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第42話「その縁」

そして今日も退屈な時間は過ぎ去り、俺は待ち望んでいた昼休みを迎えた。普段なら教室か屋上に行って昼食を摂るが、今日だけは真っ直ぐに図書室に向かっていた。


それが無駄な行いである事は分かってはいるが、どうしても確かめずにはいられない。それが人間というものだ。


「・・・はぁ。」


図書室の扉を勢いよく開き、必死に部屋の中を見渡したが、やはり誰もいなかった。


その現状に落胆はしたが苦しみはなかった。そこに淡い期待を持つ方がおかしいのだ。あの少女はもう帰ってしまったのだから。


「・・・」


セキが本を読んでいた木の長机に触れる。そこに少女はいないのに、不思議とその温もりが残っているような気がした。


「失礼しまーす! セキ、戻ったか〜!」


「───!?」


その時、静寂の図書室には騒がしい乱入者が現れた。その姿は長身茶髪のショートヘア。セキの友人であった女子生徒だ。彼女の顔を間近でよく見ると、その存在にも一応の心当たりはあった。 


名前は確か、小林、美佳。弓道部の有名人だ。そういえば次郎のお気に入り美女リストにも入っていた気がする。


「あれ、ごめん、人違いだった。おっかしいな、アイツが図書室にいない日なんてなかったのに。」


女子生徒は不可解そうに首を傾げた。彼女も消えた少女の姿を追いかけてきたのだろうか。


「・・・もしかして、セキに会いに来たの?」


「そうだけど、あんた何?」


「あ、えっと、俺は江古田蓮だけど。」


「それは知ってるよ、あんた顔広いし。そうじゃなくて、セキとどういう関係かって聞いてんの。」


「・・・あぁ、そう、だな。友達だ、セキの友達。」


「それ本当? なーんだ、アイツも他に友達とかいたんだ。」


「まぁ、意外といたと思うよ。」


「へぇ、随分詳しいじゃん。それならセキのこと見なかった? アイツ、図書室の妖精じゃん? それなのに今日は見当たらなくてさ。」


・・・妖精って。まぁ素性の知れない生徒が毎日図書室にいれば変な印象を持つものか。それにしても、セキは一体何を考えて現代人の彼女と関わっていたのだろう。無関係の人間との不用意な接触は、未来人にとってリスクしかなかったと思うのだが。


「いや、セキはもう此処には来ないよ。」


「え、どういうこと?」


何も事情を知らない彼女に事実を伝えるか迷ったが、仮にもセキの友人であったのなら、それを知る権利はあるはずだ。


「その、昨日のうちに遠くに引っ越したらしくて。だから、もう会えないって、言ってた。」


少し脚色はしたが、実際こんな所であろう。彼女には申し訳ないが、その身の安全のためにも詳しい情報を話すわけにはいかない。


「・・・そっか。残念だな。せっかく仲良くなれたのに。・・・まぁ、そうだよな。」


「・・・なんか、受け入れ早いな。」


「だってさアイツ、いつもフラッと消えそうな雰囲気あったじゃん。なんて言うか、幽霊みたいに存在感が薄かった気がするし、アイツの目、いつも遠くを見てた。今を生きていなかった。」


「確かに、そうかもな。」


俺は素直に感心してしまった。彼女は何も事情は知らずとも、いつか消えるセキのことを理解していたのだ。それは俺にはなかった覚悟だ。



「むしろアンタは引きずりすぎ。」


「え?」


「辛気臭い悲壮感が顔に出まくってるよ。もしかして最後にセキから恨み言でも言われたの?」


「いや、逆に感謝されたというか。」


「ならウジウジしてないで堂々としなよ。人の縁なんて脆いもんなんだから。」


小林美佳は一切の迷いなく答えた。その様子からも伝わってくるが、彼女は他人に左右されない自己を持った、真に強い人間だ。何にでも影響される俺とは違う人種だ。


だからこそ、彼女のような存在に励まされると、自然と気持ちが軽くなってくる。



「はぁ、すごいな小林は。」


「美佳。」


「え?」


「私のことは名前で呼んで。セキの友達だったのなら尚更。友達の友達は友達ってね!」


「・・・あぁ、俺も蓮でいいよ。よろしく美佳。」


「うん、よろしく。あ、たまには図書室に来いよな。1人で授業サボるのもつまらないし、アイツの話も聞きたいしさ。」


「はは、努力するよ。」


こうして俺には新しい友人ができた。

美佳の言う通り、俺たちは今を生きているのだから、突然と終わってしまう関係もあれば、そこから始まるものだってある。またこれも何かの縁なのだろう。


だから俺はもう恐れるのをやめた。


それはセキとの別れを経験したことで再認識してしまった、いつか訪れるであろう、もう1人の少女との別れ。


その恐ろしい未来に直面した時、俺は揺るがない決意と覚悟を決めなくてはいけないのだ。



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