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第64話「未来話・超天才科学者」

それは全ての始まりにして終わりだった。ある日、緩やかな破滅へと進み始めた蒼き星に、それは生まれた。


彼女の名は───。極東の島国の平凡な両親のもとに生まれた、黒髪黒目の少女。その存在は生まれながらにして天才だった。彼女は生後わずかで周囲を飛び交う言語を理解していた。すでに彼女は赤子の頃からは思考していたのだ。


そしてその異次元の天才性は、彼女が歳を重ねて成長するたびに顕著に表れた。 


数多の公式の発見、未知の現象の解明、人類の文明を促進させる新たな発明。その全てを彼女は成人を迎える前に成し遂げた。


まさに神の頭脳、人類を遥かに越えた、歴史上類を見ない圧倒的な天才。人々は彼女を称え、羨み、そして畏れた。それ程までに、彼女の頭脳は優れており、人並みはずれた才能を有していたのだ。


彼女は全ての物事を理解し、紐解き、己のものとした。そして天才は立ち止まることを知らない。そこには生まれ持った飽くなき知識欲と探究心。それを満たすために彼女は思考し続けたのだ。


大勢の短絡的な人々は彼女に求め、託した。増えすぎた人類の救済を、徐々に荒廃し始める星の行く末を。


そのあまりにも強大な頭脳は、図らずも人々から思考を放棄させていたのだ。




しかし彼女には唯一理解できなかった。自分以外の人類の無能さを。ただ漠然と無意味に生きる有象無象を。生まれながらに天才である彼女にしてみれば、自分か、それ以外か。つまり彼女にとって、他の人間とは道端を歩く蟻と変わらない。ただ同じ星に生まれ、同じ種族として、同じ言語を話すだけの生物。確かに同族ではあるが、そこには埋めきれない明確な差があった。


ゆえに彼女は退屈していた。その特異な頭脳は周囲の人々を遠ざけ、彼女を常識という枠組みから外して孤独にする。それを寂しく思ったことはない。辛いと感じたこともない。ただ本当に退屈で飽き果てていたのだ。


その頭脳をもってすれば、膨大で複雑な計算から未来は導ける。彼女は未来を予測し、予知できるのだ。しかし皮肉にも、その人間離れした能力が、彼女に果てしない退屈と絶望をもたらした。なぜなら彼女は既に確定した未来に向かって、ただ訪れる日々を消化するだけなのだから。


その頭脳は決して計算を間違えない。彼女が導き出した未来は変わらない。人生における全ての行いは無駄なこと。人間が辿る運命とは抗えぬもの。その事を齢20歳にして知ってしまった彼女は、もう何もかもが無意味に、この世の全てが無価値に思えてしまったのだ。


その後も惰性で生きるも思考は止まらず、ついに天才は見つけてしまった。今まで誰もが観測できず、証明できなかった、この宇宙(そら)に広がる暗黒の物質を。それが引き金となり、全ての未来の特異点となった。


世界は新たなエネルギーを巡って対立を深め、各地で勃発した戦争は加速した。たった1人の天才によって、人類は自ら滅びへの道を歩み始めたのだ。


そして彼女は生み出してしまった。その物質に適合し、自分と同じように人類の理を外れた異質の存在を。それを新人類と名付け、そこで彼女は密かに歓喜した。


これでようやく孤独を埋められると。永劫に続くと思われた退屈を終わらせられると。


しかし彼らの存在は、彼女の頭脳には遠く及ばず、ただ個として強大な力を振り回し、終わらない戦争をより激化させる火種にしかならなかったが、それすらも彼女の思惑通りだった。その存在を生み出したのも、彼らが戦い合って星を削るのも、全ては1つの未来のために。


荒廃する星は、退化する文明は、人々の悲劇は。その全ては永遠に続く戦争を終わらせる、1人の英雄を誕生させるための布石。


その小さな存在が、彼女の運命を破壊して、定められた未来を変える。


だから彼女は結晶を作り出し、その英雄となる少女の運命が変わる、過去の平和な時代に飛ばしたのだ。

 

その時代で少年と少女が出逢い、彼らという布石と共に戦った少女が成長して帰ってくるのも、全てはたった1人の天才科学者が仕組んだ運命だったのだ。








それは英雄になる少女が生まれる少し前。とあるコンクリート剥き出しのビルの中にある、数多の本と雑貨品に溢れる静かな研究所。そこには真っ白のホワイトボードの前で、冷たい床に寝そべる女性。


「───っ。」


ストレートに長い黒髪を手で払いのける。その体は白くて細く、女性にしては背が高い。オーバーサイズの白シャツ、黒のスラックスにハイカットの焦茶靴。それが彼女の標準装備。毎日変わらずに同じ服装である。


「・・・」


そして気怠げに放心する彼女は、やはり退屈していた。いくら無限に数式を書き出す手を止めたところで、彼女の脳内の思考は止まらない。彼女の意思に関わらず、その頭脳は永遠と計算を続けて未来を導き出す。


「───はぁ。」


それを彼女は良く思わないが、この20年余りの人生で既に慣れていた。だからこそ知的好奇心を満たすこと以外には無気力な彼女は、ただ床に横たわってため息しか吐かないのだ。それはこの星の重力に逆らって、大地に立つことすら面倒であり、他者から見れば自堕落に思われるが、そんな事はどうでもいいと言うように。


「───いつか私を終わらせてね。」


そしてまだ見ぬ英雄の少女の存在を思い浮かべて、独り静かに虚な目で呟くのだった。


その存在こそが全ての始まりにして終わり。彼女こそが、この星に生きる人類に破滅と再生を与える超天才科学者なのだ。



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