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第38話「2人の時間」

夕焼け空の下、学校帰りの寄り道としてセキと2人で商店街を歩く。


あれは校舎を出る際、帰り道で何か買ってあげるよ、と口を滑らしたばかりに、少女は朝の憂鬱さが嘘のように活力に溢れ、容赦なく俺を振り回していた。


「蓮さん蓮さん、あれも欲しいです!」


「・・・」


こちらの乏しい金銭事情などセキは一切気にしない。少女は目に入る全ての店という店に入り込んでは値段も見ずに商品を抱えて渡してくる。


正直その曇りのない笑顔だけでは割に合わない損失だ。


「あ。これもお願いします!」


「・・・」


商店街に来て凡そ数十分、既に俺の財布の中身は空っぽだった。セキの好奇心と物欲を舐めていたのは否めないが、この少女にはもう少し遠慮というものを、これを機に学んでいただきたい。





「───そういえば蓮さん、今日は随分気が利きますね。こんな贅沢を許してくださるなんて。」


それは商店街の隅の本屋に訪れた時だった。やはり俺の気遣いが珍しく分かり易かったのか、セキは不思議そうに聞いてくる。



「・・・まぁカナンに言いつけられた事もあるけど、これは昨夜の戦いで大活躍したセキに対する、俺なりのお礼ってやつだよ。もっと端的に言えば報酬、いや褒美かな。」


「・・・やはりそうですか。・・・それを聞くと申し訳なくなってきますね。」


「え?」


セキは手に取っていた本を商品棚に戻した。そして気まずそうに自分の短い黒髪に触れる。



「私は私の役目を果たしただけですから。それに最後の方は完全に意識を失ってお荷物状態になっていましたから、面と向かって褒美を受け取るのは気が引けます。」


「お荷物って・・・」


「むしろ元々敵対していた私が途中で見捨てられなかっただけ、私の方こそ感謝すべき事ですから。」


「・・・そういうものか。」


「はい。」


俺からすれば気にする必要もないと思うことだが、こう見えてセキは義理堅いし、常に損得勘定を基準に人と接する節がある。それは未来人としては彼女の長所でもあり、普通の対人関係からすれば短所であるだろう。


こうして誰に対しても丁寧に接する少女は、また常に一定の距離を保とうとするのだ。


ならば俺が少女から逃げる訳にはいかない。今日こそは俺から引くわけにはいかない。


「・・・ははっ!」


「───?」


きっとアイツなら、こう豪快に笑いながら胸を張って、何も気にせず自分から一歩踏み込むはずだ。


「じゃあ、これは昨日の分だけじゃなくて、今まで全ての分の礼だ。」


「───え?」


「最初こそ俺はセキに殺されそうだったけど、今日まで俺が生きてこられたのもセキのおかげだ。」


「・・・」


「だからさ、もう敵だった事なんてどうでもいいから。共に戦う仲間として、これからもよろしくって事で、はい。」


俺はセキが戻した本を手に取って、こちらを見つめる少女の目の前に差し出した。



「・・・ありがとう、ございます。」



セキは少し照れくさそうにして本を受け取る。その顔は彼女の黒い髪に隠れて見えなかった。






そしてセキの買い物を終えた頃には日は沈み、空は暗くなっていた。商店街からは段々と行き交う人々の騒めきも減り始めている。


「もう時間も遅いし、せっかくだから今日は外食にしようか、まずはカナンにも連絡して・・・」


「いえ、今日は家で夕食にしましょう。そうですね・・・ブライス送別会も兼ねて、今夜は3人で鍋を作りましょうか。」


「うっ、そうか、じゃあそうしようか。」


「ふふ、大丈夫ですよ蓮さん、今度は失敗しませんから。」


「やっぱりアレは失敗だったんだな。」


「当たり前ですよあんな闇鍋。あ、今だから白状しますけど、大部分の調理を担当したのはカナンですからね。」


「・・・カナン。」


俺は鍋の前で誇らしげにする金髪少女の姿が思い浮かんだ。本当に彼女は外見も中身も完璧な美少女なのに、どうしてマトモな味覚だけは持ち合わせていないのだろうか。やはり鍋と聞くと嫌な記憶しか蘇ってこない。


そして今宵の英雄は不在、最初こそ文句を言いながらも、結局は誰よりも率先して闇の鍋を毒味してくれたあの男はもういない。よって今夜は覚悟を見せられるのは俺しかいない。


「ふふふ。」


セキが上目遣いで愉快そうに笑いかけてくる。今から想像すると胃が痛くなってきたが、これは楽しい夕食になりそうだ。



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