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第9話「未来人たち」

夜が始まり、静まり返った校舎。

暗い教室の中で赤く光る少女の瞳。

固唾を飲んで怖れながら身構える少年。


──鈴木さん、お化け、本当にいたよ。


まさか彼女の見た幽霊が現実になるとは。

目の前の少女は確かに唐突に現れて、教室の窓際で目を赤く染めて笑っている。


「まだ帰っちゃダメですよ、楽しい夜はこれからなんですから。」


「・・・セキ、正直もう来ないかと思ってたよ。」


「いえ、ずっとここにいましたよ。蓮さん、貴方がこの教室に入ってきた時から。」


「───っ。」


それは嘘だ。俺が教室に入ってきた時は確かに誰もいなかった。その後も教室には1人として来ておらず、廊下にすら誰も通っていない。ということは・・・。


「未来人・・・か?」


「正解でーす。私の専用武装は万能型なので。」


少女は微笑みながら何もない空間に

小さな四角い黒い箱を出現させた。


彼女の手のひらの上で浮遊する繋ぎ目のない黒箱。

それと共鳴するように赤く光る少女の瞳。


「それで、何のようだ? 相談があるってのは。」


「・・・驚いた。まだ平然としていられるんですね。

ただの余裕か、恐怖の裏返しか。ま、どっちでもいいか。どうせ聞きたい事があるのは事実だし。」


「?」


「惚けないでくださいよ。結晶ですよ、結晶。

貴方の身体からは僅かに結晶とエネルギーの残穢を感じます。今は持っていないにしろ、何処に隠しているか、誰かに渡したのか、その全ての情報を吐いてもらいます。」


「断る、と言って逃げたら?」


「お勧めはしませんけど、残念ながらその時はコレの出番です。言いましたよね、万能型だって。透明化でも拷問でも何でもできるんですよ、コレ。」


セキは浮遊する黒箱を手で見せつけながら

不敵に微笑んでいる。その目は笑っていない。


「そもそも現地人の貴方が結晶や私たちの存在を知っていて尚、まだ生きているのか不思議です。普通なら速攻で消されてますよ。運がいいですね、貴方。」


あぁそうさ、実際に殺されかけたしな。

あの夜の時もカナンが来てくれなければ死んでいた。


その後だって何も知らないままだったら、

すぐに死んでいたかも知れないし、

もしカナンが深傷を負わずに万全だったら

俺は彼女に消されていたのかも知れない。


そう思うと確かに運が良かったのかもな。


「じゃあ何だ、あんたも俺を消すのか?」


「いえいえ、情報さえ教えていただければ、見逃しますよ。もちろん記憶は改竄しますけど。」


「そうか、じゃあ駄目だ。」


俺は軽く微笑んで迷いなく断った。

あの光を忘れるぐらいなら、死んだ方が良い。


「・・・そうですか、では遠慮なく。起きろ、黒夜の箱(ノクスアルカ)。」


少女がそう呟くと、小さな箱の黒色は星空に変化し、宙に浮いたまま回転し始めた。


「───っ。」


次に何が来るか全く予想ができない。

未来についての基礎知識はカナンに教わっているが、

未知の技術との戦闘においては逃げるが鉄則。

──ならば今取るべき行動は。


「あれ、くそっ!」


「?」


扉を開けて教室から逃げようとしたが、

鍵がかかっているのか微塵も動かない。

扉や窓を強く叩いてもだ。


「あぁ、逃げれませんよ、ここからは。」


後ろを振り返ると宙に浮いていた黒箱は

光ながら形を変えて地面に突き刺さり、

教室の床からは黒い刃が飛び出してきた。


「っ⁈」


地面を抉る僅かな音を頼りに反応するが、

無数に生えて襲いくる刃に学ランが裂かれる。

刃が通過した机と椅子は豆腐のように切断された。

正直これは致命傷を避けるので精一杯だが、

廊下側に刃が向かってくるように逃げ続ける。


「意外と動けますねぇ。──ならば!」


「───!!」


襲いくる刃が一瞬止まったかと思うと

次の瞬間には身体を囲うように床が割れ、

全方位から刃が生えて襲ってきた。


「───ぐっ!!」


身体を捻って横に飛んだが間に合わずに

