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第48話「未来話・カナン」

それは最も古い少女の記憶。


小さな金髪の少女は黄金色の小麦畑に囲われた森の中にいた。そこが何処だったのか、そこで何をしていたかは憶えていない。


それでも鮮明に思い出せるのは、その場所が少女にとっての始まりであった事。




そこから少女は大人たちに連れ出されて、自然豊かな木々に囲われた場所から、大きな壁に囲われた建物へと閉じ込められた。




その頃の世界は最悪という言葉が生温いほど最低で、人間同士の醜い争いは、やがて彼らを育んだ大地を破壊し、大きく荒れ果てるまで激化していた。


国は滅び、大陸は引き裂かれ、人の歩んでいた歴史は全て燃えた。



そして終わらない戦いに決着をつけるために、いつしか人々は新たな光を求めた。


その願いが原動力となって、人々は星を削り1つの剣を作り上げた。


それが黄金の剣、ステラルクス。


その剣を完璧に扱えて、唯一適合できたのは、森から連れ出された、たった1人の少女だけだった。





それから少女は建物の中で剣を振り続けた。人々の重圧と期待を背負って。最初は訳もわからずに、大人たちに言われるがままに剣を握っていた少女だが、やがて違和感を覚え始めた。


どうして私が、こんな退屈な事をしているのだろうか。私がここにいるのは何の意味があるのだろうか。


そう思ったが最後、少女は建物から抜け出していた。



それからは無我夢中に前を走り続けた。物心ついた頃には建物の中にいた少女には、何処を目指せばいいかは分からない。


それでも微かな記憶だけを頼りに、あの場所へ。そして偶然か必然か、少女はそこに辿り着いたのだった。


懐かしい景色に興奮した少女は、光が差し込む静かな森の中を走る。そして大きな古い木の前で、思いっきり転んだ。


少女は痛くて辛くて涙が止まらなかった。しかしこんな場所で助けてくれる存在などいるはずもない。そこで孤独感が膨れ上がった少女はさらに大声で泣き続けた。


しかし幸運なことに、少女には手を差し伸べる人影がいた。


それは随分と年老いた老人だった。


その存在を少女は認識して、一時は泣き止んだが、やがて再び泣き始めた。その様子に老人は困ったように言った。


───参ったな、何でもあげるから泣き止んでおくれ。


その言葉を聞いた少女は涙を流すのを抑え、老人が首からかけていたペンダントを指差した。老人は再び困ったような表情を浮かべたが、それでも少女に差し出した。


少女はとても嬉しくて喜んだ。他人から何かを貰ったのは初めてだったからだ。


それを聞いた老人は言った。


───いいかいカナン、今度は君が誰かに託すのだよ。私との約束だ。


その言葉は少女の中に残り続けた。これから少女が未来を生きるための希望となって。






それから建物に戻った少女は、以前と変わらずに剣を握り続けた。激化し続ける戦争にも駆り出されて、数多の戦場で剣を振り続けた。


いつしかその光は戦場では崇められ、恐れられ、求められた。


それでも少女は何も迷わずに戦い続けた。なぜなら少女の光を与えられた人々は、皆笑って幸せそうにしていたから。


少女は本気でこの暗い時代を照らす希望になれると信じていた。その想いだけを頼りに、立ち止まることなく敵を斬り続けた。


その強大すぎる光が、闇のように濃い影を生み出していたことも知らずに。



混沌の時代に現れた2つの抑止力。それは2人の新人類、2つの武装、光の剣と闇の刀。



それらはお互いに衝突して拮抗していたが、やがて少女の光は眩しくなりすぎた。その圧倒的な力を糧に少女の勢力は覇権を伸ばして、世界の均衡は再び崩れ始めていた。



その膨れ上がった自信と怠慢は、着々と軋轢を生み続け、ついにはその光に影を落とした。



それは1人の天才科学者によって、膨大なエネルギーを閉じ込めた結晶が過去の時代に飛ばされた日だった。


その情報を聞きつけた敵対勢力による怒涛の強襲、その隙をついた味方であった者たちの裏切り、膨れ上がり爆発した不満と恐怖の全ては、たった1人の少女に向けられた。



少女は必死に抵抗して戦った。増大してしまった暗闇を照らすためだけに。しかし人々から返ってきたのは罵倒と軽蔑だけだった。


お前がいけない、お前のせいだ、お前がいなければ。


それでも少女は諦めずに受け止めた。これは自分の責任であり、果たすべき使命であると信じていたから。




そして激しい攻防戦が続く中、仲間の誰かが少女の名前を呼んだ。


「───カナン。」


「・・・っ!? 今、治療を!!」


その男に少女は急いで駆け寄ったが、彼はそれを拒んだ。そして男は自分の胸に鋭利なナイフを突き刺した。


「なっ・・・どうして!?」


「カナン、貴女の光は眩しすぎた。」


「───っ!?」


男はそう言い残して少女の目の前で自決したのだった。彼の目には恨みや怒りはなかったが、その瞳孔に光はなかった。



その言葉を聞いてしまった少女は、そこで初めて立ち止まり、それが彼女の運の尽きとなった。



一瞬でも剣を鈍らせた少女は、敵から容赦なく斬られ、味方から見捨てられた。

 


そして深い傷を負った少女は、それでも彼女を慕う者たちと共に戦い続けた。




そして始まりの森に逃げ落ちた少女は気がついた。


その輝きが弱まったからこそ、ようやく初めて認識できたのだ。


この眩しすぎた光によって目が霞んでいたのは、自分であったことに。目の前の暗闇を照らし続けて、見えなくしていたのは、この剣であったことに。


どれだけ世界を照らそうとも、それに伴って影は生まれ続ける。


それは永遠に終わらない連鎖、この愚かな戦争と同じ。


カナンの信じていた想いとは、初めから無意味なものであったのだ。


「・・・っ。」


それを悟っても悔しくはなかった、悲しくもなかった。ただ虚しかった。もう全てがどうでも良かった。


そして薄れゆく意識の中、カナンは一か八かで過去に飛ぶのだった。今度こそは約束を果たすために。



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