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第45話「交差する逢瀬(続)」

カナンと並んで街を歩く。やはり謎の緊張感がお互いに解けないが、それでも平静を装って普段通りに会話を続けながら目的地を目指す。最初の行き先は駅前にあるコンサートホールだ。


「───それで、どういう内容なの?」


「普通のコンサート兼マジックショーみたいな。セキが勝手にチケットを予約してたから、あまり詳しくはないけれど。」


「それは結構楽しみかも。ふふ、セキも良いもの残したね。」


「はは、そうだな。カナンはそういうの好きなの?」


「えぇ。この時代の文化的な催し物には興味があるかな。そういうの、未来では見たことなかったし。あ、でも、まぁ、普通かな。」


「そっか、じゃあ楽しめるといいな。」


カナンは平然とすまし顔をしているが、仮にも長い間同居している俺には分かる。これは相当楽しみにしてくれている。


その声色、話し方、間の取り方、細かい仕草。残念ながら、その好奇心を抑えきれてはいない。


それでも本人は取り繕った笑みで全てを包み隠そうとする。別に隠す必要もないし、個人的にはカナンのそういう所が良いのだが。


それもまた少女の人間性であり、魅力なのだろう。




「あ、会場が見えてきた───って、なに!?」


視界に入ったコンサートホールの方を指差すと、急にカナンに袖を引っ張られる。


「ほら、時間もないし早く行こ!!」


そう急かす少女の青い瞳は宝石のように輝いていた。どうやらこれ以上は待ちきれないらしい。


「・・・そうだな。」


俺は少しだけ呆れながらも、そんな少女の健気な様子を嬉しく思い、笑いながら2人で走り出すのだった。









それから数刻後、壮大なコンサートは拍手喝采と共に幕を閉じた。


マジックショー自体も大変面白く、世界的に有名な奇術団の見せる様々なマジックと演出には感動すら覚えた。


特に灰髪の男性のマジックは素晴らしく、そこからは確かな自信と誇りが伝わってきた。



「───本当に面白かったね!! 私なんて最後までドキドキしてたよ!!」


「あぁ、俺も普通に感激したよ。ここ最近は特異な体験ばかりしてから、正直あまり驚かないと思ってたのに。」


「ふふ、蓮らしい。けど私も想像していたより面白かったし、何だかもっと見たかったかも。」


「それならさ、また2人で見にこようか。」


「・・・そうね。」


カナンは遠くを見つめながら微笑んだ。その横顔は初めて会った時から変わらず、とても儚くて美しいものだった。







その後もお互いの感想を話し合った俺たちは、コンサートホールの近くのカフェで昼食を摂ることにした。


落ち着いた雰囲気の店内には女性客が多く、男の俺は少し肩身の狭い気分だ。


「───ねぇ、それ、私も飲んでみてもいい?」


「え、いいけど。」


俺は戸惑いながら口をつけた珈琲をカナンに渡す。そして次の瞬間、さらに驚かされた。目の前の少女は躊躇いなく珈琲を飲んだからだ。


同居してからも頑なに水しか飲まなかったのに、何か心境の変化でもあったのだろうか。


「・・・珍しいね、カナンが珈琲を飲むだなんて。」


「いつも蓮が美味しそうに飲んでいたから、どんな味か知りたかったの。・・・ふふ、珈琲ってこんなに苦いのね。」


「やっぱりカナンの口には合わなかったか?」


「そうね。でも嫌いじゃない。」


カナンは苦そうな表情を見せながらも、なぜか嬉しそうに笑う。その飾らない笑顔はとても眩しいものだった。


「まぁ俺も小さい頃は苦くて飲めたものじゃなかったし、たぶん段々と慣れていくものだからな。」


「どうして苦いのに飲み続けたの?」


「・・・・・・きっと父さんの影響かな。」


その存在を自分で口にして嫌な記憶が蘇ってきた。あの男には良い思い出なんて一つもないのに。


「そういえば、蓮のお父さんってどんな人だったの? あまり貴方の口から聞いたことがなかったのだけど。」


「それは・・・」


「あ、ごめんなさい、話したくないのなら別に───」


俺の僅かな表情の変化を読み取ったのか、カナンは申し訳なさそうに慌てて視線を左右に揺らした。


「いや、いいんだ。ただ、あまり良い思い出はなくて。・・・でも、そうだな。カナンには聞いてほしいかもな。」


「───え?」


「カナンには俺のことを知って欲しいし、俺はカナンのことをもっと知りたい。だからさ、俺も話すから、カナンも話してくれないか? 俺が知らない、未来での君のことを。」


「・・・」


少女は明らかに思い悩む素振りを見せて沈黙した。それほど彼女は自分のことを他人に話したくないのだろう。いや、もしかしたら俺にだけかも知れないが。


それでも俺は引き下がるわけにはいかない。ただ待つだけが信頼の証ではないことを彼らから教わったから。


「「───っ。」」


不安そうな少女と目が合うが、俺は視線を逸らさずに真っ直ぐに見つめ続けた。


そしてようやくカナンは静かに口を開いた。


「・・・分かった。私も、私の知らない貴方のことを知りたい。この気持ちには、嘘はないから。」


視線を落とす少女は声を振り絞りながらも、彼女なりの誠意で答えてくれた。


「・・・そうか。」


ならば俺からは正直に話すだけだ。今の俺を、江古田蓮という人間を構築した全てを。



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