思いやりと気遣い
早乙女あつ子は、一瞬、昔の自分の姿を思い出してノスタルジックな夢心地になってしまっていた。青春時代は素晴らしいものだ。日本人の青春時代こそ本物の青春時代だと思うのだ。早乙女あつ子は、結局、女番長として馬鹿しかいない馬鹿ばかりの銀紙第二高等学校で青春をエンジョイをしたのだ。夏休みにはヌンチャクと木刀を持って馬鹿な不良たちとの抗争に明け暮れる毎日だった。ゆくゆくはヌンチャクや木刀から鞭に変わった。鞭を振り回しながら喧嘩に明け暮れる毎日でもあったのだ。馬鹿ばかりの銀紙第二高等学校ではあったが、中には、そうとは言えない人材や才気溢れる生徒が居たのも確かなのだ。馬鹿ばかりだけど心優しい素直な人間しかいなかったとも思う。馬鹿だけど頻繁にキャトルミューティレーションされる生徒もいれば、馬鹿なのに頻繁に幽体離脱する生徒もいたし、馬鹿すぎて頻繁に神隠しに遭っては忘れた頃に戻ってきたりする生徒もいたし、馬鹿な振る舞いで頻繁に死にかけたり、馬鹿なフリして頻繁に早退する生徒も、馬鹿だと自慢気に語る輩は頻繁に保健室でサボっていた。馬鹿で気が優しい温かい奴らのお陰様で何よりも銀紙第二高等学校には自由があったのが1番良かったとも思った。馬鹿しかいない高校だったけども、馬鹿は馬鹿なりに明日を夢見て真っ直ぐに素直に生きていたのだ。『もしガリ勉だらけ、クソ真面目、規律だらけの生徒しかいなかったら息苦しかっただろうなぁ〜。ガリ勉は抑圧された人生を生きるだろうからな』と早乙女あつ子は思ってもいた。 早乙女あつ子は海で遊び、山を駆け回り、川で魚を釣り、花火をして、盆踊りを踊り、扇風機に向かって熱唱する女の子だったのだ。そう、それが青春なのだ。やったね青春。そうだぜ青春。青春時代は美しいものなのだ。
「聞いてんのか早乙女、ボーッすんなよ! 白昼夢してるんじゃないよ!」と大和愛人警部の怒鳴り声で早乙女あつ子は我に返った。
「ああ、大和警部、すみません。ちょっとボンヤリしてました。朝メシ食ってなくて」と早乙女あつ子は言って頭を下げた。
「ほら食えよ」と大和愛人警部は言って机の引き出しからイカの塩辛の瓶詰めを2つ出して早乙女あつ子に投げた。
「え!?」と早乙女あつ子はイカの塩辛の瓶詰めを受け取って言葉を失った。
「ほら、これもだ」と大和愛人警部は言って机の引き出しから新米の梅のおにぎりを2つ出して早乙女あつ子に投げた。
「ああ、警部、助かります」
「早乙女、まだある。これもだ。食え」と大和愛人警部は言って机の引き出しから、ほかほかの茨城産の石焼き芋を2つ取り出して投げた。
「おまけだ」と大和愛人警部は言うと机の引き出しから焼とうもろこし2本出して投げた。
「ああ、大和警部、こんなにいっぱい。ありがとうございます。大和警部、何で2本ずつ、くださるんですか?」と早乙女あつ子は言った。
「何故って!? ここは日本だからだ。日本人は日本に住む日本人だから2本ということさ」と大和愛人警部はいうと机の引き出しから日本の天然水のペットボトルを2本出して早乙女あつ子に投げた。
「大和警部、本当にありがとうございます!」
「良いってば。気にすんな。早く食え、この野郎。ピーィピーィ」と大和警部は言って口笛を吹いた。
「ピーィピーィピーィ」と早乙女あつ子も釣られて口笛を吹いた。
つづく




