第26話「孤立する部隊」
視界を埋め尽くすのは死者の腐敗した身体。聞こえてくるのは意思のない呻き声。もう自分が何処にいるのかさえ分からなかった。黄金の剣を払おうにも不安定な姿勢では焦点が定まらず、うまく出力も出せない。
本当にまずい、このままだと溺れる死ぬ。何とかしないと。クソ、身動きが取れない!!
「───っ!?」
「無事か、蓮!」
死者の群れに溺れ続けているとブライスの義手に腕を引っ張られた。彼の周りには僅かな空間が生まれていた。彼の手に引かれながら、ようやく地面に着地する。
「ブライス!!」
「とりあえず吹き飛ばせ!!」
「───あぁ!!」
2人で背中を合わせながら無我夢中で死者と応戦する。どれだけ斬っても次から次へと湧き出てくる動く死体の波。本当に一呼吸も置く暇がない。
しばらく2人で奮戦していると、剣から伝わる熱が高まるのを感じる。恐らくカナンと距離があるせいか、いつもより時間はかかったが黄金の剣に光は満ちた。
「───ブライス、屈め!!」
「───っ。」
剣に蓄積された光を解き放つ。それを円を描くように全方位に向かって斬撃を飛ばす。そして目の前に広がる眩い光は襲いくる死者の群れを一瞬で薙ぎ倒した。
「ははっ。やるじゃねえか!!」
「まぁな。」
「だが気を休めるのはまだ早い。ほら見ろ!!」
ブライスが叫びながら指を指すのは地面を這いながら迫り来る大量の死者。つい乾いた笑いが出てしまうほどに圧倒的な数の暴力だ。
「ふぅー。カナンたちも気になるが、今は此処を切り抜けるぞ蓮!!」
「・・・ふっ、そうだな!!」
俺たちは自身を鼓舞するように笑いながら、目の前に押し寄せる脅威に対して剣を振るうのだった。
それと同時刻、蓮とブライスが団地に囲われた中央の駐車場で死者と戦っていた時、カナンは建物を挟んで向かい側の駐輪場にいた。死者の波に揺られるがまま、少女は気がつくとそこにいた。
「・・・」
一通り身体を確認するが目立った外傷もない。そして周囲を見渡して自分が部隊と分断されたことを悟る。
「お目覚めかね。黄金の剣よ。」
「───っ!?」
その声に衝撃を受けてその場から飛び跳ねる。いつの間にか背後には豪華な服を身に纏った純金の骸骨がいた。
「そう慌てるでない。時間は尽きぬほどある。」
「貴方、何が目的? たぶん結晶回収じゃないよね?」
「ははは。聞かなくても分かるだろう。ワタシはその黄金の剣を貰いに・・・むむ? お主、剣はどうした?」
「お生憎、今は貸出中だから。」
「・・・なるほどなるほど。ははは。奴め、このワタシすらも謀ったな。相変わらず腹の底の見えん男よ。」
「どういうこと?」
「さて、どうだか。どちらにせよ、お主はここで終わり。その命、このヘルグレロが貰い受ける。」
純金の骸骨はカタカタと笑う。深く腰掛ける車椅子を乱暴に揺らしながら。
「・・・ふっ。」
要は部隊を分断させたのはカナンを孤立させる為だった訳だ。そして乾いた笑いが溢れた少女は改めて呆れていた。未来でもそうだったが、敵味方関係なくあまりにも狙われすぎる自身の存在に。
「上等!!」
カナンはわざとらしく大声で叫び、手の平に集めた光を空に打ち上げた。それは彼女の覚悟と抵抗の証。少女は手を低く構えて目の前の骸骨を観察する。
死神の異名を持つヘルグレロ。彼の武装はカナンと同等に大規模な威力と範囲を誇る制圧兵器。その存在自体が抑止力となるほどだ。
その力の詳細は─────謎であった。
なぜなら彼は戦場に現れては敵兵を皆殺しにする狂気の存在であり、その正体を知るものは1人残らず抹殺されているからだ。
「何だこないのか。ならば良い。死にゆくお主にも見せてやろう、ワタシの圧倒的な力を。」
純金の骸骨はカタカタと笑いながら秘められた力を解放した。そして暗い夜の廃墟に放たれた光。それはまるで星だった。
「・・・星・・・いや、宇宙?」
カナンは初めて見る現象に目を奪われていた。
肘をついて笑う骸骨の背後には、宇宙が広がっていたのだ。そして車椅子に座る彼を中心として公転する光り輝く小さな星々。その軌道は彼を囲うように、彼を守るように引かれている。
「この小さな星々は直に終わりを迎える恒星を模したモノだ。どれ、まずは最も規模の小さいものから味わってみよ。」
純金の骸骨が指を弾くような動作をすると、軌道を外れた1つの小さな星がカナンの目の前に向かってきた。
「───っ。」
それを間近で見た瞬間、カナンは目を見開いて仰け反りながら、両手に集めた光を拡散させた。黄金の剣はなくとも、本来の所有者であるカナンには生身でもある程度の光は扱える。その攻撃性は低くとも、彼女の身を護るには十分なほどに。
しかし今回は相手が悪かった。それは付け焼き刃の光程度では到底防げるレベルの脅威ではないのだ。
「───あ。」
純金の骸骨の手から離れ、星としての最後を迎えた小さな恒星は、その内に凝縮された膨大なエネルギーを一気に大爆発させた。
それは擬似的な超新星爆発。尋常ではないほどのエネルギーの爆散と衝撃波。カナンはその場から遥か後方に容赦なく吹き飛ばされる。
「・・・ぐっ、ぁ。」
起き上がれずに地面に倒れ込む。
咄嗟に光で防護した為に即死こそ免れたが、骨と内臓には重いダメージが与えられ、全身が焼けるような痛みにカナンは悶絶する。
そして何よりも苦しい事実なのは、たった一撃で戦闘不能に追いやられてしまった事だ。もしも彼女が万全の状態であっても、防げていたかどうかは怪しい。
「何だ、もう終いか。同じ新人類として情けない。見るに堪えんな。」
つまらなそうに肘をつく骸骨。そしてカラカラと音を立てながら車椅子を動かし、一歩ずつ着実にカナンの命に迫る。
「───っ。」
カナンは必死に立ちあがろうとするが、どれだけ踏ん張っても身体に力が入らなかった。思い通りに動かない身体に苛立ちと悔しさを感じる。
「ははっ。さらばだ。」
「───させませんよ。」
「!?」
ヘルグレロがまた星を弾こうとした時、それは空から音も無く降って来た。純金の骸骨とカナンの間に割って入るのは1人の少女。黒い髪を揺らしながら赤い瞳で敵を覗く。その手に浮かばせるのは継ぎ目のない小さな黒い箱。
カタカタと笑う骸骨と満身創痍のカナンの前に現れたのは死者の返り血を浴びて不愉快そうにするセキだった。




