コンドル佐々木
松山は1杯目のテキーラを飲み出した。松山は目を真っ赤に充血させて天井を仰ぎ見る形でグラスを傾けて飲んだ。1杯目は難なく飲み干せた。2杯目のテキーラを飲もうとした時、松山は頭を掻きむしった。なかなか飲めずにグラスをボンヤリと見ていたが、決心して2杯目のテキーラを飲み干した。松山が3杯目のテキーラを飲もうとした時、首を左右に振って拒絶反応を示した。『もうテキーラを飲みたくない。でも、すみれちゃんのオッパイは触りたい。ダメなら、すみれちゃんの母親のオッパイでも構わない。それもダメならどうしたら良いのか判らない。どうしたらいいんだろうかな? 人生って悩みの連続だ。やらなければならない難題が次々と現れてくる厄介さに苛立つよな。でも、すみれちゃんのオッパイさえあれば、この世はまだまだ頑張れるんだぞ、頑張れるはずだぞって言えるはず。言えるはずだ。オッパイって地球の平和を守るためにあるんだなぁ〜』と松山は思っていた。もう時間がない、松山は3杯目のテキーラを飲もうとグラスを手にして口に近付けた時だった。松山の首筋にチクリと軽い違和感と痛みが走った。慌てた松山は首を触って出血がないかの確認をしたが血は出ていなかった。たまたま、大きな蛾が松山の首筋に止まったのだった。それに驚いた早乙女あつ子は松山の首筋を思いっきりグーで殴ってみた。松山は「オエッ!!」と言って3杯目のテキーラを吐き出した。
「どうしたんですか?」と早乙女あつ子は言った。
「わからない。目を閉じて頑張ってテキーラを飲もうとしたんだ。急に首に激痛が。首が、もげそうなんだ」と松山はテキーラを胸元にこぼして言った。
「もげそうって、何?」と早乙女あつ子は意味がわからずポカンとして言った。
「もげるは山形辺りの方言なのかな。すみれちゃん、もげるの意味を聞かれても答えを言いにくいよ。だってもげるはもげるだから。もげるはもげるなんだよ」と松山は言って赤くなった首筋をさすった。
「何だこれは!?」と松山は手に付着した粉々の蛾を見て驚いた。
「蛾じゃないですかね?」と早乙女あつ子は言った。
「この野郎、蛾め! 首筋に止まるなよな!」と松山は言っておしぼりで手を拭いた。
「でもさ、蛾が止まっただけでさ、首がもげそうになるものかな? 痛い。凄くもげそうだ」と松山は首を手で押さえて不思議そうに言った。松山は酔いが回りきっていて涙を流しながら話していた。
「だから、もげるの意味が分からないのよ。もげるって何なの?」とすみれこと、早乙女あつ子は苛立って言った。
「すみれちゃんもしつこいよ! もげるはもげるだってば!」と松山は怒鳴ってテーブルを叩いた。
「すみれちゃん、僕の首がもげてもいいのかよ!」と松山は泣きながら言っていた。
「別に泣かなくても」と早乙女あつ子は少し戸惑って言った。
「すみれちゃん、頑張ってテキーラ飲んでいて首がもげそうになるキャバクラなんてあるのかよ!」
「松山さん、なんとなく、もげるの意味が分かってきた」
「じゃあ、すみれちゃん。意味を言ってみてよ。ヒン、ヒン」と松山は嗚咽しながら言った。
「意味は痒い?」
松山は立ち上がるとグラスを床に叩き付けた。
「すみれちゃん、ナメんなや! もげるの意味はもげるだ!!」と松山は体をフラフラ動かして立っていた。
奥から部屋から、キャバクラ「パック」に勤務しているガタイの良い用心棒が走って現れると松山の体を軽々と持ち上げて床に叩き付けた。
「お客さん、グラスの弁償しろや。グラス、1個30万だ」と用心棒のコンドル佐々木は指を鳴らしながら警告した。
「体が、体が、もげそうだ!」と松山は床でのたうち回りながら絶叫した。
早乙女あつ子はスマホを出して『もげる』と入力をすると画面を睨んで真剣に『もげる』の意味を調べた。
「なるほどね。やっと『もげる』の意味がわかったわ。松山さん、松山さんは山形生まれなの?」と早乙女あつ子は床を転がっている松山に聞いた。
「い、いや違う。わ、和歌山。そんなことよりも体も首ももげる〜ぅ!!!! すみれちゃん、すみれちゃん! すみれちゃんのオッパイを触らせてくれたら治ると思う! 頼むすみれちゃん! すみれちゃんのオッパイを触りたい!」と松山は必死な顔をして叫んだ。
「俺のオッパイで我慢しろや」と用心棒のコンドル佐々木は言って松山を抱きしめると松山の顔を胸元に引き寄せて埋めた。
つづく




