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第1章 第3話 RePurge

部屋の中、パソコンの画面に映るのは東堂勝吾の記者会見。画面の向こうで、彼は冷静な口調で記者たちの質問に答え続けている。



「いや、これ普通に面白くない?」


大学生くらいの青年が、隣に座る友人に話しかけた。

手に持ったスナック菓子をひとつつまみ、もう片方の手でスマホを操作している。



「亮さ、こういうの好きだよな。俺はまだ信用してないけど」

 

懐疑的な表情で腕を組み、画面をじっと見つめる友人が言う。



「でもさ、今までの社長とは全然違うじゃん?

ああいう定型文みたいな会見じゃなくて、ちゃんと正面から答えてるし。」


亮と呼ばれた青年はそう返答する。



「まあ、それはそうだけど、上手いこと言ってるだけかもな」



「吉弘は相変わらずだな、でも、それでもワクワクしない?

これ、ネットでも結構盛り上がってるし」


亮はスマホを吉弘に見せた。タイムラインには、続々と投稿が流れていく。



【なんか大和テレビの会見、めちゃくちゃ白熱してるんだが】

【東堂社長、ガチでやる気っぽいな】

【Inovexって何? これ革命的じゃない?】

【ここ数年の会見で一番面白いかも】



「見てみろよ、もうトレンド入りしてる」



「確かに、ここまで話題になってるのはすごいな。でも、本当に変わるのかな」



タイムラインには賛否両論が渦巻いていた。



【テレビ業界、どれだけ改革しようとしても結局は旧態依然としたままだろ】

【言うだけタダだよね。何回大和テレビに騙されたと思ってるんだよ!】

【熱いなアイスマン】

【アイスマン?】

【いやいや、実行する力がないよ】

【最初だけ盛り上がって終わりだよ】

【あの強い言い方、嫌いじゃないけど、行動が伴わなきゃ意味ない】

【どんな結果になるのかは分からないけど、少なくとも今の大和テレビに比べたら期待できるかも】

【東堂の若いころのあだ名、それを知ってるお前何者?】

【いや、お前もな】

【綺麗事言う前に先ず被害者に土下座して来いよばーか】

【Inovexの話聞いて、なんか期待しちゃうけど、現実は厳しそう】



「結局、みんなが言ってることだけど、行動が伴わなきゃ意味ないんだよな」



二人はしばらくスクロールしながらSNSの反応を見続け、再び画面に目を戻した。


東堂は次の質問に対して答えている。



会見は続き、SNSでは反応が止まることなく続々と更新されていった。







記者の手が挙がる。


指名されたのは、若手の男性記者だった。彼は少し戸惑いながらも、質問の内容を整理してから口を開く。



「東堂社長、改めてお伺いしたいのですが、Inovexという組織についてです。

今回の改革の中で、Inovexが果たす役割は非常に大きいとおっしゃっていましたが、実際にInovexとは一体何をする組織なのでしょうか?

そして、今までの改革とはどこが違うのか、具体的に教えていただけますか?」



記者が言い終えると、部屋の空気が一瞬静まる。東堂はゆっくりと目を閉じ、改めて回答を準備するように思案した後、静かに言葉を発する。



「Inovexは、ただの調査機関ではありません。


もちろん、内部の不正や問題を明らかにする役割はありますが、それだけにとどまりません。私たちはこの組織を、従来の改革が失敗した原因を根本から見直し、具体的な行動に結びつけるための新たな挑戦と捉えています。


Inovexは単なる外部からの目ではなく、内部から変革を引き起こすための推進力です。

私たちは、この組織を通じて、社内の透明性を確保し、実行力のある改革を進めていきます。」



 記者はさらに鋭く切り込む。



「ですが、これまでの改革も『透明性』や『実行力』を掲げてきたはずです。

それでも結果として、進展がなかった。Inovexは、その点でどのように違うと考えているのですか?」



東堂は一呼吸置き、再び答える。



「良い質問です。確かに過去の改革は、言葉だけに終わってしまった部分が多かった。

しかし、Inovexはその全てを実行に移すための機関です。私たちは、改革を進めるために必要な資源や支援を得るための方法を、透明かつ具体的に示し、それを実行する力を持った組織として機能させます。


従来の改革と決定的に違うのは、Inovexが社内に深く関わり、そこで得た知見を外部と共有し、最終的には社会全体に対して改善を促進する点です。」



記者たちは次々にメモを取り、会場の緊張感はさらに高まる。


記者がさらに手を挙げ、その声に会場が反応する。

今度は中堅の女性記者が質問を投げかけた。



「東堂社長、Inovexの透明性についてですが、組織の公共性を担保するために、外部からの協力者を仰ぐという点について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?


