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第47話「江古田蓮という人間」

少年は淡々と語った。父の死の原因となった自分の存在と、それを経験してからの日々への虚しさ。


「たぶん俺は憧れてたんだろうな。最後まで笑っていた父の姿に。」


「憧れてた?」


「俺は自分を持っていない弱い存在だからこそ、強い人間に惹かれるし、そこから補おうとする。この乾いた笑顔、飲み慣れた珈琲、豪快で気前のいい振る舞い、慎ましくも冷静な態度、全てが人からの借り物だ。」


「・・・」


「あ、悪い。こんな情けない話をするつもりはなかったんだけど。ダメだな、やっぱり上手くいかないや。本当に、俺って・・・」


やはり過去のことを思い出すと気分が沈む。あの当時は良かったが、数年経って成長した今の自分からすると、あの踏切での記憶は苦々しくて辛いものだ。


「ふふ、ふふ。」


それでも少女は笑っていた。俺の情けなく腐る姿を見ていても。


「・・・えーと、笑うほどだったか?」


「いえ、ごめんなさい。何だか納得がいったというか、腑に落ちたというか。」


「え?」


「私、初めて貴方のことを理解できた気がする。」


「・・・」


「思えば出会った時から疑問だったの。その不安定な人間性、どこか冷めているのに適応力がある精神。それでも情熱的で普通であろうとする在り方。そう、そうだったのね。・・・ねぇ、蓮。」


「?」


「貴方は弱い人間なんかじゃないよ。その弱さを自分で分かっているのは、貴方が強い存在である証拠。誰に影響されようとも、貴方は貴方なのだから。本当に蓮は優しい人なんだね。」


「・・・それは、どうも。」


何だか照れて恥ずかしくなってきた。こうも正面から美少女に励まされると、男としては舞い上がってしまうのも仕方がない。


たとえそれが世辞であろうとも、嬉しいものは嬉しいのだ。自分の存在を認めてくれる他者というのは。


これは予想以上に想定外だったな。まさかこっちが救われた気持ちにさせられるなんて。


「まぁ、俺の話なんてこんなものだよ! 君の背負っているものに比べたら、本当に小さなことだ。」


「そんな事は・・・」


「カナン、君の臣下にも色々と聞かされたんだ。俺が知らないカナンのこと、剣のこと、未来のこと。俺はそれを知る必要がある。それを聞く覚悟がある。」


「・・・っ。」


「カナン、教えてくれ。君の全てを。」


こんな惨めな男でも、今の君は受け止めてくれたのだから、あの日、橋の上で君の光が俺を救ってくれたのだから。


「必ず受け止めてみせる。俺だけは。」


俺が真っ直ぐにカナンの顔を見つめると、今度は少女も目を逸らさなかった。


「・・・蓮、少し、歩かない?」



そして少女は静かに立ち上がった。己の過去と向き合い、それを少年に打ち明ける為に。









それから蓮とカナンは歩幅を合わせてゆっくり歩いた。いつの間にか駅前の店からは遠く離れ、日が沈み始めた海岸までたどり着いた。


「・・・綺麗な海・・・初めて見たなぁ。」


「そうなの?」


「うん、私のいた場所では、こんなに美しくはなかった。」


少女は迷っていた。自身の暗い未来を少年に話すべきかを。


それを少年が知ってしまえば、忌避されて離れていきそうで怖かった。


もう覚悟を決めたはずなのに、やはり少女は恐れてしまっていた。


「それなら良かったね、こんなにいい時間帯の海が見れてさ。」


「・・・そうだね。」


少年は真っ直ぐに海を眺めていたが、少女の瞳には初めて見た海よりも、隣で佇む彼の横顔だけが映っていた。


少年は決して急かさずに、少女が自分から話すのを待ち続ける。


それが彼の優しさであり、彼という人間の強さだ。

そういう気遣いが少女には嬉しくて、愛おしくて、堪らない。


「・・・ふふ。」


そしてカナンは少年に気づかれないように、静かに小さく微笑んだ。



彼女が戦場で生きてきた年月に比べれば、少年との日々というのは、ほんの僅かな期間にすぎないが、それは少女の気持ちを変えるには十分すぎる時間だった。



かつて少女がセキにだけは吐露してしまった本当の気持ち。


あの日、廃墟で少年が包み隠さずに告白してくれた、少女の剣としての覚悟、戦う理由。


その夜からすでに決まっていた少女の本心。


「───蓮。」


名前を呼ばれて振り返る少年の顔を見つめ、ついにカナンは、その心と向き合うことを決意した。


────私は、江古田蓮を好いている。未来の戦場で生きてきたカナンとしてではなく、この時代で彼と共に生きたカナンとして。



少年に全てを話した時、たとえ彼がどのような選択を取ろうとも、その気持ちだけは伝えられるように。



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