大和愛人よ、侵入せよ!
大和愛人警部は松川チンタロウの3900円の黄ばんだ敷布団の上に座った。松川チンタロウは気楽に鼻歌を歌いながら空を飛んでいく。ギュィーンと舞い上がっていき、高度1000メートル辺りまで上がった。
「ちょっと高度が高すぎるし寒い」と全裸姿の大和愛人警部は言った。
「わかったよ」と松川チンタロウは言うと急速温度設定の充電式の電気敷布団でもある3900円の敷布団のスイッチをオンにした。
更に松川チンタロウは3900円の敷布団は高度を上げていくのである。2500メートル、2800メートル、3000メートルまで敷布団が舞い上がった時に大和愛人警部は本気でめちゃくちゃブチ切れて松川チンタロウの顎をぶん殴った。
「痛ーい!! うぇーん、うぇーん。顎が痛いよ痛いよ。ああーん」と松川チンタロウ58歳は言って号泣しながら高度を下げていき地上から500メートルの高さまで降りた。
「バカヤロウ!! 松川チンタロウ、危ないだろうが! 何で急に上がったんだよ? フザけんな!!」と大和愛人警部は怒鳴った。
「富士山に勝ちたくて。富士山の高さを超えたら1人前になれるって言われたんだ」と松川チンタロウは泣きながら言った。
「誰によ?」
「中臣鎌足の血を引く男、中臣塊くんにね。彼はハイスクールのクラスメートなんだよ」
「根拠のない話を信じるな。バカタレが!」と大和愛人警部は言って前を向いた。
「あのさ大和愛人警部よ、あんたはオイラよりも、かなりの年下なのによ、年上に見えるんだよな〜。歳を誤魔化してない?」と松川チンタロウは少しだけ笑顔を見せて言った。
「あっ、あの電車っぽいな!」と大和愛人警部は地上を見下ろしながら言った。電車『すみれ』は時速180キロのスピードで走っていた。電車『すみれ』の中で事件は起こっているのだった。
「よし、松川チンタロウ。俺を、あの電車の屋根の上に降ろせ」と大和愛人は言った。
「わかった」と松川チンタロウは真剣に言った。
松川チンタロウは素早く3900円の敷布団を電車『すみれ』の屋根から5メートルまで近づいた。松川チンタロウにとってはこの距離が限界だった。これ以上近付けば3900円の敷布団は屋根に接触して木っ端微塵になる可能性が高かった。
「よし、ここから飛ぶ。松川チンタロウ。ありがとう」と大和愛人は言って松川チンタロウと握手を交わした。
「とおーっ!!」と大和愛人は叫ぶと空中でジャンプをしてバック宙をしながら飛んだ。大和愛人は無事に電車『すみれ』の屋根に飛び移ることに成功した。
大和愛人はバランスを取りながら屋根の上を立ち上がると運転士がいる前の車両へと向かって歩いた。強烈な突風が吹いてきた。大和愛人は後ろに転がり危うく電車から落ちそうになったのを左腕1本だけで屋根にしがみついて難を逃れた。
一方、電車内にいる田辺達也くん17歳は窓の外を見て驚愕していた。全裸の男がぶら下がって田辺達也くんを見ていたのだからね。
「あわわわ。人か!? 人だよな!?」と田辺達也くんは震えながら言って大和愛人警部を見ていた。幸いトレインジャックの男は前の方の車両に移動していた。
大和愛人は猛スピードで走る電車の重力に押され気味だった。鼻水が飛び散りまくる。涙が溢れ出まくる。ヨダレが何故か目に入る。目を乾かすために小刻みに大和愛人ビームを出して視界を保っていく。
大和愛人は大和愛人ビームを使って電車の窓を丸い形にくり抜いていった。
大和愛人は田辺達也くんに話し掛けた。
「青年、トレインジャックされているのか?」
「は、は、はい」
「犯人は何処にいる?」
「前の車両に移りました」
「青年よ、名は何と申す?」
「田辺達也です」
「たなべっち? たっちゃん?」
「たっちゃんって呼ばれてます」
「たっちゃん、乗客は何人くらいいるかわかるかい?」
「分からないですが、皆、後方の車両に避難したみたいです」
「なるほど。ありがとう。よし、たっちゃん、少しだけ下がってくれ」
大和愛人は大和愛人ビームを少量だけ窓に向けて発射すると窓が大きく溶けていった。大和愛人は素早く車両の中にジャンプをして無事に侵入することに成功した。
田辺達也くんは目のやり場に困っていた。大和愛人は素っ裸の真っ裸だからだ。
「たっちゃん、俺は嵐が丘警察署の警部、大和愛人警部だ。裸で驚いているかもしれないけれどもね、俺は裸で生きていきたいんだ。服に着せられて生きるなんて真っ平ゴメンさ。俺は裸でご飯を食べて、裸で映画館に行って、裸でボウリングをしたりバッティングセンターに行ったり、裸で友達の結婚式にだって行くし、裸でお葬式にも行く男なんだよ。田辺くんよ。裸の心で生きろ。裸の魂で生きていけ。隠すな、自分を隠すな。さらけ出せ。裸の自分になるんだよ。わかったかい?」と大和愛人は若い青年に熱いエールを送った。
「はい!!」と猛烈に感動している田辺達也くんであった。
つづく