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第6話「99年後の話」

ここは閑散とした住宅街の外れにある。

祖父から受け継いだ歴史ある武家屋敷、

生まれてからずっと住み続けた自分の家だ。


そして今、

この家の居間で綺麗に正座しているのは金髪の少女。


木のテーブルを挟んで向かい合うが、こうして対面すると謎の緊張感が襲ってきた。


彼女の顔立ちは日本人とも西洋人とも言える。

その澄んだ青い瞳は物珍しそうに家の中を見渡していた。


あの夜とは違って、服装は若干軽くなっている。

防具の付いた白いジャケットは着用せずに、シンプルな白いシャツと青いスカート、足は黒のタイツに守られている。


飾り気はないが、その姿はとても優雅に思えた。




「うん、美味しい。」


「・・・どうも。」


静かにお茶を飲むカナン。相変わらず上品さがある。

慣れない動作で淹れたお茶も好評のようで安心だ。


「さて、早速だけど話を始めてもいい?

一応先に言っとくけど、話を聞いたらもう──」


「いいよ。覚悟はできてる。」


俺は真剣な眼差しと声で答えた。

今更後悔なんてするわけがない。


「では改めて。これから話す事は主に3つ。まず初めは未来について。私は蓮の生きるこの時代から99年後の未来から来ました。」


「99年後か・・・思ったより遠くないな。」


「──話を続けるね。99年後の未来では様々な技術の発展と進歩を遂げたけど、同時に文化レベルで言ったら今よりも退化しているの。」


「え、何で?」


「───戦争よ。」


「っ!!」


「増え続けた人類の統率は混乱を極め、

遂には崩壊に至った。争いは争いを生み、

それは星を埋め尽くすほどの戦火にまでなった。


その原因の一つとして挙げられるのは

未来で発見された新物質のせい。

それは莫大なエネルギーを生んで人類の科学技術を躍進させた。」


「それって、どんな物質なんだ?聞いても分からないかもだけど。」


「宇宙の熱量計算上存在するとされていた物質。簡単に言うと暗黒物質なんだけど、、分かる?」


「・・・無理かも。」


初めから全く理解が追いつかない。

これなら日々の授業は真面目に聞くべきだったな。



「はい、この話は省くね。とにかく、この物質を巡った争いが世界規模で頻発したの。


そして新物質についての研究が進む中で、

人工進化実験が───これもいいや。


えっと、要するに、このエネルギーを知覚して操れる存在が生まれました。


その人間たちは新人類と呼ばれ、

個としての強大な力を持ち、戦争を激化させた。」


「・・・新人類、それって、もしかして─」


「蓮の想像通り、私も新人類と呼ばれる存在。

人類に兵器として生み出された人間だよ。」



静かに手を胸に当て、目を細めて不敵に微笑むカナン。それは魔性の笑みだった。



「・・・なんか、見た目からは想像できないって言うか。」


「外観はどうであれ私の在り方は普通の人間とは違う。もちろん蓮、貴方ともね。私たちは戦場の最前線で戦い続けていたから。」


「・・・・。」


「あ、でもね。別に特別な存在って訳じゃないの。

人間である事には変わらないし、お腹は空くし、眠気は襲うし、えっと、その、だから・・・怖がらなくていいからね?」


「別に怖がってないよ。ちょっと驚いただけ。」


何を勘違いしたのか知らないが、カナンは焦りながら身振り手振りで無害さをアピールした。それを見てると何だか気が抜ける。


「・・・そっか。良かった。」


「・・・。」


曇り一つない純粋な笑顔。

直視するのが眩しいぐらいだ。


少女は冷静さを取り戻してお茶を飲む。

そして咳払いをして話を再開した。


「次に、この時代に来た理由について。」


「うん、俺もそれを知りたかった。」


どうして彼女がこの時代に来たのか。

なぜ黒ローブの男が俺を襲ったのか。

──俺はそれを知る必要がある。


「その目的は結晶の回収。」


「・・・結晶、か。」


「あの結晶はエネルギーの塊。新物質の高濃度なエネルギーを凝縮させて結晶化させたモノ。それ一つで戦況を変えられるほどのエネルギー量があるの。」


「え?!あんな小さな結晶が?」


「そう。実際に新人類が取り込めば、より強固で圧倒的な力を手に入れられる。偶然の産物で生まれた奇跡のエネルギー体。どこの勢力も喉から手が出るほど欲しているモノ。」


「そんな重要なモノが何でこの時代なんかに。」


「・・・それはね、結晶を作った科学者が

未来の果てしない戦争状態を嘆いて、

比較的安全なこの時代に意図的に飛ばしたの。


そのとき彼女も必死だったから、座標がこの街に偏ってしまったけど、その数は全部で9つ。それだけでも簡単に国が滅ぼせる。」


「9つ・・・。」


そんな物騒なモノを過去に飛ばすなんて。

その科学者は何を考えているんだ。

傍迷惑すぎる身勝手な行為ではないのか。


何より時間跳躍なんて、色んな整合性から考えたらリスクも大き過ぎるように思えるし。現代に被害も出ている事からも本当にいい迷惑だ・・・ん?


