授業中
早乙女あつ子は驚愕していた。馬鹿しかいない高校といわれる銀紙第二高等学校の授業内容や校則のルールの歪さに仰け反ってもいた。例えば、高校生なのに、未確認飛行物体や未確認動物やお化け、心霊現象に重点を置いた授業内容だった。
校則ルールも実に奇抜だった。例えば、1腹減ったらメシ食えよ2眠たくなったら寝なちゃい3歯は磨け4生きろ5楽しめよ、の5つしかないのだ。
「えー、おはようさん。では今日は未確認飛行物体の授業をはずめる」と訛りの強い未確認飛行物体担当のヤマザレス店長先生は頭を掻きながら言った。
「キャトルミューティレーションについての授業を開始しますよ。プリント配るから後ろに回せよ」とヤマザレス店長先生は言ってプリントを数えようとしたがプリントが上手く掴めず指先にツバを付けて滑り止め効果を発揮させてからプリントを配り出した。
『1958年6月28日。新潟で不可解な事件が発生した。畑仕事を終えた山田ウメさんが、お茶を飲みながらラジオを聞いていたら、突然、150センチくらいの男が目の前に現れた。山田ウメさんは驚いたが丁寧に男に挨拶をした。男は山田ウメさんの隣に座ると「お姉さん、今、ヒマ? 一緒にドライブしない?」と男に山田ウメさんは人生で初めてナンパされてしまったのだ。山田ウメさんは87歳だ。花の独身の87歳だ。毎日、独身生活をエンジョイするメスだった。いや、女だった。「今、畑仕事中だからダメ〜っ」と山田ウメさんはいじらしく、顔を背けて女を出した。「いいじゃん、いいじゃん。一緒にさ、良いことしようよ。うへへへ」と男は馴れ馴れしく山田ウメさんの肩に手を置いてナンパを続行した。山田ウメさんはときめいていた。『ナンパって乙女心をくすぐるわ』と思ったのだ。『でもこの男、チンチクリンすぎるわ』とも思った。『チンチクリンだけども優しそう』、『チンチクリンだけども誠意はあるかもだし』、『チンチクリンだけどもハンサムっぽいし』とも思ったのだ。おまけに『チンチクリンのチンチクリンによるチンチクリンのためのチンチクリンによってチンチクリンらしくチンチクリンであれ!、て事なのかなっ。ムフフ。テヘッ』とも思ったのだった。突然、チンチクリンの見知らぬ男は山田ウメさんに抱きついて胸を弄ろうとした。山田ウメさんは一気にブチ切れてチンチクリンの男に持っていた鎌で手を切りつけた。チンチクリンの男は痛みを感じないのか無表情で山田ウメさんの胸を弄ろうとした。「怖がるな、お姉さんの弱りきった心臓を治してやるだけだから」とチンチクリンの男は言って山田ウメさんの胸をまさぐった。驚くことにだ、山田ウメさんの呼吸は安定しだして、高鳴る動悸が穏やかになってきたのだ。山田ウメさんは若い頃に心臓発作で倒れてから心臓に不安を抱えていたのだ。だが今は心臓が力強く感じていた。「ちょっと、走っても良いかしら?」と山田ウメさんは言うと立ち上がって、走り出した。山田ウメさんは風を感じていた。まるで忍者のような素早さを感じていた。『私はカールルイスかベン・ジョンソン』という謎の人物の名前を呟きながらは山田ウメさんは走っていたのだ。『ジョイナーかな?、それともボルトかもね』という謎の人物の名前を付け加えながら走っていたのだ。1958年にはいないオリンピックのスターの名前だ。ありえない。絶対にありえない人物の名前だった。その時、「ギャー!!!! 助けて!!!!」という悲鳴が聞こえたので山田ウメさんは後ろを見た。悲鳴をあげたチンチクリンの男は空中に浮かんでいて、そのまま、空高く登っていったのだ! 山田ウメさんは空を見ると大きな円盤が浮かんでいた』と配られたプリントに書かれていた。
早乙女あつ子は眉間にシワを寄せて頭を抱えながらプリントを読んでいた。
「ヤマザレス店長先生、これはなんですか?」と早乙女あつ子は質問した。
「それについて、今からね、授業で話す」とヤマザレス店長先生は咳払いをして言った。
「はい、皆、プリント読んだか?」とヤマザレス店長先生は手を挙げながら話した。
「はーい、読みました〜っ」とメガネザルという、あだ名が付いているメガネを掛けた正岡語気くんは言った。
「ではね、最後の文章の部分について考えてみたい。チンチクリンの男は空中にいた。つまりこれはキャトルミューティレーションだと思うが皆にも聞いてみたい。キャトルミューティレーションだと思う生徒は右側に並べ。キャトルミューティレーションじゃないと思う生徒は左側に並べ」とヤマザレス店長先生は言った。
生徒たちは一斉に動いて並び始めた。
どうやらキャトルミューティレーションが多いようだ。
「はい、皆さんの考えは分かりましたよ。キャトルミューティレーションが多い結果になりました。先生もね、キャトルミューティレーションじゃないのかなぁ〜と疑っています」とヤマザレス店長先生は首を捻って話した。
「先生、このプリントの話は実話なんですかぁ?」と花咲チンチラ珍君は言った。
「実は実話です」とヤマザレス店長先生は力強く言った。
早乙女あつ子は目を閉じて、何度も、何度も歯ぎしりをしながら何かを悔やんでいた。
つづく