また、視聴者にもその透明性を感じてもらいたいというお考えがあるのでしょうか?」



東堂は少し間を取った後、しっかりとした口調で答え始める。


「非常に重要なポイントですね。Inovexは、その透明性を何よりも重視しています。だからこそ、先ほど堀口さんをお誘いしたでしょう?」



そういうと東堂はちらりと堀口に視線を投げる。



ほかの記者からも視線を向けられた堀口は驚いたように眼を2、3度瞬いた。


その様子を見た東堂はくすりと微笑むと言った。



「堀口さんだけではありません。Inovexは外部の専門家、即ちあなた方記者さんやその他熱意ある改革者の協力を歓迎いたします。


今の会社に所属して頂いたままで構いません。嘘のない正しい情報を他者に伝えたい、その熱意と誠意があるならば我々Inovexはあなた方を歓迎し許可証を発行します。



Inovexの公開基準については、すでに社内で運用ガイドラインとして文書化されています。

ご希望があれば後ほど、許可証発行者には共有いたします。



万が一許可証の発行されない方がいましたらどうぞ声をお上げください。



その理由、公開致します。」



東堂がそう言うと記者たちは互いに顔を見合わす。


東堂は続ける。



「そして外部の目が入ることで、私は我々の活動がより公正で信頼性のあるものとなると確信します。


皆さんにはその過程を参加して見守っていただきたい。


私たちはInovexの議決に関して、可能な限り公開する方針です。

ただし、プライバシーや企業の損益に関わる情報については当然、慎重に扱います。」



会場は静まり、記者たちはメモを取りながら次の言葉を待った。



「さらに、私たちは議事録を公開致します。議論の過程や意思決定の背景を明らかにするためです。


もちろん、誰でも彼でも議事録を閲覧できるわけではありませんが、Inovexに関わる主要な会議の内容については、責任を持って公表していきます。


この決定は、透明性を担保し、私たちの改革が本物であることを示すための重要な一歩だと考えています。」



東堂が言い終わると、会場の空気が一変した。記者たちが次々に目を見張り、ネット上ではその発言が瞬く間に広がり、議論を呼び起こす。






SNSには次々とコメントが投稿され、タイムラインが急激に賑わう。



【これ、今までのテレビ業界にとって革命的じゃないか?】

【社長、言うだけじゃなくて実際にやってる感がある】

【このおじさん、かっこええなあ】

【え、ヤバイ俺男だけど惚れちゃう】

【今の時代えんやで】

【とうどっ!とうどっ!】

【議事録公開って、企業としてはかなり珍しい試みだな】

【でも、それってプライバシーや損益の部分は大丈夫なのか?】



一方で、疑念の声も当然、存在する。



【これで本当に変わるのか?過去にも同じような言葉を聞いてきたけど】

【胡散臭い、胡散臭過ぎるぞ】

【俺たちは教祖の誕生を目撃している】

【議事録公開なんて言っても、実際にはどこまで透明になるのかが分からない】

【どうせ最初だけ盛り上がって終わるんだろうな】



東堂の言葉に対する反応は賛否両論で、ネット上でも大きな議論が巻き起こることになった。

 


記者が手を挙げ、もう一度質問を投げかける。



「社長、先ほどInovexの透明性についてお話しされましたが、もう一つ気になる点があります。


もしInovexの舵取りも東堂社長が行うのであれば、それは結局社長個人の私的な機関になってしまうのではないでしょうか?


透明性を確保するとはいえ、もしも全てが大和テレビの社長である東堂さんの意向に基づいて行動するのであれば、たとえ外部との協力があっても結局は独立性に疑問が残るのでは?」



その質問に対して、東堂は静かながらも確信を持って答える。



「素晴らしい質問です。


先ず私個人はInovexの株式を1株たりとも保有していませんしするつもりもありません。


まあそれは大和テレビでも同じなのですが。


そして、とはいえ「現状ほぼ全ての株式を所有する」大和テレビの社長である私が中心となりInovexを牽引する


となれば、そのように疑問を抱かれるのも無理はありません。


しかし、私たちが目指しているのは、私個人の意向ではなく、組織としての透明性と公正さを追求することです。


そして、そのために私たちはInovexに、外部の視点と新たなリーダーシップを取り入れることに決めました。」



一度、東堂はしっかりと視線を巡らせてから、さらに続ける。



「この度、Inovex初代室長として、沢木真帆が就任することになりました。


彼女は大和テレビにて広報部の課長として数々の実績を上げ、組織内外で信頼を得てきました。


私たちの改革において、彼女の冷静な判断力と人を引き寄せる力が欠かせません。」



その言葉を受け会場はざわめく、カメラのフラッシュが瞬き乾いた機械音が繰り返す。



記者たちの反応が一斉に変わる。



「沢木さんがInovexを指揮するということですね?

