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第22話「未来話・ブライス」

それは21世紀の終わり、人類の争いが激化していた暗黒の世紀末。男は傭兵だった。






まだ大陸が歪んでおらず、地図の形が変わる前の世界。男の故郷は田畑に囲まれた小さな町。



男の両親は聖職者であり、生活は貧しくはなかったが、裕福でもなかった。それでも男は与えられる日々に満足して過ごしていた。そして尊敬する両親の後を継いで、順当に幸福な未来を辿るはずだった。



しかし、その未来は容易く燃やされた。身勝手な人間同士の醜い争いによって。この世に生まれてから10年余りで男の故郷は地図から消えたのだ。







その後の日々は絶望の連続で、休む暇も立ち止まる猶予すらも与えられなかった。故郷は燃えて、家族を亡くし、友を失って約束されたはずの未来を絶たれた。



全てを失った男は安寧の地を求めて世界を彷徨った。

だが生きるために戦うしかなかった日常は自然と男を強くした。いくつもの戦場を放浪し、その度に必死に生き抜いてきた結果、男は傭兵になっていた。



初めての戦場では片目を失い、眼帯をつけた。

そして部隊が全滅した日には片腕を失い、義手を取り付けた。


それでも男は生き延びた。死戦を越えるたびに強くなり、戦場のど真ん中で大剣を振り回した。



終わらない戦乱に絶望しながら酒を呑み、傷を増やしながら部隊の仲間と酒を呑み、敵を殺して酒を呑む。

当たり前のように人が死に、当たり前のように人を殺す。


──お前は何のために戦う──


かつての戦友に譲られた銀の月のペンダントを見る度に思い出す、その男に問われた言葉。自分自身に問いかけ続ける傭兵としての覚悟。



昨日の晩には笑いながら酒を酌み交わした人間も、

今日の夜には誰1人残らない。毎夜変わり続ける部隊の顔ぶれ。いつまでも変わらない戦いの連鎖。



そんな腐った日々を繰り返し、次第に他を寄せ付けないほど強くなっていった男は永遠に終わらない人生に辟易していた。







男が傭兵として名を挙げ続け、いつしか英雄と呼ばれるようになった頃、圧倒的な力を持った新人類の登場によって戦乱は激しさを増して燃え広がり、世界の全ては加速度的に荒れ果てていった。



新人類という新たな抑止力の誕生によって変わり始めた戦争、それでも男は戦場で戦い続けた。それが男のたった一つの生きる道だったからだ。



しかしある日の戦場で見てしまった光景が男の人生を一変させた。


それは血生臭い焦土に差し込んだ一筋の光。

その光は白く眩く美しく、迫り来る脅威の全てを薙ぎ払った。


圧倒的な力を前に兵士たちは称賛して敬い、戦いの全てを押し付けて背負わせた。まだ幼くて年端もいかぬたった1人の少女に。




男は戦場に現れたその歪な力と少女に嫌悪感を抱いていた。どうせ有り余る力に押し潰されて、いずれ消えていくだろうと。


だが少女は1人でも戦い続けた。どれだけ傷を負っても、どれだけの仲間を失っても。


最初は人の心もない機械なのかと思っていた。常人でも心を折られる血みどろの戦場、まして少女の年齢の精神で耐えられるほど戦争は甘くない。


しかし共に戦場を駆け抜けていく中で、圧倒的に強い力を持つ少女にも弱さがある事を知った。仲間が死ねば少女は涙を流し、敵を前にすれば苦悶しながら血を流す。


男は見抜けなかっただけなのだ。その弱さを隠し通すほどの少女の覚悟と精神の強さを。


いつしか男も少女を認め、共に戦い、その強さに敬意を表した。少女も男を信頼し、何かと頼ってきた時には嬉しく感じた。







「なぁ、お前は何のために戦っているんだ?」


「──え?」


ある日の戦場、火を囲って野営していた夜。

酒で酔っていた男は少女に問うた。なぜ戦い続けるのか、どうして戦場で生きるのかを。


男はただ知りたかった。

1人でも強い少女が戦いに対し何を思っているのか。


「・・・」


少女はしばし燃えたぎる火を見つめながら沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。


「私は私の役目を果たすために戦う。それは人々を照らす光になるから。それは私にしか出来ない事だから。」


「・・・」


それを聞いた男は顔を顰めて黙り込んだ。

それは1人の少女が背負うには、あまりに重くて暗いモノだったからだ。全てを諦めた男には眩しすぎるモノだったからだ。


「ブライス、貴方は?」


「俺は・・・」


あの時何と答えたか、答えられなかったかは男には思い出せない。だが確かなのは、黄金の剣を持つ少女は男よりも遥かに受け入れていた。戦乱に巻き込まれた自分の戦いを、自分の人生を。



それは男にはないモノで、少女は持っていたモノ。



男はソレを手に入れるために過去を目指したのだ。



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