「英雄セキ」
あれから一体どれほどの時間が過ぎ去ったのだろうか。あの遠い時代から帰還した私は以前と変わらずに戦い続け、今まで以上に必死に踠いて生きていた。
「・・・」
あれは確か、そう、私が過去から帰って来て間もない頃だった。カナンの臣下を名乗る青年が私のもとを訪れたのは。そして彼が渡して来た結晶と銀の月のペンダントを見た瞬間に、私は彼らの運命が終わってしまった事を悟った。それはあまりにも辛くて悲しい現実ではあったが、しかし同時に理解もした。
あの心優しい少女は、あの親愛なる少年は、私に全てを託したのだ。その2人がどのような結末を迎えたのかは、私には知り得なくとも、きっと幸せな夢で満ちていたに違いないと確信できる。
「───カナン、蓮さん。」
ならば私が立ち止まることなど許されない。これからの未来は、彼女の眩い光は私が背負って作っていくのだから。
だから私は青年から結晶を受け取って、彼らの勢力を吸収しつつ、ただ戦場にて戦い続けたのだ。全ては終わりなき戦いを終わらせるために。
「───っ。」
そして私は終わらせてしまった。これからも未来永劫に続くはずだった戦争を。なにせ数多の結晶で強化された私は圧倒的に強く、また過去で培われた大切な経験を前に、相変わらず過酷な戦いも、新たに現れた新世代の新人類たちも敵ではなかった。
私はその戦いの中で勝利を続け、ただ仲間を増やし、友を増やし、しっかりと純金の骸骨にも意趣返しを果たして、瓦解した敵対勢力を統合し続けた。
そしていつの間にか、私は戦争を終わらせた英雄となった。それは理解が追いつかないほど呆気なく、終わらない戦いは幕を閉じたのだ。
それから仲間たちと共に、この世界の全てを平定し、元凶とされていた科学者にも会った。そこで私は全てを知った。
強大な光と闇、その2つの抑止力が失われた未来で。この暗い世界に必要だったのは、たった1人の私という英雄だったのだ。
「そう、全ては布石だったのだよ。君という存在を生み出す為のね。」
その科学者は戸惑う私に吐き捨てた。今まで私が経験したものは、ただの戦争を終わらせる為の過程でしかないと。彼らにそれ以上の価値は何もないと。
「───それは、違いますよ。」
「?」
だから私は全知全能の科学者を前にしても、ただ純粋に真っ直ぐであった。
「彼らの想いは決して消えません。この先も私が繋いでいきますから。そしていつの日か、また次の誰かに託すために。」
彼らの生きた時間を軽んじる事は許さない。所詮は私という人間も未来への布石であり、私だけが科学者が期待した英雄などではないと答えるのだった。
「・・・」
それを聞いた科学者は何の感情もなさそうに微笑んで、私の前から颯爽と姿を消した。もう二度と彼女が現れる事はないだろうが、そんな事はどうでも良かった。
永き戦いは終わったといえど、依然として私にはやるべき事は多い。むしろこれからが本当の未来への始まりとも言える。そして私は銀の月のペンダントを握りしめて、彼らのことを思い出しては小さな微笑み、まだ見ぬ明るい未来へ向かって進み始めた。
これは私が、私ではない未来の誰かが、未来に向かう物語だ。