「ちょっと待って、今更だけどさ、その結晶を回収しに来たのってカナンだけじゃないよな?黒ローブの男もそうみたいだったし、それで俺の家族も・・・。」



「──ごめんなさい。私には謝ることしかできない。


貴方の言った通り、様々な勢力の未来人たちが

今この時代に飛んできているの。


勝手に貴方の生きる時代を未来の戦争状態に巻き込んでしまうなんて、本当にごめんなさい。」


「いや、そこまで謝らなくても。」


肩を落として顔を俯かせるカナン。

彼女は本当に申し訳なさそうにしている。

彼女に非がある訳ではない。それは分かっている。


あの時結晶を素直にカナンに渡していたら・・・。


いや、どのみちあの空間の裂け目に出会した時点で、

黒ローブの男は俺のことを襲いに来ただろう。

これはもう、そういう運命だったんだ。


「・・・。」


「・・・。」


急に黙り込まれるときつい。

俺はこういう空気には耐えられないんだ。

未来の話はどうしたんだよ話は。


「えーと、カナン。具体的にどれくらいの未来人たちが来ているんだ?やっぱり多いの?」


「あっ、数は少ないよ。そもそも時代旅行なんて膨大なエネルギーを使うし、失敗する確率も高いし、それに耐えられる器も新人類だけだからね。あと私たち自体の存在も希少だから、未来の勢力図から考えても恐らく10人〜20人程度だと思う。」


「なるほど、じゃあそこまで影響はない・・か。」


「・・・それは断言できない。お互いにモラルや節度はあれど、あくまで戦争だから。


時と場所が変わっても、根本的には変わらない。

これから被害は増えてしまうかもしれない。」


「・・・そうか。」


「えぇ・・・。」


「・・・。」


「・・・。」


──だから黙るのをやめて下さい。これはあれだな。この手の被害系の話はやめた方が無難だな。


未来の世界での争いはどうであれ、話を聞いた限りではカナンは現代に対して敬意を持っているし、彼女なりの節度も良心もある。


そんな人物を一方的に責めるのは間違っているはず。


「──それでさ、残った最後の話は?」


「・・・そうね。これが1番重要な話。

蓮、ちょっと付いてきてくれる?」


「?」


そう言うとカナンは立ち上がって玄関に向かい、

ハイカットの皮靴を履いて外庭に出た。


「──この辺でいいかな。」


カナンに黙ってついて行くと、

庭の中ほどの砂利の上で立ち止まった。


「なぁカナン、何で外に?」


「──待ってて。」


カナンは手を伸ばして静止の合図を送ると、

ゆっくりと自分の胸に手を添えた。


そして周囲の空間から集まる光の粒。

その光は束となって黄金の輝きを生み出し、

刃こぼれ一つない一本の剣を出現させた。


「その剣・・・。」


「これは黄金の(つるぎ)、ステラルクス。

新人類は各々に専用の武器があるのだけど、

この剣はその中でも最上位の性能を有する武装。

未来技術の全てを注ぎ込んだ人類の希望。

・・・この剣の威力は橋の上で体感済みだよね。」


「あぁ、確かに凄かったけど。」


そうだ、あの時は凄まじい威力と光だった。

ただ何故だろう。今彼女が手に持つ剣は、前よりも光の輝きが薄いように感じる。


カナンは黄金の剣(ステラルクス)を青空に掲げ、

そして儚げな表情で剣を見つめて呟いた。


「──やっぱりダメか。」


「え?」


「蓮、持ってみて!」


「ちょっ⁈」


カナンが唐突に放り投げてきた剣を慌てて掴み取る。

その瞬間に手から伝わる熱と重み。


「──っ!!」


そして輝きを取り戻す黄金の剣(ステラルクス)

その光は曇りのない昼間なのに眩しいほどだ。


「カナン、これってどういう・・・。」


「これが最後の話。そして相談とお願い。

───蓮、私の代わりに戦ってくれない?」



そう、それが彼女の訪れた理由。

重い剣を持ちながら困惑する少年を見つめ、

今まで見せてきた笑顔とは全く異なった

戦場で生きる少女の顔で言葉を紡ぐカナン。


こうして現代に生きる高校生の蓮は

未来に生きる少女のカナンによって

未来の代理戦争での戦いに誘われるのだった。



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