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第44話「交差する逢瀬」

そしてカナンの臣下と名乗る青年は静かに口を開いた。


「・・・少し誤解していた。君は他の担い手とは違うみたいだ。」


「え?」


「気になるのなら、カナンから直接聞くといい。大人しく待っているだけが最良の剣であるとも言えない。」


「貴方は・・・」


「私はただの臣下だよ。それ以上でも以下でもない。だからこそ君には、少なくとも黄金の剣には選ばれた君には理解して欲しい。あの暗い未来にはカナンが必要なんだ。」


そう呟く青年が一息ついた頃、その身体は光を浴び始めて消え始めた。


「───これかい? 思いの外、君の剣の威力が凄まじくてね。無駄なエネルギーを消費してしまった。」


青年は黄金の剣(ステラルクス)を掴んで焦げた右手を見つめる。その手も徐々に消えかかっていた。


「そう、か。」


「あ、それでも誤解しないでくれ。その剣の本当の力はそんなものではない。それはカナンにしか扱えない光だ。・・・まぁ恐らくカナンは使わないだろうけど。」


青年の含みのある言葉は止まらずに続く。それはまるで俺がカナンと向き合って話すことを誘っているような口振りな気がした。


「・・・カナンには、会わずに帰っていいのか?」


「あぁ、もう会ったよ。」


「え?」


「その時に君のことを話したんだ。だから帰る前に一目だけでも君を見ておきたかった。」


「・・・はぁ、それなら急に襲わなくても。」


先ほどまで問答無用で襲ってきた迷惑さはどこに行ったのだか。青年の態度の過度な温度差に、つい本音が漏れてしまう。


「ふっ、君のことを試したかったのさ。悪く思わな──────もう時間か。仕方がない、江古田蓮(えこだれん)、最後に君に忠告しておく。」


「?」


「あの方に待つ未来はきっと変わらない。だからカナンのこと、頼んだよ。」


そして青年は軽く微笑みながら姿を消した。最後まで己の主の身を案じて。


俺は手に握る黄金の剣(ステラルクス)を見つめると、瞬時に光の粒となって跡形もなく消えた。その原理は全く分からないが、恐らく元の場所に戻ったのだろうか。


「・・・はぁ。」


そして公園で独り、重いため息を吐いた。唐突に襲ってきて消えていった、カナンの自称部下。彼が残した言葉は腑に落ちずに複雑な気分だ。


やはり俺は知らなくてはいけないのだろうな。あの光を盲目的に信仰しない為にも、これからも彼女と対等に歩むためにも。














頭の中では絡み合う疑念、疑心。それらを抱え込みながら、日が沈み始めた頃には屋敷に帰宅するのだった。


血は止まったが未だに痛む頭部を押さえながら、やや乱暴に明かりのついた玄関の引き戸を開けると、カナンが心配そうに出迎えてくれた。


「ただいまカナン。」


「・・・蓮、本当に無事で良かった。一体誰に襲われたの? まさか───」


「なんか、黒髪一つ結びのコートの人。好青年って感じの。カナンの臣下とか言ってたけど。」


「・・・そう、それは確かに私の臣下だよ。・・・ウェルトル、全く何を考えて。」


そこでカナンは緊張が解けたのか、そっと胸を撫で下ろした。その様子からも、彼女が本気で身を案じてくれていたのが分かる。


それは剣の所持者としてか、仲間としてか、同居人としてか。それとも、別の感情か。


今の俺には何も分からない。ここまで共に死戦を潜り抜けて尚、俺は彼女のことを何も知らない。


「やっぱりカナンが剣を送ってくれたんだ。はは、お陰様で命拾いしたよ。」


「・・・ごめんなさい。」


「え?」


「私が軽率だった。貴方が危険な目に遭う事も分かっていたのに、肝心な時にそばにいないなんて。」


「いや、それは俺だって───」


「そうだ、学校の方は、しばらく休んでもらえる? やっぱり距離があると、色々とデメリットが多すぎる。」


「それは別にいいけど。」


「うん。これからはお互いに離れずに行動しましょう。何か質問は?」


「・・・あ、それなら一ついいか。」


「───なに?」


「明日さ、デートしようか。」


「・・・・・・・・・・・・え?」





少年の恐れ知らずの爆弾発言を前に、カナンは完全に思考停止して、その場に絶句して立ち尽くす。


一方で少年は何も気が付かずに笑っている。その能天気な姿を見て、さらに追い打ちをかけられる少女であった。








そして月は沈んで夜が明け、俺は何事もなく澄んだ朝を迎えた。


玄関の鏡の前で、普段よりも気を使って身だしなみを整える。


古びたジャケットを着込み、おろしたての靴を履く。

銀の月のネックレスを首からかけて、服の中に隠す。


「───よし、準備万端、だけど。」


俺は今更になって気が引けてきた。今になって思い返すと、昨夜の俺はなんて阿保な思考をしていたのだろう。


確かに午後の学校を抜け出して公園で黄昏ていたら、遠慮ない急襲を受けて、頭を打った事もあるが、それにしても馬鹿すぎる。


もっと遠回しな表現で誘えば良かったのに、あんな・・・あぁ、思い出したら胃が痛くなってきた。


「・・・はぁ。」


もう俺には頼れる同居人の少女も、傭兵の男もいないのに。


「───ごめん、お待たせ。」


玄関で独り情けないため息を吐いていると、廊下の奥からカナンがやってきた。


「・・・っ。」


「えっと・・・何かな?」


「あ、いや、何でも。」


ついカナンと目が合ってしまった。少女も気まずそうに目を逸らす。


その仕草に目を奪われたのは言うまでもない。


灰色のニットに濃紺色のプリーツスカート、薄茶色のショートブーツ。普段は後ろで結んでいる髪は自然と下ろしている。


上品さを感じる服装、いつもとは違う少女の姿を見て、より緊張してきてしまった。


「・・・」


「・・・」


お互いに目を逸らして黙り込む。玄関に静寂の時が流れる。


しかし俺だって情けない姿を晒すわけにはいかない。彼らの助けがないのならば、俺はそれを補うだけだ。


あの男のように豪快で笑顔に、あの少女のように聡明で気さくに。


「・・・それじゃあ行こうか、カナン。」


ただ自然に微笑んで、目の前の少女に手を差し出す。


「・・・うん。」


そしてカナンも微笑み頷いて、戸惑う事なくその手を取るのだった。



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