第32話「傭兵の激白」
突如として話し始めたブライス。死者が言葉を発した困惑と傭兵の意識が戻った事に歓喜を同時に感じたが、すぐに悲痛な思いに変わった。
「・・・」
ブライスの粉砕された左腕の義手。今の攻防で自分が与えてしまった一振りはどう見ても手遅れな致命傷だった。
「はっ、なんて顔してんだよ。」
「っ!?あっ、あ、ブライス、意識が、戻ったのか? でも、その身体は、今のお前は・・・」
「あぁ、俺は死者だ。」
「そう、か・・・って何普通に喋ってんだよ、おかしいだろ!!」
「さぁな、俺にも分からん。俺の抵抗力が強かったのか、外部からの衝撃を受けたからか。ただ、その光に触れたお陰かもな。」
「───っ。」
ブライスが見つめるのは光り輝く黄金の剣。彼の言うことが正しければ、この剣が彼の命を取り戻し、そして終わらせる事になったのだ。
「とにかく良かった。これでお前に伝えら───ごぶっ!!」
「ブライス!!」
「待て!! いい、とにかく聞いてくれ。」
俺は急いで駆け寄ろうとしたが、ブライスは手を伸ばしてその動きを静止させた。
「一体何を・・・」
「俺がこの時代に来た目的だ。」
「・・・目的って、結晶だろう?」
「違う。俺が与えられた任務は黄金の剣、ステラルクスの強奪、そして所有者の抹殺だ。」
「───は?」
意味が分からなかった。こんな時にそんな真面目な顔で何を話すかと思えば。死者となって頭の中が壊れたのか。
「俺は最初からカナンを殺すつもりでこの時代に来たんだ。本来なら未来の世界で実行する筈だったんだが、別の男が追い詰めた末にあと一歩の所で逃げられてカナンを見失った。そして過去に飛んだという情報を手に入れて後を追ってきたんだ。座標と時間さえ分かれば剣を強奪できるからな。」
「・・・何言ってんだよ。」
「この時代に来た俺はその男と共謀して死者を徘徊させていた。全てはカナンを揺さぶるためにな。この廃墟の罠だって俺が仕組んで俺が画策したモノだ。」
「・・・なんだよそれ。」
傭兵の独白は止まらない。その開いた口から信じたくもない言葉が永遠と出てくる。
「まぁ結局そいつに裏切られたんだがな。あの純金骸骨野郎は俺の計画には無かった異物だ。おかげでこの様。はは、笑えるだろ?」
「笑えるかよっ!!」
「・・・」
「そんな話を急に言われたって信じられない、意味が分からない!! そもそも、なんでカナンを。よりにもよって、なんでお前が。」
「・・・それはアイツが強すぎたせいだ。」
「強すぎた?」
「本人から聞かされてないのか? アイツは未来の戦場で俺以上に大暴れして敵味方関係なく恨みを買ってたんだよ。その強さと清廉潔白な性格は敵の蛮行を決して許さずに味方の悪行も絶対に見逃さない。口を開けば人々のため、大義のためだと本気で抜かす小娘だ。お前なら想像つくだろ?」
「・・・」
「俺たちの勢力だって一枚岩じゃない。その中には当然カナンを妬んで嫌う者も大勢いた。そして一部のお偉方は決断したのさ。扱いきれない駒はいらないと。制御不能の抑止力は危険すぎると。」
「・・・つまりブライスは。」
「そうさ、俺も賛同した。合理的な命令なら従う。それが傭兵としての俺の在り方だから。余計な感情はその次だ。・・・蓮、その光はな、未来の世界では眩しすぎたんだ。」
「それなら、どうして今の今までカナンを殺さなかったんだよ!?」
「・・・最初に出会した時にやろうとしたさ。でもその時にアイツは剣を持っていなかった。別の人間に貸してたからな。」
「だったら俺を殺せば良かったじゃないか!」
「まぁそうなんだが、正直なところ所有者の命よりも剣の強奪の方が大事だったからな。下手にカナンとお前を殺して、また未来に剣を持ち逃げされる展開は避けたかったんだ。」
「・・・くっ、それでも、カナンか俺を人質にすれば、容易に奪えただろう!」
「・・・そうだな。そういう選択もあった。」
「それなら───」
「もういい、分かってんだろ。これは俺の情だよ。」
「・・・」
「この時代に来てお前たちと一緒に戦ってきて、未来の戦場とは別人のような顔で笑うようになったアイツを見て、俺の剣は、傭兵としての俺の覚悟は鈍ったんだ、怖気づいたんだ。」
「そんなのって・・・」
「でも勘違いすんなよ。この結末は俺が招いた事だ。お前らに影響されただけじゃない。だから気にすんな。」
ブライスは失った左腕の方を見ながらその肩を抑える。彼はその傷を与えた俺のことを庇っているんだ。全ては裏切り者の自分に非があると言って。
「なんで、今だったんだ。せめて、もっとはやく言ってくれれば、別の道だってあったはず・・・」
「これが最後のタイミングだったからな。前にも言った気がするが、いや言ってないか。俺はカナンとセキとは違って新人類じゃない。この時代で死んだら普通に終わりだ。未来には帰れない。」
「・・・え?」
「確かに俺は結晶やエネルギーを感知して扱えるが、それは感覚的にやっている事、お前と似たようなもんだな。この剣だって傭兵時代から握っているただの鉄の塊だ。そして未来からは例の男の力を借りてやって来たにすぎない。つまり自分からは帰れない。」
「じゃあお前は、もう。」
「あぁ、もうじき死ぬ。今は死者だから死ぬってのも変だけどな。はは。」
ただ愉快そうに笑うブライス。その顔には微塵の恐怖も感じられない。もう死の間際だってのに、どうして笑っていられるんだ。
「・・・ブライス、お前は、これで良かったのかよ。」
「さぁな、今更後悔はないが。・・・でも、そうだな。あと一つだけ、俺にはやり残した事がある。蓮、最後に俺の頼みを聞いてくれるか。」
「───頼み?」
「そうだ。それと予め言っておくが応じるなら話すし、応じないならこのまま黙って死ぬ。先に決めてくれ。」
それを聞いたら最後、お前に拒否権はない、と無茶な要求を言うブライスは笑いながらも真剣な眼差しで見つめて来た。その瞳の中には確かな決意と覚悟があった。
「・・・それはお前らしくもなく卑怯だな。まぁいいさ、最後くらい何だって聞いてやるよ。」
「そうか。なら断るんじゃねぇぞ。」
「あぁ。」
俺は深く頷いた。それはブライスの偽りのない熱い感情が伝わってきたから。仲間として彼のことを信頼したから。
「───感謝するぜ。それじゃあ蓮、最後に俺と戦ってくれ。」
「・・・っ。」
「英雄でも傭兵でもない。剣士として、1人の男として、お前に決闘を申し込む。」
「・・・」
それが男の最後の望みだった。何の策略も謀略もなく、最後はただ純粋に戦って欲しいと。その生涯を複雑な事情が飛び交う戦場で生きてきた男が、英雄とまで呼ばれた戦士が最後に俺を指名したのだ。
「・・・あぁ、受けて立つ!!」
俺は一切の迷いなく了承した。それは英雄の最後の頼みなのだ。どんな内容であれ断る理由がない。仲間として、1人の男として受けない訳にはいかない。これが正真正銘、俺とブライスとの最後の立ち合いだ。




