第18話 三匹のバカ
次の日。
潮多工業の門をくぐったゴウキとジンキは、開口一番ため息をついた。
廊下という廊下で囁きが走る。
「双天鬼だ」「一年であれはヤバい」「マッスル沈めたってマジかよ」「写真拡散されてたな」
男子の目は尊敬と恐怖のミックス。
一方で女子の目は……やたらと熱い。
だが、その熱気の質が問題だった。
刈り上げ金髪に虎のタトゥーもどき、舌ピに鼻ピ。長ランを改造して謎のフリルがついている。
笑えば金歯がギラリ、肩には棍棒。
もはや女子というより“戦闘部族”。
内心の第一印象は失礼だが、「バケモノ」である。
「……なぁジンキ。俺ら、モテるってこういうことじゃなかったよな?」
「定義が違う。あれは“恋愛”じゃなく“狩猟”。」
群れが雪崩のように寄ってくる。
「ねぇ双天鬼ぃ、どっちが彼女募集中?」「腕相撲しよ♡」「私の鉄パイプ、握ってみる?」
最後のは完全にアウトだ。
ゴウキは苦笑しつつ、ふと思いついた顔になる。
「なぁ、お前らの中に中学の友達とかいねぇの?普通の……合コンしようぜ、合コン」
瞬間、群れの空気が変わった。
「私らじゃ満足できないってコト!?」
ギラつく視線。飛ぶヤジ。
二人は同時に半歩下がる。
「ち、違ぇんだって!そういう意味じゃ……!」
「ならどういう意味なんだよ!撤回しろ!」
「撤回!」
殺気立った空気を割って、群れの後ろから一人がひょこっと顔を出した。
黒髪ロング。だが顔は丸く、眼鏡の奥に光る目は妙に吊り上がっていて「ゴリラ寄り」。
清楚の権化……には程遠いが、この集団の中では一番マシに見える。
「……いいよ。私、中学の友達、何人か呼べるよ。私らに比べたら可愛くないかもだけど、それでもいいなら。私は彼氏いるから行かないけど」
(いやいやいや、この集団よりは確実に可愛いだろ!?あとお前は別に来なくていいぞ!!)
二人の脳内ツッコミがハモった。
こうして、合コンの約束はあっさり決まった。
条件は「三人で来ること」。
―
その日の昼休み。
ゴウキはスマホを取り出し、病み上がりのコウスケに電話を入れる。
『いや俺さ、まだ青タン残ってるしさ……』
画面の向こうから弱々しい声。
「青タンは化粧で誤魔化せ。男だけど」
ゴウキが即答する。
『無茶を言うな!』
ジンキが横から淡々と告げる。
「情報屋も戦力だ。来い」
『情報屋って俺、そんな自覚ないけど!?』
結局、しぶしぶ承諾。次の日曜、合コン決定。
―
日曜日。
出発前の三人は、互いの格好を見て黙った。
ゴウキは黒いシャツに派手な柄のジャケット。
鏡の前で「これ着たら絶対モテる」と確信したものの、実際はホストまがいで少しダサい。胸元を大きく開け、シルバーのネックレスまでぶら下げている。
ジンキは白シャツに細身のジーンズ。
シンプルにまとめたつもりだが、アイロンが効きすぎていて逆に「新社会人」。しかも髪を無駄に固めすぎていて不自然にツンツン。
コウスケは「勝負服」と称するチェックシャツと新品のスニーカー。
髪はオールバック気味に撫でつけたが、どう見ても妙に年寄りくさい。さらに胸ポケットから顔を出すボールペンが“社会人研修生”っぽさを強めていた。
「……ま、まぁ、悪くねぇんじゃねぇ?」
「お、おう……」
「だ、だよな……」
心の中では三人同時に(なんか全員ダサくね?)とツッコんでいた。
―
電車に揺られながら、三人は無言だった。
隣の大学生カップルが笑い合っているのを見て、ゴウキがぼそっと呟く。
「……俺らも、あんな感じになれるんだろうな?」
「なれるはずだ」ジンキは真顔。
「なれねぇだろ」コウスケは即答。
そんな会話を繰り返しながら、待ち合わせのカフェに向かう三人。
そこにはすでに三人の女子が座っていた。
二人は学校の“例のバケモノ”。もう一人は連れてこられた友達。
その友達――ひとみ。
黒髪の清楚系で、座っているだけで場がふわっと華やぐような美少女だった。
三人は、完全にロックオンした。
「……マジか」
「……本物だ」
「……奇跡だ」
同時につぶやく。
合コンが、いよいよ始まろうとしていた――。
ここまでお読みくださり感謝です!
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をポチッとお願いします。励みになります!