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Chrono Canaan ─ クロノカナン ─  作者: 小熊猫はにわ
EP6 ─ New York, The United States
119/122

No.49「二人の魔法使い」

 それから少女は白スーツの男を引きずりながら、爆発のあった地下鉄付近までやって来て、かなり動揺していた。目の前に広がるのは瓦礫の山、野次馬と化して騒めく人々、忙しなく動き回る消防や警察。道路を走る車両は低速を保ち、救急車両が右往左往する。

 そんな騒然とする群衆の中で、少女はたった一人の人間を探した。その身体が死なないとはいえ心配にはなるのだ。


「───テルル!」


「あっ、ジェード!」


 そして少女が焦りながら探し始めること数分後、少年は救急車両の前で瓦礫の上に座っていた。テルルは彼の無事な姿を確認できて安堵する。ジェードも彼女が引きずっていた手土産を見て微笑む。そして騒がしい群衆の中で、少年と少女は自然と笑いながら、お互いの手を叩き合った。





「───テルル? 大丈夫か?」


「えっ!?」


 それからしばらく時間が経ち、二人は瓦礫の上で談笑しながら、忙しなく働く警察や消防の人々を眺めていると、少年が不思議そうにしながら、少女の顔の前で手を振った。


「いや、呆けていたから。どっか怪我したか?」


「あ、何でもないよ、怪我もしてない。それよりジェードの方が重症じゃない。」


「ふっ、これぐらい大したこと・・・」


 その時、少年はいつものようなポーカーフェイスで笑おうとしたが、ふと瓦礫の中での女性との会話を思い出し、言葉を詰まらせた。


「ジェード?」


「いや、そうだな。少しだけ不覚を取った。悪かったなテルル、そっちにも響いただろう。」


「え・・・あ、うん。確かに痛かったけど。どうしたのジェード、なんか変。」


「───っ、何でもない! ほら、もう行くぞ!」


「えっ、待ってよ!」


 少年は慌てて立ち上がると、少女に顔を見られないようにしながら歩き始める。その不可解な挙動にテルルは困惑しながらも、彼の隣に追いつく。


「───二人とも。」


「あっ、ミラさん。」


 そして二人が爆発現場から去ろうとした時、警察からの事情聴取を終えたミラ・ウォーカーがその背中を呼び止める。彼女は変わらずに美しいポーカーフェイスを保っているが、その金の髪は少し乱れ、僅かに息を切らしている。


「二人とも、私たちの大切な仲間を、クロエを助けてくれて、本当に、本当にありがとう。」


「いえいえ、奇術師として当然の行いですよ!」


「ふっ、そうだな。」


「そう、本当にありがとう・・・だけど、その、ちょっと、申し訳ないことが。」


「「?」」


 ミラは哀しそうな表情をしながら、スーツのポケットから小さく輝く石を取り出した。


「これ、コンテスト優勝者の貴方たちに渡すはずだった宝石なんだけど・・・」


 それはウォーカー家秘蔵のエメラルド、マジックコンテストの目玉となっていた景品。例のギャングたちも狙っていた宝石。しかし、その翠玉は今も美しく輝いてはいるが、なぜか大きく欠けており、否、二つに分裂しており、本来見えるはずのない断面が見えている。そう、エメラルドは真っ二つに割れていた。


「あ。」

「あぁぁぁぁぁ!!」


 少女は絶叫した。その目に涙を浮かべて、ただ泣き叫んだ。少年は煩わしそうに耳を塞ぐ。しかし、そんな迷惑そうにする少年の姿など、彼女には一切見えていない。もはやテルルの瞳には割れてしまった宝石しか存在しない。


「ごめんなさい、今回の騒動のせいで、こんな事に。この件についての補償は後日に───」


「───っ、ミラさん、ちょっと貸してもらえます?」


「え?」


 少女はミラから割れた宝石を受け取ると、その手で強く優しく包み込んだ。そして何よりも大切そうに、愛おしそうにして、欠けた宝石を繋ぎ合わせる。


「───!?」


「・・・」


 その瞬間、少女の手からは眩い光が漏れた。その光はあまりにも強いもので、ミラは咄嗟に瞼を閉じるが、少年だけは目を逸らさずに無言で見つめ続けた。


「えっ!?」


 そしてミラが次に目を開けた瞬間、少女の手には美しい輝きを更に増したエメラルドが、それはまるで最初から割れていた事実などなかったように、自然と元通りに復元されていた。


「うん、これで完璧! あ、ミラさん、これ貰っても良いんですよね?」


「え、えぇ。構わないけど・・・」


「うふふ、やったー! ジェードにはあげないよ〜!」


「はっ、別にいいさ、俺は賞金の方をいただく。」


「あっ、ズルい! 私にも分けてよね!」


「いや、そっちが宝石を───」


「だって二人で勝ったんだから山分けでしょ?」


「・・・っ。」


 少女は嬉しそうに宝石を掲げながら、満面の笑みで喜びの舞いを披露する。少年は毎度の如く呆れつつも、それを諌めることはなかった。


「───やっぱり、そうだったのね。」


「「?」」


 しかしこの場で唯一、その奇跡としか言いようがない現象を前に目を見開いていたミラは、それでも何か納得したように俯き、静かに微笑む。


「やっと思い出したわ。私がマジシャンになって、初めて祖父の前でマジックを披露した時、あの人から聞いた、二人の若き魔法使いの話を。私の奇術師としての原点を。」


「あははは。」


「ふっ。」


 少年と少女は少し照れながら笑った。ミラが祖父から聞いていたように、彼らもまた彼女のことを聞いていたのだから。彼女が自分たちに憧れていた事を知っていたから。


「ジェード、テルル。本当にありがとう。あなた達に会えて良かった。」


 そしてミラ・ウォーカーは去っていく。少年と少女の笑い合う姿を見ながら、お似合いだと思いながら。彼らが魅せた、祖父の面影を見つめて。たとえ偽りだとしても、もう一度会えた事に感謝して。


「───ふふっ。」


 その顔にはもう曇りはない。ミラは自然と優しく微笑みながら、ニューヨークの街を颯爽と歩く。きっと彼女は明日も奇術師であり続けるだろう。なぜなら彼女はマジシャンとしての熱を取り戻したのだから。なぜなら彼女はウォーカー奇術団団長、ミラ・ウォーカーなのだから。


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