大体分かったよ。お前らは相変わらず最低でクソ野郎だ。」


「はっ、好きに言えばいいさ。どうせお前のような女には何も───」


「───っ!!」


 その言葉が少女の爆発の合図となった。テルルは隠し持っていた宝石で結束バンドを引き裂くと、即座に自由となった拳で背後の黒服たちを殴り倒す。


 そして横たわる黒服を踏みつける少女は高らかに宣言した。


「私、アンタらみたいな悪党は本当に大嫌い! 覚悟しな! 今から全員ぶっ飛ばすから!」


「いやお前、これが見え───」


 再び少女は男の言葉を遮って、彼らの持つ武器の事など気にせずに駆け出した。その瞳に熱い闘志を宿して。その手に小さな宝石を控えながら。


「───ったく、馬鹿が! おいっ!さっさとそいつの足を止めろ! 顔には当てんなよ!」


 その指示を受けた男たちは一斉に銃口を少女に向けて、その瞬間には躊躇わずにもう発砲していた。


「何だこいつ! 速いぞ!」

「チッ、当たんねぇ!」

「うぉっ! 目が!」

「くそっ、そっちだ!」


 テルルは蛇行して走りながら、粉々に砕いた宝石を拡散させて男たちの視覚を奪う。そのまま戸惑う男たちの死角から接近して、少女は敵を1人ずつ丁寧に殴り倒していく。彼らが不用意に乱射する銃弾を避けながら、その一つ一つを宝石で余すことなく弾きながら。


 銃を持つ男たちは訳もわからずに意識を失っていった。時には少女のマジックで視界を惑わされ、最終的にはその拳で。


「くそっ、ぐぇっ!?」


「───っ!」


 そして数十秒の間に、銃を所持していた4人の男がテルルによって殴り倒される。彼らはただ情けなく嘔吐しながら、白目をむいて地面に寝そべっている。


「───おいっ、動くなっ!」


 その瞬間、白スーツの男の叫び声が聞こえたテルルは視線を移すと、そこには頭に銃口を突きつけられた親子の姿があった。


「───っ!?」


 それを見た少女はその場で静止して立ち尽くす。男には余裕はなさそうだったが、その表情には焦りはなく、不自然な笑みを浮かべていた。


「はっ、阿保め。」


 そして男は銃口を少女に向けて、即座に容赦なく発砲した。


「──────ごぶっ!?」


 その解き放たれて加速した弾丸は少女の胸を簡単に貫く。それと同時に少女は口から血を吐き出した。そのまま姿勢が崩れて地面に倒れかかる。


「───っ!」


「・・・なっ!?」


 しかし驚くべきことに、血を吐き出す少女は倒れずに、あろうことか地面を踏み込んで前に駆け出した。その拳を固く強く握りしめて、男の姿を正確に目で捉えて。


「くそっ! くそっ! くそっ!!!!!」


 その胸に穴を開けられても特攻してくるテルルを前に、白スーツの男は半狂乱になりながらも銃を乱射した。


「───ぐっっ!?」


 焦る男の照準は定まらずとも、その銃弾は至近距離に迫った少女に着弾して貫通する。そしてテルルは襲いくる鈍い痛みと吐血に抗えず、その猛攻は遂に膝をついて止まってしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ、くそがっ!」


 白スーツの男は激しく呼吸を乱していた。彼は無慈悲なギャングといえど、これほど1人の人間を、まだ年若い少女を撃った経験はなかったのだ。


「はぁ、はぁ。もう、殺してやるよ。」


 それでも男は俯く少女の頭に銃口を突きつけた。それが人としての慈悲の心か、ギャングとしてのケジメなのかは男にも分からなかった。


「───っ。」


「じゃあな。」


 そして男は銃の引き金に触れている指に力を入れる。それでもテルルは立ち上がれない。それを親子は後ろで傍観することしかできない。 

 

 もうこの場において、もはや誰もその凶器を止めることはできない。


「───!? なんだ!?」


 しかし白スーツの男が解き放った銃弾は阻まれた。そして瞬時に溶かされて消滅した。それは唐突に空から舞い降りた鮮やかな炎によって。


「ぐっ、熱い! 誰だ!?」


 その手に握っていた銃ごと腕を焼かれた男は空を見上げていた。その方向を押し黙って傍観していた親子も、絶体絶命だったテルルも瞬時に見つめる。


「・・・っ。」


 それは行き止まりの路地裏の空間を見下ろせる建物の屋上。そこには手を鮮やかな炎で包み込み、その黒服姿を月明かりに照らされている灰髪の少年が立っていた。


 ただ目の前の光景を見下ろして観察し、その口を固く閉ざして、つまらなそうに男を睨みつける。そして少年は血を流す少女の姿を視界に捉え、より一層その表情が険しくなるのだった。


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