年代物
早乙女あつ子はムチを取り替えた。真っ黒なムチだった。職人の手作りによる年代物、アンティークなムチムチとしたムチだった。ちょっと雰囲気が違うムチムチとしたムチだった。
早乙女あつ子はムチを激しく振り回してバック転をするとジャンプして天井にある監視カメラを殴って破壊した。
「あっ!?」と大和愛人警部は言って壊れた監視カメラを見上げた。
「ちょっと早乙女ちゃん!! 何やってるのよ!! 壊したらダメでしょ!!」と牛島チョコミントは怒鳴ると床に寝そべって足をブラブラさせながらメモ帳に『知ーらないんだぁ、知らないんだぁ、先〜生に言ってやろう。早乙女ちゃん、勝手こいて監視カメラをぶん殴る。監視カメラってさ、いくらくらいするんだろうね? 値段を知るのが怖いよね。本当に早乙女ちゃんのやつ。何しちゃってんだか。やれやれ。急に疲れがドッと出た』と書いてキメ細かく分析した。さすが牛島チョコミント。分析のプロフェッショナルだけあって温かみのある優れた見事な文章で緻密に分析をしていた。さすがだよな、牛島チョコミントって思ったより凄い分析能力を見せつけちゃってる。
早乙女あつ子は油断している牛島チョコミントの背中に目掛けてムチを振り下ろそうとした。
その時だった。
大和愛人警部が早乙女あつ子の手を止めて押さえたのだ。
「早乙女、やめろ。そこまでだ」と大和愛人警部は冷静に言い聞かせて止めさせた。
「大和愛人警部……」と早乙女あつ子は言ってムチを静かに下ろした。
「ちょっと、大和!! 勝手に止めんなや!! あと少しでぶたれたのに!!」と牛島チョコミントは猛烈な抗議をしてから床に寝そべってメモ帳に怒りの殴り書きをした。
『大和の奴〜。シドい。シドすぎるぅ。あと少しで早乙女ちゃんの本気のムチさばきが経験できて痛みを正式に評価出来たのにさ。大和の奴め、早乙女ちゃんの本気を踏みにじりやがってよ。プンスカプンスカ。ムチも可哀想〜。だってさ、だってさ、せっかく人をなぶり倒せたのにさ。結局、早乙女あつ子の女王様によるSMチックな痛みの度合いが分からずじまい。ガックリ。これからの早乙女ちゃんがポジティブに生きていけたらいいなぁ〜。頑張ってね、早乙女ちゃん!』と牛島チョコミントはもの凄く詳しく現在の心の葛藤と早乙女あつ子のムチさばきについて緻密に分析能力を発揮した。さすが、プロの中のプロによるヒューマニティ溢れた分析能力だ。21世紀の最先端の分析能力だ。
「大和、何で止めたのよ?」と牛島チョコミントは抗議した。
「牛島、早乙女あつ子のムチを見てみろよ」と大和愛人警部は言った。
なんと、早乙女あつ子のムチは黒光りをして点滅していた。
「これは!?」と牛島チョコミントは驚いて早乙女あつ子に駆け寄った。
「牛島、早乙女あつ子のムチは19世紀のフランス製の高級なムチだ。ミッシェル・アンリ・ギャバンというムチ職人による正真正銘の手作りだ。ミッシェル・アンリ・ギャバンが最後に製作した遺作のムチでもある。ミッシェル・アンリ・ギャバンは、ある女性に恋をして交際を申し出たが断られてしまった。途方に暮れた傷心のミッシェル・アンリ・ギャバンは深夜に、この女性の家に黙って忍び込んで、寝ている女性に向かって、このムチで死ぬまでムチで叩いて殺害したという、いわく付きの呪われたムチなんだ。しかも、警察に捕まえられたミッシェル・アンリ・ギャバンは逆に、このムチによる死刑を言い渡されて、ミッシェル・アンリ・ギャバンは自ら製作したムチで叩き殺されてしまうというシンクロニシティを体験して死刑を執行された。ムチは警察に保管されていたが、この警察の刑事が黙ってムチを持ち帰った日の夜にだ、何故か何者かによるムチ叩きに遭ってしまい殺害されるという悪夢の循環を招く悲劇に見舞われたんだ。このムチは通称『ミッシェルのムチ』と呼ばれて博物館に所蔵されていた代物なんだ。つまり、牛島チョコミントは、あと一歩でお陀仏になる可能性が高い結果になったという事なんだよ。牛島、この『ミッシェルのムチ』で打たれたいのかよ!! 気絶してもいいのかよ? 死んでもいいのかよ? 呪わたムチで打たれたら後悔するぞ。それでも打たれたいのかよ!!」と大和愛人警部は言った。
「打たれたい」と牛島チョコミントは言った。
「な、何!?」と大和愛人警部は驚愕した。
「こんな経験、二度と出来るわけないじゃん。ミッシェルのムチだっけ? そのムチで気絶するまでぶたれたい」と分析能力のプロ中のプロ、牛島チョコミントは迷わずに言った。
「バカ野郎!!」と大和愛人警部は怒鳴ってから牛島チョコミントを力強く殴り倒した。牛島チョコミントは「いやん」と叫んで気絶した。
つづく




