秘密の話
ある人物に呼び出された大和愛人警部は、行きつけの喫茶店『狂気な夢』でココアを飲みながら店で流れているジャズを聴いて目を閉じつつも微笑みながらリズミカルに体をスイングさせてノッていた。
「あのう、大和愛人さんですか?」と怪しげな男が声を掛けてきた。大和愛人は顔をあげた。
「私は常夏少年です。仮名です」
「だいぶ年齢がイッているみたいだけども、君がタレコミ屋の常夏少年なのかい?」
「はいそうです。はじめまして」
「で?」
「実は凄いネタを仕入れてきましてね。すいませんマスター、スパゲッティをちょうだい」
「へい」とマスターの闇岡武夫は言って料理を開始した。
「で? どんなネタなんだ?」
「オフレコでお願いします。あるマンションの一室で、未成年の少女を5人ほど集めてキャバクラ営業をしています」と老けた顔したタレコミ屋の常夏少年は額から汗を流しながら言った。
「なに!? 本当か?」と大和愛人警部は怒りを秘めた声で言った。
「はい。Deliciousアルマジロマンションの509号室に住む高木裕太という男の部屋でキャバクラ『いちごソーダ』という店が営業されています。10代のセーラー服の女子高生が頻繁に出入りする姿が目撃されています」と常夏少年は言うと注文したスパゲッティが来たので食べ始めた。
「マスター、ごめんなさい。フォークじゃなくて割り箸に替えてもらえますか?」と常夏少年は頭を下げながら言った。
「へい」とマスターは言って直ぐに割り箸に替えてくれた。
「しかも、ある政治家が通い詰めていますよ」と常夏少年はムシャムシャとスパゲッティを食べながら言った。
「何だって!? 本当かよ!? そいつは誰だ?」
「駄性党の党首、松元雅広議員です」と常夏少年は言って箸を置いた。
「松元雅広か。不正疑惑で当選したという噂話がある怪しい政治家だ。頻繁にフィリピンに行くのも何だか怪しいよな。他にも未亡人と女子大生にお金を払って、いかがわしい行為をした事がバレて記者会見をしていたよな。キャバクラの件は確かなのか?」と大和愛人警部は言った。
「はい、間違いなく確かです」と常夏少年は言うとスパゲッティを食べ終えた。
大和愛人は腕を組んで壁に掛けられているポスターの男を見た。白髪の外人が挑むような眼差しでこちらを見ているポスターだった。年齢は65歳くらいだろうか。白髪の外人の横のスペースに、こう書かれていた。
『政治家とおむつは頻繁に取り換えなければいけないが、それは同じ理由からである』
マーク・トウェイン
「なかなか素晴らしい言葉じゃん。マーク・トウェイン? 誰だっけ?」と大和愛人は呟いてこめかみ辺りを指で叩いた。
「おい、常夏少年よ」
「はい?」
「マーク・トウェインって知ってるかい?」と大和愛人は言ってポスターを指差した。
「いや、すみません、知らないですね。あの人ですか?」と常夏少年は詫びるような感じで言った。
「マスター、マーク・トウェインって誰かな?」と大和愛人は皿を洗っているマスターに聴いた。
「知らないです」と普段から口数の少ないマスターが頭を下げて言うと再び皿を洗い出した。
「マスター、このポスター、どこで手に入れたの?」と大和愛人は言ってポスターに近付いた。
「家の女房が、2年前だったかな、正月に友達から貰ったみたいで」とマスターは皿を洗いながら言った。
「ふーん」と大和愛人は言ってまじまじとポスターを見ていた。
大和愛人は席に戻ると常夏少年に感謝を伝えてから喫茶店『狂気な夢』から出ていった。
大和愛人は夏の陽射しを浴びながら、ゆっくりと歩いた。
つづく