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第43話「激突、剣と拳」

その後、しばらく俺は小林美佳と図書室で談笑してから、彼女に勧められるがままに、午後の授業を抜け出していた。


別に美佳や次郎のような不良生徒になる気はない。それでも今日は少しだけ休みたい気分だったのだ。


「・・・」


そして俺は大きな噴水のある公園に来ていた。その場所の隅の木陰にあるベンチに深々と座る。


平日の昼間ということもあり、驚くほど人はいない。


ここでは連日連夜、4人で死者狩りをしていた思い出深い場所だ。


都市の騒がしい喧騒とは無縁の静寂な空間。聞こえてくるのは噴水の流水音と風に揺らされる木々の靡く音だけ。


何だか1人で落ち着ける時間も久しぶりだった。ここにいると時間の流れが遅く感じる。


「───すみません。」


その時、独り静かにベンチで俯いていると、見知らぬ青年から声をかけられた。


ゆっくりと前を見上げると、そこには短く乱れた黒髪と、後ろの毛を一つ結びにした男がいた。その身には古びた灰色のコートを羽織っている。


「何でしょうか?」


「私はこの街には不慣れで、道に迷ってしまいまして。よろしければ案内していただきたいのですが。」


「・・・えぇ、いいですよ。それで、一体どこに?」


「・・・です。」


「───え?」


その瞬間、俺は反射的にベンチから飛び出していた。なぜか本能が逃げなければ危険と判断したのだ。


そして結果的には正しい選択だった。俺が一瞬で離れたと同時に、木のベンチは轟音と共に粉砕されてた。あり得ないほどの殺気を込めた青年の手によって。


「っ!?」


「まぁ避けるか。次は必ず消し炭にしてやる。」


「おい、ちょっと待て、何のつもり───」


「黙れ!!」


「くっ───」


青年は白昼堂々と問答無用で襲ってくる。完全には感知する事はできないが、その両手には高密度なエネルギーが集まっている。その集積された熱量からか、青年の手は空間を歪ませて煙を上げている。


───これは一発でも食らったらまずい! その拳を生身で受けたら、あのベンチのように俺の身体が爆裂するだろう。


「───っ!」


青年の猛攻を寸前で避けて捌き続ける。とにかくその手には触れるわけにはいかない。


「いいから一旦止まれって!」


「黙れ!!」


「っ、お前が黙れよ、っ!!」


公園の木々の影に隠れるように逃げるが、

コートの青年は一向に聞く耳を持たず襲い続けてくる。その理不尽さに段々と腹が立ってきた。


「どうした! 君は逃げるだけなのか!?」


「───このっ!」


「もういい、やはり君は偽物だ!」


「───っ!」


青年の動きが更に加速して、一瞬で間合いを詰められる。


「ここで消えろ!」


その一切の加減のない拳が目の前に迫る。それは死を予感させる純粋な脅威。そして俺は無意識のうちに叫んでいた。


「───カナン!!」


その声に呼応するように振動する空気と大地。それでも青年は躊躇わずに拳を伸ばした。


「っ!?」


そして彼の強靭な一撃は、この世で最も頑丈な剣によって相殺されて防がれた。


「なんで、黄金の剣(ステラルクス)が・・・」


「───ちっ、何を驚いている。君は今、その剣の担い手なのだろう?」


「は? 何言って───っ!?」

  

突如として出現した黄金の剣を手に取ると、それでも青年は真っ直ぐに襲ってきた。


光る剣と熱を持った拳が衝突して火花が散る。


「その程度の輝きしか引き出せないなんて、やっぱり君には相応しくないな。」


「・・・そうかよ、なら見せてやるよ。」


この安い挑発に思わせぶりな口振り。もしやカナンの関係者かも知れないが、今はどうだっていい。こいつには俺の出せる全力をお見舞いしてやる。


「───っ。」


黄金の剣(ステラルクス)を強く握りしめ、その剣身に光を集積させる。この昼間でも目を覆うほどの眩い光。それは一欠片の曇りもない純粋な輝き。


それを肩よりも高く掲げて一気に振り下ろし、全てを照らす光の斬撃を解き放った。


「───ふっ。」


しかし青年は恐れずに笑い、その身に光の斬撃が届く前に接近して、黄金の剣(ステラルクス)の剣身を片手で掴んだ。


「!?」


それはあの夜にブライスが見せた行動の再現のようだった。ならばあの時と同じように、俺はその腕を破壊するだけだ。


「───っ、どうして!?」


俺は全力で剣を振り下ろし続けるが、青年の腕は一向に破壊されず、その手からは焦げた匂いと大量の煙を上げている。そして黄金の剣(ステラルクス)は完全に静止した。


「ほら、未熟だ───なっ!!」


青年は右手で剣を掴んで固定させたまま、即座に左手を繰り出してくる。それは俺の胴体を正確に貫く勢いだ。


「───ぐっ!」


青年から剣を引き抜いて距離を取ろうとするが、その掴んだ右手は微動だにしない。またしても俺は一手遅れた。


「終わりだ!」


「───っ!!!!」


だが皮肉なことに俺はそれも経験している。今日まで必死に戦ってきた全ての戦歴が今の俺を支えている。




そして俺も即座に剣から手を離し、前に倒れるように飛び込んで、青年の脳天目掛けて頭突きした。


「「──────ぐぁっ!!!!」


頭蓋骨が衝突し合う鈍い音と痛みが激しく脳を揺さぶり、お互いに平衡感覚を保たずにその場に倒れ込む。


「・・・なんて・・・卑劣な・・・」


「・・・うる・・・せぇ、戦いは・・・勝者が・・・正義だって、英雄も、言ってたぞ。」


頭から血を流しながら、不安定な姿勢のまま剣を持って立ち上がる。まだ視界が揺れていて意識が定まらない。それは向こうも同様だった。


「はぁ・・・はぁ・・・ブライスか、あんな裏切り、者。」


「・・・貴方は、ブライスの・・・いや、カナンの敵か?」


「違う、私はあの方の、臣下だ。・・・君は、カナンの隣には相応しくない。」


「俺のことを知らないくせに、随分な物言いだな。」


「君のことは知っている。事前に調べたからな。そして君は何も分かっていない。カナンの背負うものの重さも、その剣の真なる輝きも。」


「何だよ、それ。」


「それを知らないのはカナンが君に話さないからだ。君がカナンに信頼されてないからだ! 現に私の存在だって聞かされていないのだろう?」


「・・・それは。」


「そうさ、カナンにとって君は所詮その程度の人間なんだ。だからもうその剣を置いて───」


「どうでもいいよ、そんなこと。」


「───は?」


「だからさ、俺にとってはどうでもいいんだよ。カナンが何を背負っていようが、何を思っていようが。俺は彼女の剣として、彼女のためだけに戦うだけだ。」


「例えそれが君の未来を終わらせるとしてもか?」


「・・・それでも構わない。」


しかし本音を言えば、カナンに聞きたい事など山程ある。特にブライスが言っていた事も気になるし、未来での彼女が何を見てきたかを知る必要が、俺にはあると思っている。


だがそれは俺が焦ることじゃない。それが避けては通れない道だとしても、少なくともカナンから話してくれるまでは待てる。なぜなら俺は彼女を信頼して共に戦うと誓ったのだから。



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