なぜ消えてしまったのか?
『愛人、元気ですか? お母さんは元気よ。あなたが崖の上で暮らして、もう5年になるのかな。昔はお母さんもお父さんも崖の上にあった一軒家で皆で仲良く暮らしていたけどもお父さんの寝煙草が原因で、あっけなく一軒家は全焼しましたよね。まだ35年もローンが残っていたのに……。お父さんは燃え盛る一軒家を見ながら号泣していたよね。あの時のお父さんの姿が脳裏から離れなくてね、いまだにえらい迷惑をしています。お母さんがブチ切れてお父さんにビンタをしたよね。覚えてる? 実はね、あの時に初めてお父さんにビンタをしたんだよ。それからのお父さんはお母さんにビビっちゃってね、すっかり、かかあ天下になっちゃってさ、これまた、えらい迷惑をしています。お父さんには一家の大黒柱として自覚が欠如しているように思います。ところで愛人、今も全裸なのかい? せめてと思い男性用のTバックを買ってみたから送ります。履いてみてね。愛人、頑張ってくださいね。 お母さんより』
大和愛人は久しぶりに見た母親の文字を見て号泣していた。
愛人は直ぐに黒のTバックを履いてみた。
「お母さん、ありがとうな」と大和愛人は言うと荒れ狂った海を見つめた。
大和愛人のスマホが鳴った。
「もしもし、大和だ。なに?! 牛が行方不明だって?! 10頭も?! 今すぐ、山寺牧場に来てほしいだと?! わかった!」大和愛人はスマホを切ると遠くに投げ捨てた。大和愛人は真夏の荒れた海に向かって飛び込むと背泳ぎをした。
「モォー」牛がのんびりと鳴いた。
山寺牧場のオーナー、山寺沈他が疲れた顔をして警察官の笠井春之に事情を説明していた。様子を見に行ったら牛が10頭もいなくなっていたそうだ。
「ビックラこいただよ。10頭はキツいべ。いきなり10頭はキツいべよ。50頭いたのによう、一気に減ったべよ」と山寺沈他は弱り果てながら言って首を振った。
「不思議な話です。こんな事は初めてなんですか?」と笠井春之は警察手帳に書きながら言った。
「初めてだっぺよ。こんな真夏によ、どこさ消えたのか分からんのよ」
「盗まれたとかは?」
「それはねぇべよ。考えてみろってよ。真夏だぞ。45℃もある田舎の真夏によ、盗むなんてよ、頭がイカれてるべ」
その時、タクシーが止まる音がした。
「運ちゃん、ありがとう。270キロのドライブ楽しかったよ。釣りはいらないよ。ご苦労さん」と大和愛人は言ってタクシーのドアを閉めた。
「あっ、大和愛人警部、お疲れ様です。ご苦労さまです。Tバックですね。珍しいなぁ」笠井春之は敬礼しながら言った。
「笠井くん、ご苦労さん。なかなかカッコいいTバックだろう? 俺の母親からのプレゼントさ」と大和愛人警部は敬礼を返して言った。
「こんばんは。大和愛人警部です」
「どうもだ。山寺沈他だっペ。こんな遅くに悪いべ」
「いえいえ。で、牛がいないと?」
「うんだ」
「何処に行ったかも分からないと?」
「うんだ、うんだ」
「いついなくなったか分かりますか?」大和愛人警部は藪睨みで山寺沈他を見ていた。
「1時間くらい前だべなぁ〜。午後の8時にいなくなったっぽい」と山寺沈他は腕を組んで顎をさすりながら言った。
「俺は今、山寺牧場の空を見上げたんですよ。おそらく、原因は空にあります」と大和愛人警部は言った。
「空? なんでよ。なんの話してるの?」と山寺沈他は不思議そうに聞いた。
「ほら、ちょっと空を見てくださいな」
大和愛人警部は空を指差した。
「あらま!! 何なのよ?! たまげたなぁ〜!!」
空にオレンジ色に光る物体が止まっていた。
「や、大和愛人警部、こ、これは?!」と笠井春之警察官は驚きながら言った。
「UFOだ」と大和愛人警部は言った。
「怖いなぁ」と山寺沈他は言った。
「おそらく、キャトルミューティレーションで10頭の牛が消えたんだと思います」と大和愛人警部は自信を持って言った。
「ところであんたよ、ほぼ全裸でよ、ほぼ丸出しでよ、寒くないのかい?」と山寺沈他は今更ながら言った。
「寒くないです。ご心配をありがとう。でね、宇宙人が牛を拐ったという事だと思います。ちょっと、UFOに話し掛けてみます。おい、宇宙人! お前達だな? お前達がやったんだな? 牛を解放しろ!」と大和愛人警部は顔を空に向けて力いっぱいの怒鳴り声で言った。
「そうだ。悪いか?」UFOから声がした。
「悪い。勝手にキャトルミューティレーションしやがって!」と大和愛人警部は言った。
笠井春之警察官は何がなんだか分からなかった。
山寺沈他もUFOに驚いて唖然としていた。
「勝手にキャトルミューティレーションするなや! キャトルミューティレーションは禁止されている。こんなに頑張って牧場経営をしている山寺さんに迷惑だぞ!」と大和愛人警部は怒って言った。
「いいじゃんか。キャトルミューティレーションしたっていいじゃんか!!」と宇宙人は反抗的な態度を示した。
「ダメだ! キャトルミューティレーションは絶対にダメだ!!」
「キャトルミューティレーションして、牛を捕獲して、ビフテキやステーキにして食べたいんだよ!」と宇宙人は文句垂れた。
「食べたいたらレストランに行きなさい!!」と大和愛人警部は怒鳴った。
「イヤだね! キャトルミューティレーションなら新鮮な肉になるからキャトルミューティレーションを続けるもん!!」またしても宇宙人は反抗的に言った。
「キャトルミューティレーションは禁止されているんだ!! 止めないと大変な目に合うぞ!!」と大和愛人警部は強く警告した。
「我々は宇宙人だからキャトルミューティレーションをして牛を捕獲し、良質なビフテキやステーキにして食べる!! それが宇宙人の食事ライフなんだ!」
「わからやずや!!」と大和愛人警部は激怒すると目から大和愛人ビームを出してUFOを撃墜した。
UFOは木っ端微塵になって消えたが辺りに部品が散乱した。
「山寺さん、もう大丈夫です。消えた牛は残念ですが、残った牛の方は大丈夫です」と大和愛人警部は山寺沈他さんの肩に手を置いて言った。
「あ、あ、アンタにもたまげた。全裸で目からビームを出すなんて。凄いべ。宇宙人と言い合いするのも凄い。たまげたよ」
「おそらく、腹を空かせた宇宙人によるキャトルミューティレーションで牛は消えたという事だと思います。ではさらば!」と大和愛人警部は敬礼をすると走り去り闇の中へと消えてしまった。
つづく