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第29話「上空から」

急に意識を失ったセキの額に手を当てると、反応は薄いが微弱なエネルギーは感じ取れる。体温は低下していたが脈拍は問題ない。呼吸も安定し始めて一先ずは安心した。


「それにしても───」


目の前に広がるのは崩壊して瓦礫の山と化した廃墟の建物。空気中に漂う濃密なエネルギーの残穢。セキの激闘の跡が伺える。


この小さな少女がここまでの力を持っているとは思わなかった。いや違うか。正直これほどの力を出してくれるとは思ってもいなかった。


「まさか1人で大陸の死神を倒すなんてね。」


私が想定していたよりも、セキの覚悟はずっと重かったのだ。眠る少女の頭を優しく撫でる。彼女が意識を取り戻したら、素直に感謝を伝えたい。



「ワタシはまだ倒れていないぞ。」


「───っ!?」


瓦礫の山から信じられない声が聞こえた。即座に顔を上げて目を凝らすと、そこには左半身の骨を大きく損傷したヘルグレロが立っていた。


「・・・どうして。」


「ははは、惜しかったな。あと一歩でこの身を滅ぼすことが出来たというのに。」


「・・・それで、止めを刺しに来たの?」


「その通りだ。其奴はワタシにとって脅威になった。今ここで消してしまわねば。」


「そんな事はさせない、絶対に。」


「好きにするがいい。こちらも2人まとめて処分できるのはありがたい。」


ヘルグレロは背後に宇宙を映し出し、小さな星を出現させる。しかしその数は一つしかなかった。恐らくそれが限界なのだ。


「・・・」


それでも私にとっては十分すぎる脅威だ。自身の負傷に加えてセキの治療にも力を割いたので、今の私にはその攻撃を防げる自信はない。


「さらばだ!」


純金の骸骨は指を弾いて小さな星を動かした。


「───っ!!」


それでも私は地面に横たわるセキの前に立ち、手を伸ばして肉壁となる事を選んだ。たとえこの身が終わろうとも、この少女の覚悟を無駄にはしたくなかったのだ。



ゆっくりと迫り来る爆発を控えた星。本能が回避を訴えてくるが無視する。私は絶対に逃げないし、その死から目を逸らさない。


やがて小さな星は崩壊して光を放った。私は大人しく目を閉じようとしたが、瞼が下がるその前に、私の瞳には空から降ってきた白く眩い光が映った。


「───えっ!?」


その突如として現れた光は、爆発する筈だった星を吹き飛ばして消滅させた。そして私の目の前には眩く光る剣を持つ少年が。


「なんだと!!」


ヘルグレロは驚いて声を荒げたが、空から飛来した新たな脅威に対して即座に追撃を与えようとした。しかし彼に残った星はもう一つもなかった。


「───はっ!!!!」


少年は剣を振り上げて光の斬撃を放つ。それは全てを照らして消し飛ばす眩く輝く大きな光。 


「あっ───あぁ───眩し、い。」


その光に包まれた純金の骸骨は一欠片の骨も残さずに消えてゆく。圧倒的な威力を誇る黄金の剣の一撃には、不死の身体であろうと等しく耐えきれない。そして、ようやくこの瞬間に大陸の死神は滅びるのだった。


「・・・ふぅ、無事か、カナン。」


「───あ、うん。何とか。それより、どうして蓮は空から降ってきたの?」


「あぁ、それなんだが───」




そして俺はカナンに話し始めた。ここに落下してくる少し前のことを。





それは遡ること数分前、俺とブライスは無尽蔵に襲ってくる大量の死者を相手にしていた。


どれだけ倒しても湧いてくる死体の群れ。一向に終わりが見えない泥沼の消耗戦。


「───っ。」


そしてこの状況を前に、次第に俺は焦りを感じていた。それは少し離れた場所で何かと対峙して苦戦するカナンの動揺が伝わってくるからだ。


一刻も早く駆け付けたいが、大量の死者に行く手を阻まれて動けない。どうにもならない現状に歯痒い思いをする。


そして事態が動いたのは、セキとヘルグレロが衝突した時だった。


「「!?」」


大きく揺れる地面と振動する空気。そのあまりにも激しい衝撃に、俺とブライスのみならず、襲ってきていた死者まで立ち止まった。その好機をブライスは見逃さなかった。


「───蓮、今からお前を向こうに投げ飛ばす。ここは俺に任せてお前は行け。」


「・・・でも、それだとブライスが。」


確かにカナンとセキの事は心配だが、ブライス1人で背負うには、流石に死者の数が多すぎる。


「馬鹿野郎っ、お前が行かなくて誰が行くんだ。このままだとセキとカナンは死ぬぞ。」


「それは・・・なら一緒に!!」


「この数の死者、誰かが引きつけなきゃ駄目だ。あっちにも流れ込んじまう。」


「・・・」


「蓮、俺は英雄とまで呼ばれた傭兵、この程度の戦場じゃあ死にやしねぇよ。俺のことを心配する余裕あんだったら、さっさと向こうの敵ぶっ飛ばして、とっととコッチに戻ってこい。」


大剣を肩に担いで笑うブライス。その表情には自信が満ち溢れている。それは今まで幾度もなく俺に見せてきた英雄としての頼れる姿だ。


「・・・あぁ。分かった。俺を飛ばしてくれブライス。すぐに片付けて戻るから。」


「はっ、じゃあ思いっきりいくぞ!!」


「頼む!!」



そして俺はブライスに投げ飛ばされ、絶体絶命であったカナンの元に落下したのだった。







「つまり、ブライスが囮を・・・」


信じられなさそうに驚くカナン。少女が知る彼とは何か違うらしい。


「あぁ、だからすぐに戻らないと。ヘルグレロが瀕死で良かった。セキのおかげだな。」


「・・・えぇ。本当に。」


カナンは少し複雑そうに微笑んでセキの頭を優しく撫でた。


「セキは私が背負うね。」


「あぁ任せた。襲って来る死者は俺が退けるから、カナンは後ろをついて来てくれ。」


「うん、分かった。」


「よし、行こう!!」


そして俺とカナンは走り出した。死者に囲われて独り奮闘するブライスが待つ場所に向かって。



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