第13話 仲間だと叫ぶ声
放課後。
夕暮れのグラウンドを抜け、昇降口を出ると、ゴウキが「おい、今日もファミレス寄ろうぜ!」と声を張り上げた。
「俺はあの店員さんに今日こそ声をかける!」
「……まだ諦めてなかったのか」ジンキが呆れ顔で言う。
横を歩いていたコウスケは一瞬迷ったあと、両手を振って笑った。
「悪い! 今日はちょっと用事があるんだ!」
「ほう? まさかデートか?」ゴウキがニヤニヤする。
「ち、違ぇよ!」コウスケは真っ赤になって叫んだ。「親から買い物頼まれてんだ! 牛乳と卵と……あとなんだっけ、とにかくそれだけ!」
ジンキは口元をわずかに上げて「大事な任務じゃねぇか」と茶化す。
ゴウキは「ったく期待させんなよ」と笑い飛ばした。
「まぁいい、じゃあまた明日な!」
「おう!」コウスケは手を振り、逆方向の道へと歩いていった。
二人の声が背中に響き、それを聞くだけで少し胸が温かくなる。
―
スーパーのレジ袋を片手に提げ、帰り道。
夜風が冷たくなってきた。
「……ファミレス行きたかったなー」
小さく独り言をもらし、歩調を速める。
袋の中には牛乳、卵、キャベツ。母ちゃんに頼まれた品ばかり。
「……なんだよ、俺だけ普通の家庭的ミッションかよ」
自嘲気味に笑ったそのとき――
「……おい」
背後から重たい声。
振り返ると、薄暗い路地の奥に十数人の影が立っていた。
街灯に照らされ、アフロ頭が浮かび上がる。二年の田中、通称アフロだ。
「……あんたら」コウスケの声は震えた。
「なんの用だよ」
アフロはゆっくり前に出る。
「お前、ゴウキとジンキの近くにいただろ。……情報を出せ」
「はぁ?」コウスケは思わず笑った。だが顔は引きつっている。
「知らねぇよ、あいつらのことなんて」
アフロは鼻で笑った。
「調べたんだ。だがな、あいつらの素性がまったく出てこねぇ。この辺のガキじゃねぇ。どこから来たのかもわからねぇ。……だったら近くにいるお前に聞くのが一番早ぇんだよ」
取り巻きたちがじりじりと近づく。
レジ袋を提げたコウスケの背中に、じっとりとした汗が流れる。
(やばい……これはやばい)
頭の中で警鐘が鳴り響く。だが――心の奥に浮かんだのは、二人の顔だった。
「……知らねぇって言ってんだろ!」
声を張った瞬間、横から拳が飛ぶ。
頬を打たれ、視界が揺れる。レジ袋が破れ、牛乳が転がり落ちて地面に白く広がった。
「がっ……!」
「言えよ。隠すと余計痛い目見るぞ」
「友達なんだろ? 隠してんじゃねぇよ」
腹に蹴りが入り、息が詰まる。
膝が折れそうになったが、コウスケは必死に踏ん張った。
「ふざけんな……!」
血に濡れた唇を舌で拭い、睨み上げる。
「俺は……絶対に言わねぇ!」
アフロが苛立った顔で顎をしゃくる。
取り巻きの一人が殴りかかるが、コウスケはよろめきながらも拳を振り上げた。
「俺だって……あいつらの仲間だッ!」
乾いた音が響く。
殴りつけた拳は相手の頬をかすめただけだった。
次の瞬間、数人に押さえ込まれ、容赦なく蹴りが飛んでくる。
「ぐああっ!」
地面に転がり、頬を擦りむきながらも叫ぶ。
「ゴウキとジンキは……俺の仲間なんだよッ!」
アフロの眉がぴくりと動いた。
「……ほう。仲間、ねぇ」
殴打音が続く。
だがコウスケは声を上げ続けた。
「絶対に言わねぇ! あいつらは……俺の友達だ!」
その叫びは、夕暮れの路地に響き渡った。
取り巻きたちは笑いながら殴り続けるが、アフロだけは黙り、どこか苛立ったように拳を握っていた。
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