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Deliciousアルマジロマンションの509号室の高木裕太とキャバクラ『いちごソーダ』

大和愛人警部と早乙女あつ子は神妙な顔つきで目的地に向かった。しばらくの間、車はスムーズに進んだが、またしても渋滞にハマってしまった。さすがに大和愛人警部は苛立ってきた。こんな時間帯に渋滞はあり得ないとも思った。


Deliciousアルマジロマンションの509号室に住む高木裕太まで、あと500メートルほどの距離に近付いていた。車は動かない。面接も間に合うかどうかの時間だ。


「よし、早乙女、車から降りてマンションまで走れ」と大和愛人警部は言って車の鍵を開けた。


「はい、分かりました」早乙女あつ子は覆面パトカーから出ようとした。


「待て早乙女。一応、超小型無線機イヤホンと超小型ボディカメラを付けろ。超小型無線機イヤホンは耳の穴に入れるとイヤホンが耳の穴に変化して同化するという最新テクノロジーのイヤホンだ。しかも人工知能のイヤホンなので、音が鮮明かつ自然に聞こえる優れものだ。相手の声や周りの声や自然の音も俺に聞こえるタイプだから俺も相手の言葉を慎重に聞いて判断する。高いから壊すなよ。面接では偽名を名乗れ。『富田可奈子』と名乗れよ」


「はい」


「超小型ボディカメラは犬のバッチにカメラを付けた物だ。これも高いから壊すな」


「はい、大和警部」


早乙女あつ子は超小型無線機イヤホンを耳に入れて超小型ボディカメラのバッチを胸元に付けた。


「早乙女、俺の覆面パトカーはDeliciousアルマジロマンションの下で待機させておくから心配するなよ。何かあれば駆け付けるから」


「はいわかりました」


Deliciousアルマジロマンションは不気味な雰囲気のする胡散臭いマンションだった。マンションの入り口に痩せた男がお婆さんをおんぶしている銅像があった。全く意味が分からない銅像だった。痩せ男は泣き顔でマンションの入り口を見ていて、足元に『ようこそ、おいでなすった』と彫られた茶色の板があった。お婆さんは片目だけを開けて早乙女あつ子を見ているように見えた。


早乙女あつ子はマンションの入り口に入って509号室のインターホンを鳴らした。


『はい』


『富田可奈子です』


『はい。どうぞ。エレベーターで5階に来たら奥の方に部屋があるので間違わないで来てください』


『はい』


早乙女あつ子はエレベーターに乗った。エレベーターの扉に針金かコインか何かで『ヤリマン』と引っ掻いた傷跡かあった。エレベーターにある防犯カメラの赤いライトが点滅していた。


5階に着いた早乙女あつ子は早くも異変を察知した。509号室の部屋に続く通路だけ灯りが付いていないのだ。他のところには点滅しながらも電灯があった。


早乙女あつ子はゆっくりと509号室に向かった。


509号室の扉には、『キャバクラ いちごソーダ』のライトが付いていた。


早乙女あつ子は深呼吸をしてインターホンを押した。


『はい』


『富田可奈子です。高木裕太さんですか?』


『はい、そうです。ドアは開いているので入ってきて』


『わかりました』


早乙女あつ子は静かにドアを開けた。ムッとする空気が早乙女あつ子の鼻先をかすめた。部屋の中は薄暗く古いフォークミュージックが流れていた。早乙女あつ子はためらっていた。





つづく





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