寛大さ
「おい、イカレポンチ! 早くダンプカーをどけな! 邪魔なんだよ! お前も邪魔だ!」とマスタングのおばさんは言った。
「なんだとババア! ババア、何もんだ? そんな不良みたいに革ジャンなんか着てよ! なかなか似合うじゃんかよ!!」と錯乱しているダンプカーの運転手は怒鳴って褒めてくれた。
「ダンプカー、早くどけろ!」
「イヤだね! 絶対にイヤだね。イヤだねイヤだねイヤだね」と錯乱しているダンプカーの運転手は言って腰を振りながらバットを振り回した。
「卑猥な野郎だな! おい、運転手、名前は?」
「アウストラロピテクスです」と錯乱しているダンプカーの運転手は言った。
「テメェ、ナメてると場合によっては、やるよ」
「ヒバゴンです。4番、サード、ヒバゴン、ヒバゴン。本当はアウストラロピテクスです」と錯乱しているダンプカーの運転手は言うとバットを素振りした。
頭にきたマスタングのおばさんは腰に付けていた『ヨコハメ』と彫られた刀を抜くと錯乱しているダンプカーの運転手に向けた。実は失敗だった。本当は『ヨコハマ』と掘りたかったのだった。
「ヨコハメ? 卑猥なのはババアじゃないかよ!! 伸びろ! 僕の如意棒! 4番、サード、ヒバゴン! 本当はアウストラロピテクスです」と錯乱中のダンプカーの運転手はバットを股間に当てて腰を振り回しながら言った。
「わいせつ罪で逮捕する!」とマスタングのおばさんは言って錯乱しているダンプカーの運転手をぶん殴って倒すと手を後ろに回して固定して手錠をかけた。
「待って待って。まだ逮捕は待って。地面だけ掘らせて。マントルだけ取り出すから」と錯乱したダンプカーの運転手は泣きながら訴えた。
「どの部分のマントルを掘り出すの?」
「2900キロメートル先の下部マントル辺りまで。内核は無理だけど下部マントルならいけるから。絶対にいけるから!」
「マントル取り出してどうするの?」
「マントルを働かない無能な政治家にぶつけてやるんだ! 二世議員とかにね! 国会で寝ている老人どもにもね! 国民を騙してばかりいる政治家にもな!! 税金ばかり上げやがってよ! 移民が裕福で日本人が貧しいって何なんだよ!! 日本人を苦しめてばかりでよ!! 地球を叩き割って今すぐにマントルだ! 今すぐにマントルを取り出して、今すぐにマントルをボンクラの悪い奴等にぶつけてやる!! マントルだ!! マントルだ!! それと給料上げろ!!」と錯乱しているダンプカーの運転手は、結構、一理ある事を訴えた。
周りで聞いていた渋滞中の車の運転手たちは心に響いたのか、拍手をしていた。
マスタングのおばさんは錯乱したダンプカーの運転手の手錠を外した。
「よしわかった。アウストラロピテクスと名乗る運転手。今すぐに地球を叩き割ってマントルを取り出すことを許可する」とマスタングのおばさんは寛大な処置をした。
「本当ですか? マントル取り出してもいいんですか?」とアウストラロピテクスは泣きながら言った。
「うん、許可するよ」とマスタングのおばさんは言ってスマホを掛けた。
「わーい、わーい」と錯乱中のダンプカーの運転手、アウストラロピテクスは持っていたバットで地面を叩き始めた。
しばらくすると救急車のサイレンが聞こえてきた。
マスタングのおばさんはサイレンがする方を見ていた。
アウストラロピテクスは満面の笑顔で地球を叩き続けていた。ひたむきに2900キロメートル先を見据えながら。
つづく




