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第28話「黒夜の箱」

そして純金の骸骨が迫る中、少女は地面に吐き出した血を見つめていた。


負傷した身体にエネルギーを消耗して傷の悪化を防いではいるが、一向に目眩と寒気が収まらない。


「・・・」


しかしこんな状態でもセキの頭の中は落ち着いていた。それが新人類としての彼女の本質であり、備わった機能である。ゆえに勝算への思考は止まらない。



(もう敗北は確定した。ならば潔く撤退するのが先決であり、そう判断するのが当然。他の結晶回収を前にこれ以上エネルギーを消耗するのは得策ではない。まだカナンを囮にすれば、私1人だけなら無事に逃げ切れる道はある。共に戦って来た仲間といえど、所詮はこの時代において臨時で組まれた部隊。元々は結晶を奪い合う敵同士。そして未来に戻ったら尚更お互いに殺し合う関係なのだ。ならばこのタイミングで裏切るのが最も合理的で最適な選択。そうだ、これで良いんだ。私は間違っていない。私は正しい。)


「──よし、逃げよう。」


そして少女は自ら導き出した答えに従って、残り僅かな力を振り絞って立ち上がり、死神の車椅子が迫る音に背を向けるのだった。









全ての床が抜けて天井からは空が見える廃墟の中を進むヘルグレロ。爆発に巻き込まれたその身は無傷であった。その存在は死者とは異なるが、彼の身体は生きていない。純金の骸骨と化した彼は、己自身の力を持ってしても殺せないのだ。


「さて、どうしたものか。」


恐らく黒髪の少女は逃亡を選択したと彼は予測していた。なぜなら彼女は冷酷な判断を下せるこちら側の人間であると判断したからだ。


自身の信条的に敵を見逃すのは我慢ならないが、最優先すべきは黄金の剣の回収。それは何よりも重要な目的。


「───仕方がない。」


ヘルグレロは即座に判断を下してカナンが倒れる場所へ引き返す。どうせこの先にあるのは瓦礫の山か、もしくは深傷を負って消えゆく少女の身体だけだと考えたのだ。




「───どこに行くのですか。」


しかし引き返そうとした車椅子の動きは止まる。廃墟の中に響いた少女の一声で。


ヘルグレロが振り返ると、瓦礫の前に1人の少女が立っていた。虚な目で血を流し続けながら。


「これは本当に驚いたぞ。なぜ逃げなかった?」



「さぁ、私にも分かりません。でも───」


セキは自分でも不可解そうに答えた。これは彼女自身も理解し難い非合理的な判断であり、未来で戦って来た少女ならば絶対に選択する筈がなかった行動だからだ。


しかし少女はそこに立っている。それがセキの選んだ答え。


彼女が戦略的撤退をしようと敵に背を向けた瞬間に思い浮かべたのは、罪悪感ではなく心残りと未練。この時代に蓮とカナンと3人で過ごした日々の情景。かけがえのない大切な思い出。必死に生きていた未来では得られなかった変えようのない経験。


「───それでも私は手放したくはなかったんですよ。」


その想いが冷静な判断を押し除け、彼女は自ら間違うことを選んだのだ。


「はは、愚かな娘よ。その小さな身体に、その出血量、もう大した力は使えんだろう。どちらにせよワタシには勝てぬぞ。」


「いえ、私、負ける気はありませんよ。」


セキは微笑みながら宣言した。定められた敗北を覆すと。


「起きろ、黒夜の箱(ノクスアルカ)!!」


そして少女は傷の付いた黒箱を変形させて、大きな機械仕掛けの狙撃銃を出現させた。それはセキの最後の切り札であり、残された全てのエネルギーを込める少女。


「無駄なことを───ん?」


純金の骸骨は予想外の状況を前に固まった。なぜなら少女は銃に膨大な量のエネルギーを流し続けたからだ。


「そうか、そうか!! ははははは!! お主、全てを出し切るつもりだな!!」


そのエネルギー量は自己の存在維持すら無視した力。この先の全てを捨て去る覚悟の証。


「これは愉快だ!! こちらも全力で相手をしてやろう!!」


セキの覚悟を受け取ったヘルグレロは大声で笑い、自身の背後にある宇宙から数多の星々を引き摺り出して一つの恒星に凝縮させた。



廃墟の建物の中で見つめ合う純金の骸骨と黒髪の少女。お互いに決壊するその時を待つ。



「───っ!!」


そしてセキは全てのエネルギーを解き放った。それは閃光となって巨大な衝撃波と共に。


同時にヘルグレロも圧縮された光る星を弾く。その小さな光は瞬時に限界を突破して崩壊した。その衝撃は光線となって一直線に進む。



──!!!!!!!!!!!!──


轟音を出しながら衝突する膨大な熱量、せめぎ合う二つの光。両者とも一歩も譲らずにエネルギーを流し続ける。


「生意気なっ!!!!」


「負けるかぁぁぁ!!!!!!」


セキは叫んだ。血を流し、吐き出しながら。押し寄せる衝撃に耐えきれずに身体を破壊しながら。


激しく衝突する光の先から発生するプラズマ。崩れゆく廃墟、揺れる大地、捻じ曲がる空間。


「───ぐっ!!!!」


どれだけ血が溢れても、どれだけ骨が砕けようとも、セキは気にせずに全ての力を注ぎ続けた。ただ目の前の敵を打ち破る為に。


「らあぁぁぁぁァァァァァァ!!!!!!!!」





そして衝突し続けた熱量は融合し、盛大に爆発した。


衝撃波に吹き飛ばされ、全てのエネルギーを出し切って倒れるセキ。小さな黒い箱に戻った黒夜の箱(ノクスアルカ)には大きく亀裂が入った。


「───セキっ!!」


辛うじて動けるようになったカナンが駆け寄ってくる。何度もセキの名を大声で呼びながら。


「・・・」


もうセキには僅かな声も出なかった。それほどに消耗してしまった。


「セキ、貴女は・・・いえ、今治療するから。」


カナンの光に包まれるセキ。死にかけの少女にとって、その光はとても温かくて心地の良いもので、セキは自然と目を閉じたら一瞬で意識が途絶えるのだった。




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