第4話「星の剣」
そして少年は剣を握った。
ただ目の前の少女を守る為に。
「お前、何のつもりだ。」
「俺は死なない。カナンも死なせない。」
剣を持ち上げるが予想よりも重い。
精一杯に両手で構えるのがやっとだ。
後ろにいる少女はこんな重い剣を軽々しく振っていたのか。
この剣に触れていると不思議と力が湧いてくる。
肩と腿の出血も痛みも引いてきた。
「その剣は常人には扱えん。呆れたものだ。身の程を知るがいい。」
黒ローブの男は両手の鎌を突き出して飛び出した。
何度見ても目で追いきれない速度だ。
「うるせえよ。やってみなきゃ、
分っかんないだろ!!」
それに反応するのは容易ではない。
だがこの短時間で目は慣れてきた。
あとはタイミングと度胸。それさえあれば防げる。
「っ⁈」
黒ローブの男は目を見開き、
同郷の少女ならまだしも、
現代の人間に最速を防がれたことに驚いた。
一方で少年の顔にも余裕はない。
自分の手には余る剣の重さに翻弄され、
黒ローブの男の攻撃を防ぐのがやっとだからだ。
「舐めるなよっ!!」
「──っ!!」
その後に続くのは黒ローブお得意の乱撃。
剣を前に構えて防御するが傷は増すばかり。
そしてその攻防を見ていたカナンは驚く。
本来なら所有者以外は力を発揮できない黄金の剣が
少年の動きに合わせて肉体能力を向上させている。
あろうことか黄金の剣は光に包まれ始めたのだ。
「まさか・・・いや、いけるっ!!」
少女は確信した。彼ならば真に剣を扱えると。
黒ローブの男は一呼吸も置かずに襲いくる。
必死で重い剣を払い続けるが疲労も蓄積してきた。
このまま押され続けたら負けるのは確実だ。
それは絶対に許されない、俺はそれを拒絶する!!
迫る脅威を退ける力が、圧倒的な力が欲しい!!
「──え?」
その諦めない心に反応するように
黄金の剣は眩い光を放ち始めた。
剣を握る手が熱かった。腕が、身体が、心が焼けそうだった。
「──チッ!」
黒ローブの男は光り始めた剣を見るなり距離を取る。
彼からしてもソレは不可思議な状態だったからだ。
「なんだっ、これ。」
「蓮っ!!!!思いっきり剣を振り払って!!」
「──カナン⁈」
少女の必死の声が夜に響く。
「っ、させるかぁ!!!!!」
大声で叫びながら突っ込んでくる男。
その剣幕は恐ろしいほど凄まじい。
「よく分かんないけど、振ればいいんだなぁ!!」
剣を後ろに構え、手が痛むほど強く握る。
そして迫り来る黒ローブの男の身体を目で捉え、
力一杯に剣を大きく薙ぎ払った。
──!!!!!!!!!!!!!!!──
剣から放たれたのは全てを打ち滅ぼす眩い光。
その輝きは暗い夜の橋を余すことなく照らした。
訳もわからずに瞳を閉じていたが、再び瞼を開けた瞬間には驚いて声を出すことも忘れていた。
橋の上は崩壊寸前にまで破壊され、
アスファルトの道路は大きく削られている。
生み出したのは膨大な量の土煙と瓦礫。唖然としながら辺りを見渡すが、黒ローブの男の姿はない。
「・・・倒した、のか・・・。」
自分でも信じられなかった。この手から放たれた強烈な光の斬撃を。望んだ以上の強大な力を。
「・・・凄い。」
その光景を後ろで目撃していたカナンはただ純粋に感心して驚いていた。よもや現代の少年が黄金の剣の力を引き出したことに。
「カナン、これって・・・。」
「まずは、ありがとう。貴方のおかげで助かった。」
「あ、あぁ。傷は大丈夫か?」
「えぇ。それは問題ない。蓮、貴方やるじゃない。」
「いや、もう、何が何だか、ですよ。
なぁカナン、俺、あいつを倒せたのかな?」
「たぶん逃げられた。直前で死を察知したのか、剣の光を受ける瞬間に逃げ出していたから。」
「なんだ、逃したのか」
「それでもアイツは無事では済まないよ。仮初とはいえ黄金の剣の光の直撃を受けたから、きっと重症だね。」
「そっか。俺が、やれたのか。」
「ふふ。もっと喜んだら?蓮、貴方は結構凄いことしたんだよ。」
「なんて言うか、実感が湧かなくってね。」
「そう。取り敢えずお疲れ様。もう今夜は帰りなさい。今はアドレナリンが出てるから良いけど、その怪我は立派に重症だから、ちゃんと病院に行ってね。詳しい話は後日にしましょう。・・・それに、しばらくは1人の方が良いでしょうし。」
「・・・?分かったよ。」
カナンの最後の言葉と表情に引っかかるが、
段々と身体が痛みを取り戻し始めたので
今日は大人しく帰ることにした。
「あ、そうだ。カナン、これ。」
ポケットから結晶を取り出してカナンに渡す。
なぜあの時にそうしなかったのかは今でも分からない。しかし今はそうすべきだと感じた。
「・・・色々と言いたいけど、まぁいいよ。確かに受け取った。」
カナンは結晶を胸に押し当てると、
ソレは光と共に取り込まれていった。
「それじゃあ、また。」
とりあえず、一旦の別れを告げる。
さっきまでの戦いが嘘のように橋の上は静寂に包まれている。なんだか本当に夢を見ていたみたいだ。
「──蓮!」
「──?」
「ありがとう。」
そうつぶやいた彼女の表情はとても綺麗だった。
敵意も悪意も一切感じさせない微笑み。
惰性で17年間生きてきて、初めて他人から受ける感謝というのも悪くないと思った。
その後、冷めた興奮と共に思い出した痛みと情景。
開く傷口など気にも止めずに街を走り続け、
息を切らしながら屋敷に帰宅して居間に入る。
「あ・・・あぁ・・・。」
血塗れの床に転がる死体。
そこにあったのは、紛れもない現実だった。