四肢を切られ、強烈な痛みと共に血が吹き出す。


骨までは届いていないが、浅く皮膚を切られただけでこの痛み。なるほど、拷問とはよく言ったものだ。


「どうですか、もう立てないほど痛いでしょう?」


「・・・いや、どうかなっ!!」


「えっ⁈」


尋常じゃない痛みに耐えながら勢いよく立ち上がり、

姿勢を前傾にとって飛び出そうとする。


少し驚いたセキは距離を詰めてくると判断して手元に黒箱を戻したが、それは間違った判断だ。


前に動き出していた足を全力で止め、そのまま床を蹴り上げて教室の廊下側の窓に身体を衝突させた。


音を立てて割れる硝子と廊下に投げ出される身体。


「ぐっ、痛っ、いが、うまくいった!」


あえて廊下側で逃げ続けたことで、切れ味抜群の刃は僅かだが窓に突き刺さり亀裂を入れた。


あの黒箱によって教室に閉じ込められているのなら、同じ力の刃でなら切れると思っていたが、何とかなって良かった。失敗してたら今頃切り刻まれていたはずだ。


「このまま、逃げ・・・はぁ?」


血を流しながら廊下を走っていると、

非常灯の明かりの下に人影がいた。

それは紛れもなく何度も見てきたアイツだった。


足を止めて立ち尽くす。ここに来て黒ローブの男も襲ってくるとは予想外、いやタイミング的に仲間かこいつら。この狭い空間で挟まれたら確実に終わる!!


────と考えて後ろを振り返ったら既にセキは待ち構えていた。この挟撃は本当にやばい。


「ねぇ、あなた誰?」


「・・・俺は、そいつを殺す者だ。」


「いや、彼は私の獲物なんだけど。邪魔しないでくれる?ルールがあるでしょ、ルールが。」


「知らん、そんなものは。」


「・・・・・はぁ?」


男の言葉に呆れて怒るセキ。なぜか彼女と黒ローブの男は俺を挟んで言い争い始めた。幸か不幸か、喜ばしい事に、どうやら彼らは味方同士ではないらしい。


「俺は俺の目的を果たすのみ。お前こそ、邪魔をするならまとめて殺す。」


「殺す殺すって、殺意高すぎです。どこの勢力か知らないけど、このまま未来に送り返してあげます!」


「望むところ、──む?」


「──ん?」


「やべっ。」


やばい、普通にバレた。

2人の口論が白熱していたので、その隙に退散させてもらおうと教室に隠れようとしたが、やはり駄目だったか。こうなったらその場の勢いだけが頼りだ!!


「間に合えっっ!!!!」


全力で窓際を目指して走り出す。

そして2人からの追撃を受けながら、

それすらも推進力に変えて窓を突き破る。


ここは3階なので下手に落ちたら余裕で死ねる。

この状況で落下死なんて情けない死に方は御免だ。


そう思って必死に体勢を整えて、一か八か植え込みに着地しようとしたが、恐らくセキが起こした謎の爆風のせいで吹き飛ばされて、校庭前にある大きな木の枝や葉に激突しながらグラウンドに転がり落ちた。


「──っ。」


痛みと衝撃で視界が揺れ動く。骨でも折れたのか、内臓でもやられたのか、うまく立ち上がれない。


そして校庭で寝そべる身体に猛スピードで迫り来る魔の手。地面に這いながら顔を上げると黒ローブの男の方がセキよりも圧倒的に速かった。あの鎌が目の前まで迫ってくる。


「─────カナン。」


私の名前を叫べ、と言われていたが大声は出せなかった。ただ小声で吐き出すように呟くことしか。


「「「っ!!!!!!!!」」」


その場にいた全員がその衝撃に驚いた。


曇り一つない夜空から降ってきた物体は轟音を響かせながら地面を抉って着地し、俺の生命を刈り取る鎌は鉄の大剣に弾かれた。黒ローブの男は目を見開きながら距離を取り、セキも同様に立ち尽くして観察する。


土煙が消えて現れたのは大剣を持った大きな男と、その腕に担がれて目を回すカナン。


状況を見た男は大剣を肩に乗せ、敵を前にして愉快そうに大笑いする。その様子を見て警戒する黒ローブの男とセキ。こうして月覗く夜の校庭で未来人たちは邂逅する。互いの目的と腹を探り合いながら。



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