No.56「求神者」
そして五人の奇術師たちは戦闘を開始する。彼らは盲目的に襲い来る死者を相手に、筋肉男は大きな銃を手に、眼鏡の女は拳銃を構え、眼帯の女は刃物をもって、一体、また一体と敵を片付けていく。その相変わらずの冷静さに、少年と少女も感心しつつ、彼らは強大な魔法の力を武器に、目の前の動く死体を消滅させていく。二人は躊躇など一切しない。この状況下において、僅かでも迷ったら終わる。心が揺れた瞬間から崩れていく。そのどうしようもない現実を誰よりも理解しているのだ。
「ジェード! テルル!」
「っ!?」
「?」
その時、マックスは銃を連射しながら大声で叫んだ。彼もまた屈強な精神力で死者たちを屠りつつ、適確な状況判断能力を失わないように、冷静な理性を維持している。
「お前たちにはやるべき事があるだろう!」
「で、でもさ!?」
「早く行って、そんで終わらせて来い!」
「マックス・・・」
男は荒々しく叫びながら、戸惑う少女に笑いかけ、堂々とした余裕を見せつける。
「ほらっ、早く行きなさい! 怒るわよ!」
「ギャハハハッ! 皆殺しだッッ!!!!」
「セイコ、ヒルデガルト・・・」
女たちも同様に、この狂った状況に対処しながら、鈍る少年と少女を気遣うように、死者たちを軽く蹂躙する。
「───っ、行くぞテルル!」
「───うん!」
そして二人は死者の群れを引き裂いて走り始めた。この場所を、この死の群勢を最も信頼のおける三人に任せて。自分たちの託された役目を、あの日の誓いを果たすために。
「ハハッ、まったく頼もしいぜ。」
マックスはそんな逞しく成長した二人の背中を見つめながら微笑み、また襲いくる死者を殴りつける。
「あら、随分と、余裕じゃない。このままじゃ私たち死ぬわよ?」
「・・・っ。」
その時、セイコが拳銃の装填をする為に、マックスの大きな背中に隠れる。その表情に普段のような余裕はなく、彼女は小刻みに息を切らしながら眼鏡を外す。
「ハッ、それは困るなっ! ニューヨークに店が出せなくなる! それにこんな場所で、アイツと死ぬのは嫌だぜ!」
「ギャハハハッ!!!! 血祭りじゃぁぁ!!!!」
マックスが笑って見つめる先には、広場を血に染める狂人が、アーミーナイフで死者たちを切断していく。彼女の場合は死場所とか、そんな情緒的な感傷には囚われない。ただ闘って切り抜けるだけ。
「そうねっ! 私ももっと静かな場所が良いわ!」
「だったら久々に暴れるぞ!」
「えぇ!」
そんな女傭兵の突撃姿に二人の奇術師たちも良くも悪くも影響されて、自分たちを必死に鼓舞しながら、空薬莢を排出し続けた。それぞれの夢のために、あの少年と少女の未来のために。彼らは命をかけて戦い続けるのだ。
その一方で、二人の魔法使いは全力疾走で街の中を駆け抜けていた。
「ジェード・・・」
「アイツらなら問題ない。元が異常者の集まりだ。絶対に生き残れる。」
「ふふっ、そうだね。」
少年と少女は仲間たちの身を案じながらも、その足を止める事はない。なぜなら彼らの勇姿を裏切るわけにはいかないから。ただ自分たちの道を進み続けるしかないのだから。
「───っ!」
「邪魔!」
その時、物陰から死者が飛び出してきたが、少女は一切動じずに宝石を弾き飛ばして、その動く死体を消滅させる。
「・・・っ。」
「ほらっ、早く行くよ!」
「あぁ!」
ジェードはその少女の迷いない姿に引っ張られるように、彼女の隣を走り続ける。襲いくる死者を退けながら、地面に倒れ苦しむ人々を素通りしながら、余計な感情を押し殺してその場所を目指す。そして二人は止まる事なく進み続け、ついに街の中心地の広場から離れた大きな教会にまで辿り着いた。
「「・・・」」
