やる気あり
現役のSMの女王様と刑事の二足のわらじを持つ美人の早乙女あつ子とプロの中のプロの分析官である牛島チョコミントはお互いに向かい合って見つめていた。大和愛人警部はパイプ椅子に座ろうとしたら陰毛がウィンナーの皮に挟まってしまい一挙に激痛が走り痛い思いをしたが声には出さなかった。大和愛人警部は痛みに耐えてパイプ椅子に座った。それが男なのだ。男の痛みを乗り越えて股間の位置を直すためにモゾモゾと動いてみたが定まらなかった。
早乙女あつ子と牛島チョコミントは激しくメンチを切り合っているばかりで一向に分析が始まらないでいた。大和愛人警部は黙って様子を見守っていた。余計な口出しはいらないのだ。侍の真剣勝負と同じようなものなのだから。
「早乙女ちゃん、やれよ! 早く僕をムチで叩いてみろよ!」と最初に声をあげて威嚇したのは牛島チョコミントだった。
「早乙女ちゃんよ、何を躊躇う? ビビるなよ。たとえ仕事仲間でもビビるなよ。僕は分析をしたいんだ。お互いにプロフェッショナルの仕事をしようぜという話なんだよ。さあ、やれよ早乙女ちゃん!」と牛島チョコミントは発破を掛けて言うと腰を落として身構えた。
早乙女あつ子は微動だにしなかった。ただボンヤリとした半眼になって牛島チョコミントを見ていた。半眼は半分は外の世界を見つめて、もう半分は内なる世界を見つめることを意味する。仏像が半眼なのは『心の目で内なる世界と外の世界を観ることで全てを包括せよ』を意味する。物事を半眼で見て心眼で世界を悟るということだ。早乙女あつ子はSM女王様だ。しかも現役バリバリのSMの女王様だ。心眼、半眼を使ってSMの女王様として外の世界と内なる世界を行き来する心の旅人なのかもしれない。ムチを振り回しながら現実を知らない無知な人間にはなりたくないという叫びもあるのだろう。早乙女あつ子のSM女王様ぶりには心の葛藤と悩める姿が滲んで見えるのだ。だがね、SMの女王様としてトップに君臨するがゆえの孤独とも言えるわけでね。
「早乙女ちゃん、どうしたのよ? 早くムチで叩いてよ!」と牛島チョコミントは言って床に四つん這いになって待っていた。
早乙女あつ子は用意していたムチを振り回し始めた。
ひゅん
ひゅん
ひゅん
と空気を裂くムチの音が時間を切り刻むかのように弾けていく。
「いくわよ!! 私、早乙女あつ子がSMの女王様として活動する時の名前は、『アバンギャルド美沙希』よ!! でも、本日は、本名でやるからね。私の本名は早乙女あつ子よ!!」と早乙女あつ子は叫ぶと牛島チョコミントの背中に目掛けてムチを振り落とした。
バシッー!!!!
「ウヒョー!!!!」と牛島チョコミントは絶叫した。
バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
早乙女あつ子は10回も連続でムチで叩いた。
牛島チョコミントは堪えていた。
「早乙女ちゃん、なかなかやるな。だけども本気じゃないな? まだまだ本気じゃないな? いたぶるように僕を叩いてみろよ!!」と牛島チョコミントは言ってメモ帳に何かを書いた。
『早乙女ちゃんの最初のムチは、思ったよりも痛いけども、まだそんなに痛くない感じ。今のところは2点かな。評価は10点満点です。早乙女ちゃん、やれよ、やれるもんならやってみろよ。果たして僕を倒せるかな。フッフッフッ!』と牛島チョコミントはメモ帳に汚い字で書いて分析を開始したのだ。分析のプロ中のプロが遂に分析を開始しちゃったのだ。
早乙女あつ子は新体操選手みたいに華麗な舞を見せるとムチを振り落とした。
「まだまだだよ、早乙女ちゃんの実力はそんなもんかい?」と牛島チョコミントは言った。
「牛島チョコミント、私を女王様とお呼び!!」と早乙女あつ子は大声で牛島チョコミントの耳元で言ってからムチを振り落とした。
「ウヒョー!!」と牛島チョコミントは悶絶し出した。
『ちょっと、痛いかな。さっきより肉が引き裂かれるような痛みあり。早乙女ちゃん、ちょっとこあい。なんだかこあい。4点だと思う』と牛島チョコミントはメモ帳に汚い字で書きなぐった。分析のプロの中のプロが本気で分析を開始したように早乙女あつ子も本気でムチを振り回し始めた様だった。
早乙女あつ子はカッと目を見開いた。
つづく




