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とりあえず内緒にしとく

エリコと松山が竿竹屋のテーマソングを熱唱している時に、店の扉が開きハツラツとした男が入ってきた。男は受付に行かずに店内に足を運んできた。店長の中村喜代太郎は慌ててエリコの側へ行き耳に口を寄せて小声で話した。


「エリコちゃん、ごめん。あちらのお得意様の方に付いて。ごめんね」と、中村喜代太郎は手を合わせてお願いをした。


エリコは後ろを振り返ると男はにこやかに手を振ってエリコを見ていた。エリコは頷くと、中村喜代太郎に「わかった」と小声で返した。


「松山さん、ごめんご、ごめんご。ちょっと席を外しま〜す。またね」とエリコは早口で言うと立ち上がって頭を下げて席を外れた。


「早乙女ちゃん、代わりに松山様の接客お願いね」と店長の中村喜代太郎は早乙女あつ子に言った。


「わ、私!? できるかな」


「できるできる。早乙女ちゃんならできる。ガンバルンバだよ。頑張ってちょだーいよ。スミレちゃんという源氏名でいくよ。頑張ってね、スミレちゃん」と店長の中村喜代太郎は優しく励ました。


「で、では行ってきます」


早乙女あつ子は緊張しながら松山の隣の席に座ったが顔と全身が緊張のあまり強張っていた。


「おーっ! ちょっと、めっちゃ美人じゃん! お姉ちゃん、お名前わぁー?」とビールの飲み過ぎのため目の焦点が合っていない松山は言った。


「スミレです」


「えーっ、ウッソ!? 奇遇にも偶然にも運命にも感じちゃうじゃんか! 僕ね幼稚園の頃ね、スミレ組だったの。あははは」と松山は言って万歳をしていた。


「そうですか。それは単なる偶然ですね」と早乙女あつ子はサバサバと言った。


「あ、あれ? なんだかスミレちゃん、冷たくない? そんな冷たい言い方は寂しいなぁ〜」と松山は言って体を揺すって駄々こねた。


「別に普通ですよ」と早乙女あつ子は言っておしぼりで自分の顔を拭いた。


「コラ、スミレちゃん。おっさんみたいにおしぼりで顔を拭くのは止めなさ〜い! はしたない」と急に松山は声を荒げた。


「美人がおしぼりで顔を拭くなんて、みっともないんだよ!」と松山は言って早乙女あつ子のおしぼりを奪い取っておしぼりの匂いを嗅いだ。


「おしぼり返せ、この野郎!」と早乙女あつ子は激怒して松山の顔をぶん殴った。


「痛っ!! 凄く顔が熱くて痛いぞっと!! めちゃくちゃ痛いぞっと!! あはははは」と松山は言って万歳をした。酔いが回っているので全てが麻痺し出していた。残念ながら松山の右側の頬にヒビが入っていた。


「スミレちゃんスミレちゃん! ちょっと来て! 松山様、すみません!」と店長の中村喜代太郎は慌てて早乙女あつ子の腕を掴んで調理場の手前にある小部屋に連れて行った。


「ちょっとスミレちゃん! ダメだよ。人を、お客様を殴ったらダメだよ。大変な事になるよ!」と店長の中村喜代太郎は冷や汗タラタラで厳重に注意した。


「あの野郎、人のおしぼりは盗むわ、話し方がネチャネチャしていて気持ち悪いんですよ!」と早乙女あつ子は言い返して扉を睨み付けるとガルルルルと吠え出して扉を殴りつけた。


「早乙女ちゃん、大丈夫? 仕事続けられる?」と中村喜代太郎は心配そうに聞いた。


「大丈夫です。席に戻りますね」と早乙女あつ子は一礼して小部屋から出ようとした。


「待って、早乙女ちゃん。頑張ってね。大和愛人警部には内緒にしとくから。私の口にチャック・ウィルソンしちゃうからね」と店長の中村喜代太郎は優しく言ってくれた。


早乙女あつ子は気合を入れ直して松山の隣の席に座り直した。


「急にいなくなって、どうしたのスミレちゃん?」と松山は言ってテキーラを飲んでいく。


「もう大丈夫です」と早乙女あつ子は言って空になったコップにテキーラを入れると松山に渡した。


「もう美人なスミレちゃんはおしぼりで顔を拭いたらダメだよ」と松山は言ってテキーラをガブ飲みしていく。


「テキーラ、お代わり。自分でつぎまーす」と松山は言って空のコップを早乙女あつ子に見せた。松山は空いたコップ3つにガンガンテキーラを注いでいく。


「あのさスミレちゃん、3つのテキーラを20秒以内に飲み干せたらスミレちゃんのオッパイを触らせて」と松山は言った。


「スミレちゃんもオッパイがデカいけど、やっぱりさ、スミレちゃんのお母さんのオッパイもデカいの? 遺伝? 遺伝なの?」と松山は飲み過ぎのために涙を流しながら言った。


早乙女あつ子は一瞬だけ松山の首を絞めて意識を落とそうとする所まで言ったが我慢して止めた。


「スミレちゃん、スミレちゃん。スミレちゃんのオッパイって、89センチくらいあるんじゃないのかな。スミレちゃんのオッパイはデカいね」と松山は言って拍手した。


「20秒以内に飲み干せたら触らせましょう。もし、できなかったら、私のしたい事をしてもいいですか?」と早乙女あつ子は冷静な状態を保ちながら言った。


「良いよ。絶対に勝つ!」と松山は力強く宣言してテキーラの入った3つのコップを見つめた。


「では、よーい、ドン!!」と早乙女あつ子は言って腕時計の針を睨んだ。





つづく



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