ジェードとテルルは無言で目配せをすると、二人は歩幅をそろえて教会の中に入り込んだ。そこは古びた廃墟のような場所だったが、天井部分が大きく破損しており、二人が上を見上げると、そこには暗い空に浮かぶ光の環が覗いていた。そして・・・
「───ようこそ、呪われた少年少女よ。」
「「───!?」」
そして教会の最奥、ひび割れたステンドグラスの前に、その存在は立っていた。古びたローブに身を包み、その顔はフードの影に隠れているが、老人のような青年のような声が響いた。それはまるで、少年と少女のことを待ち望んでいたように、咄嗟に警戒した彼らを平然と迎え入れる。
「私は君たちを歓迎しよう。同じ力を持った者として、同じ呪いを受けた者として。」
彼は嬉しそうに声を弾ませながら、歓迎の言葉を続ける。戸惑う二人の反応も伺わずに、ただ自分に定められた役割を淡々と演じるように、フードの中から語り続ける。
「ふむ、どうした、ここじゃあ不満かな。神に祈りを捧げるには最適だが。」
「ふっ、皮肉にもならない。けど、確かに良い場所だ。」
「アンタの墓場にはね!」
少年と少女は戦闘態勢を維持して身構えながら、警戒を続ける。ジェードは冷静に状況を見極めつつ、テルルはその手に宝石を構える。
「・・・なるほど、好戦的だな。やはり条件的には合う、となればあの仮説は証明できるか。しかし時間との相対性を考えれば・・・」
「何をブツブツと!」
「あぁ、申し訳ない、自己紹介が先だったな。」
「───っ。」
その瞬間、少女は小さな宝石を弾いたが、男は軽く手を払う動作だけで、その魔法を消失させた。そして男は不敵に微笑みつつ、ゆっくりとフードを剥いで、その顔を露わにした。
「私はエステラ。おめでとう、ジェード君、テルル君。ようやく辿り着いたな。」
「「・・・」」
その男は若々しい英国寄りの顔立ちだった。癖のある長い白髪に、茜色の瞳、この光を閉ざされた世界において、奇術師たち以外に正気を保つ唯一の存在。彼こそが三人目、先祖ウォーカーの友人、古の魔法使いだ。
「ふむ、警戒心も強い、か。随分と立派に育ったものだ。やはりこの呪いは精神の成長に依存して・・・」
「───お前にいくつか聞きたいことがある。」
「おぉ、何かな、何でも答えてあげよう。私は全知全能に最も近しい存在だ。」
男は愉快そうに笑いながら手を広げる。老人のような立ち振る舞いだが、その声は若々しく、どこか喜んでいるようだった。しかし、その瞳に少年と少女は映っていない。
「・・・お前は誰だ? 何が目的だ?」
「───ほう。」
少年の駆け引きのない真っ直ぐな問いに、男は少しだけ意外そうにしながら、不気味な笑みを浮かべ続ける。エステラと名乗る目の前の男、しかし、二人の知るその名前を持った存在は、その姿も声も性別すら全く異なる。偶然にも同じ名前を持った存在、なんて事がある訳ない。あの湖の村で失踪した女と、謎の画家、そして・・・
「ふむ、それは定義によるところだが、まぁ良い、簡潔に言おうか。私は───」
「「っ!?」」
その瞬間、少年と少女は驚いて目を見開いた。ただ目の前の光景を疑うように立ち尽くす。その時、男の姿は霧の中に溶け込みつつも、一瞬のうちに女の姿に変化した。無造作な白髪のショートヘアに、黒いスーツ姿。それはかつて二人が北欧で出会した、エステラと名乗った女性の風貌だった。
「───私がエステラ、否、私たちがエステラだ。」
それは姿形だけでなく、その声までもが本物の女性そのもの。そしてエステラの風貌は瞬時に変わり続け、男に、女に、老人に、青年に変貌を遂げる。
「そして、私の目的は、アレだ。」
その瞬間、男は不気味に笑いながら手を振り上げて、暗い空に浮かぶ光の環を指差した。
「あの光、全てはあれを手に入れる為に。」
そして男は空を見上げながら嬉々として語り出す。この異質な世界の真実を、少年と少女の呪われた運命、そこに結びついた自分自身の歴史と存在を。