それでは、東堂社長が全てを握っているのではなく、実際に独立したリーダーシップがあると考えてもよろしいでしょうか?」



東堂は自信を持って答える。



「もちろんです。私たちの目標は、Inovexを単なる私の私的機関にすることではありません。


沢木真帆が室長として、私たちの改革の実行に監視と批判の目を持ち、外部の協力者との連携を強化していく。


私はあくまで、Inovexが適切に機能するためのサポートを提供する立場です。


彼女には私たちのビジョンを実現するために必要な権限が与えられています。」



再び記者たちの反応が飛び交う。







【Inovex初代室長、沢木真帆!社長が支えるとはいえ、実行力が重要だな】

【あ、あの司会の姉ちゃんやんけ!】

【かわいいと思ったのになあ、残念】

【おばちゃんじゃん】

【最終的には東堂社長が支配しているんじゃないかって気もする】

【それな、生贄の操り人形】



会場が静まり返る中、沢木真帆は少しだけ目を閉じ、深呼吸をした。



彼女の表情はいつもよりも引き締まり、これからの責任を感じさせるものだった。


先程までの司会者の立場を交代し、真帆は東堂の傍に立つ。



「皆様、本日はお忙しい中、大和テレビの記者会見にお集まりいただき、誠にありがとうございます。」


彼女の声は落ち着いており、しかしその一言一言に確かな決意が込められていた。



「私は、Inovex室長として、この場に立たせて頂きます沢木真帆と申します。

以後、宜しくお願い致します。


我々Inovexは、大和テレビが抱える課題を洗い出し、改善策を提案するために設立された組織です。


Inovexの目的は、透明性と信頼を再構築し、皆様にとって本当に価値ある報道を提供することにあります。」



彼女は一瞬、周囲の記者たちを見渡しながら、さらなる言葉を続けた。



「特に、私たちがこれから進める報道番組においては、過去の問題点を乗り越え、確かな証拠に基づいた報道を実現していきます。



告発者A氏、いえ浅沼蒼一氏。


並びに彼の告発の後社内において不遇な立場に置かれてしまった



大崎若菜氏


この両名と共に、私たちは何よりも、視聴者の信頼を最優先に活動していく所存です。」

 


「沢木さんは大和テレビ所属ではないんですか?」



記者の言葉が発せられる。それは問いというより疑問が口から零れ落ちたかのような静かなものだった。



「はい、私はこの職をお引き受けする際に大和テレビの役職と責務を全て辞しています。

また、個人の資産からInovexの株式を僅かながらですが保有させて頂いています。」



「つまり、言いなりにはならないと?」



記者の言葉に沢木真帆は少し笑みを浮かべる。



「Inovexの理念を阻害するのであれば、たとえ大株主であろうと意見は申させていただくと思います。


その際は皆様もご協力よろしくお願いしますね。」



その言葉に、記者たちは目を見開き、東堂は苦笑する。



沢木真帆の論理的で少しシニカルさを含んだ口調は、まさにInovex室長としての姿勢そのもので、会場に集まった人々に強い印象を与えた。



「そして今回の会見において特にご注目いただきたいのは、私たちが新たに開始する報道番組の発表です。」



沢木真帆は少しの間、言葉を区切り、深呼吸をした。そして、会場に向けて堂々と続けた。



「その番組では真実の追求と視聴者にとっての透明性を重視し、これまでの報道の枠を超えた新しい形の情報提供を目指します。」



会場の空気が少しだけ変わり、記者たちの表情が真剣になった。


その後、沢木真帆は浅沼蒼一、元部下である大崎若菜の登場を予告するように一歩前に出た。



会場の空気は一層引き締まり、緊張感が漂っていた。

沢木真帆が再びマイクを手に取ると、彼女の顔には決意と覚悟が色濃く滲む。



「皆様、引き続きご注目いただきありがとうございます。

これからご紹介するのは、大和テレビが進める新しい取り組みの一環として開始される報道番組、



RePurgeリパージ


のメインキャスターの二人です。」



真帆は一度深呼吸をしてから、堂々と宣言する。



「まずは、当番組RePurgeのメインキャスターを務めます、浅沼蒼一です。」



浅沼蒼一が新たな役職に就くことが発表され、会場内にはフラッシュが焚かれ、カメラが彼を取り囲む。


彼は少し息を呑み、笑顔を作ろうとするが、心の中ではその笑顔に裏打ちされた自信などどこにもない。

 


怖いな、俺は素直にそう思った。



あの日、あの男が家を訪れた時にこうなる定めを受け入れたつもり、だったんだがな。


胸を張れ、笑顔絶やすな、虚勢でいいから絶対に折れるな。

どこの軍隊の教えだとあの頃はそう思っていたのだが、なるほど教えというものは乞うべきものだな。


俺は精一杯の虚勢を張って記者たちをねめつける。



その瞬間、記者たちの質問が突き刺さる。



「RePurgeのキャスターとして、どんな意気込みをお持ちですか?」



「この仕事を私が、やるべきだと。そう確信しましたので東堂社長の要請をお受けいたしました。」


 

そう記者に告げると、俺は自らの左の頬を少し摩った。


 

覚えてろ東堂、さん。




RePurgeは俺のもんだ。







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