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第35話「学校へ」

そして俺たちは3人で朝食をとった。いつも通り他愛もない会話をして、時々セキとカナンの様子を伺いながら食事を進める。あの廃墟の激戦の後とはいえ、一度終わってしまえば普段と変わらない朝が訪れる。


「───え?」


「だから、私も行きますから早く支度してください。」


それは朝食を済ませた後だった。かなり大きな戦いの直後という事もあり、せめて今日くらいは学校を休もうかと思っていたが、それに異を唱えたのはセキだった。


「いや、俺はともかく、セキは休んだ方が───」


()()()()()()。」


「・・・」


その言葉を強調する少女は既に制服を着ている。その意気込みからも、今日は何があっても学校に行く気なのだろう。それに加えてカナンもセキを援護するように追撃を畳み掛けてきた。


「そうね。蓮、セキの言う通り、学校には行った方がいいよ。」


「え、でも、もうこの時間だと遅刻───」


「蓮、遅れるからって学校を休むのは良くない。家には私がいるから、今日もセキと一緒に学校に行ってきなよ。」


「だそうです。」


「・・・はぁ。分かった。着替えてくるから先に玄関で待っていてくれ。」


「───はい!!」


そしてセキは元気よく部屋を飛び出した。もしかして未来の方々は疲れを知らないのか、それとも一晩中寝たことで回復したのか。


正直なところ肉体的にも精神的にも無視できない疲労を感じていたので、個人的には学校を休みたかったが仕方がない。彼女たちの決定は絶対だ。それほど屋敷での俺の立場は日増しに弱くなっている。


それに対して苦情を言っても無駄なことは理解しているので、もう無意味な抵抗は諦めて、俺はため息を吐くのだった。


「───蓮。」


「───?」


自分の部屋で着替えを済ませると扉の前にはカナンが立っていた。いつも見送りなら玄関か門の前だろうに、一体どうしたのだろう。


「どうしたカナン?何か用?」


「・・・その、ブライスの事についてなのだけど。あの時、蓮は彼と何を話していたの?」


「・・・別に、くだらない話だよ。」


「・・・そう。」


少し不満そうに視線を落とすカナン。廃墟から屋敷に帰って来た時にも聞かれたが、やはり俺には詳細を話すことはできなかった。


最初からブライスが裏切っていた事など、ましてカナンの命と剣を狙っていた事など。今の俺に話せるわけがない。


少なくとも彼女だけには、傭兵が話した暗い真実を知ってほしくないのだ。どれほど強くて眩しい少女でも、それを聞いたらきっと悲しむだろうから。


「・・・それじゃあ、行ってくるね。」


「あ、蓮!」


「───なに?」


「今日は・・・セキに・・・優しくしてあげてね。」


「? あぁ、分かったよ。」


そう言うとカナンは自分の部屋に去っていった。その意図はよく分からないが、セキは昨夜の戦いの功労者でもあるから、今日ぐらいは気遣えという事だろうか。


 


「お待たせ、セキ。」


革の学生鞄を背負いながら玄関に向かうと、セキは静かに式台に腰掛けていた。その儚げな姿からは反応が返ってこない。


「・・・セキ?」


「・・・・・・あっ、はい! それでは行きましょうか。」


「・・・うん。」


何か考え事でもしていたのだろうか。何でも口に出すセキにしては珍しいと思ったが、それは学校に向かっている間も同様だった。


普段よりも口数が少なく、何事も反応が薄い。それでも元気そうではあるので、体調が悪いわけではないのだろう。


何というか、心ここにあらず、という感じだ。






「じゃあ、また放課後。」


「はい、今日も頑張ってください。」


いつもより若干遅い時間に校舎に到着してから、俺は教室へ、セキは図書室へと分かれた。


ゆっくりと離れていく少女の後ろ姿を眺める。その足取りは少し重そうだ。やはり何か悩んでいるのだろうか。


今朝はカナンにも優しくしろと言われたので、今日ぐらいは学校帰りにセキが欲しいものを買ってあげようか、予算無制限で。


「ヨシっ!!」


そう決心した俺は覚悟を決めて、授業中の静寂な教室の扉を開けるのだった。









そして退屈な授業を何とかやり過ごし、担任の教師から無事に遅刻認定を取得して昼休みを迎えることができた。


「江古田くん、今日は特に遅かったね。どうしたの? 寝坊?」


隣の席の鈴木さんが鞄から弁当を取り出しながら微笑んでくる。たった1日しか経過していないのに、何だかすごく久しぶりの感覚だ。


「そんな所かな。」


「はっ、相変わらず不良生徒だなお前は〜。」


「うるさいぞ次郎、そっちこそ人のこと言えないだろう。」


「俺は良いんだよ俺は。自由に生きるのがモットーだからな。それでいて成績も良いときた。」


「嘘つけ、何だそれ。」


この男は遅刻欠席早退の常習犯だから説得力が皆無だ。この前の中間試験も俺と同様に悲惨な結果であったことを知っている。


「それよりもよ、今日の朝ぐらいはニュース見たか?」


「いや見てないが。」


「なんだよ見とけよ。」


「・・・それって、これの事だよね?」


鈴木さんが携帯の画面を見せてくる。そこには街外れの廃墟の団地で謎の遺体の大量発見と報道されていた。


さすがに今回ばかりは数が多すぎた。俺とカナンで協力して片付けたが、恐らく見つかったのは処理しきれなかった死者の残骸だろう。


「そうそれ、全く物騒な世の中になったもんだな。謎の死体は見つかるわ、大勢の行方不明者は出るわ。この前の校庭陥没事件だって未だに原因不明だしな。」


「本当に怖いよね。江古田くんは気にならないの?」


「そんな事ないよ。俺だって普通に気にする、かな。」


「嘘つけ! どうせ他人事だと思って何にも思ってないだろ〜。ほんとお前ってなんか疎い所あるよな。」


「はは、そうかもな。でも、少なくとも他人事ではない。」


そうだ、この騒動に関わっている以上、俺は能天気でいるわけにはいかない。これ以上被害を増やさないためにも、この戦いは迅速に終わらせなければいけない。それが当事者としての義務であり責任だ。


「ありがとう次郎、俺、頑張るよ。」


「───ん?」


彼の指摘通り、俺は少し気が緩んでいたかもしれない。あの戦いを生き延びたからといって、明日も生きていられる保証はない。


もう頼れる傭兵はどこにもいない。これからはカナンとセキと3人で戦うしかないのだ。ならば俺はより一層気を引き締めて剣を握らなくては。


もう俺たちには立ち止まっている時間などないのだから。



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