第4章 第8話 アールグレイ
「座ってください。」
東堂が社長室に入るなり、沢木真帆は冷たく言い放つ。
ソファに腰を下ろす東堂を睨みつけながら、真帆は大きく息を吸う。
そして
「何やってるんですか!!!!!」
真帆が爆発した。
東堂は何食わぬ顔で脚を組み、カップに手を伸ばす。
「お、今日はアールグレイか。」
「ダージリンティーです!!いやお茶はどうでもいいんです。」
真帆が東堂を睨みつける。
「あなた、社長ですよ!? それが生放送でクレーンで降りてくるって、どういうことですか!!?」
「うん。いい感じだったろ?」
「いい感じなわけないでしょう!!!」
真帆はこめかみを押さえ、大きく息を吐いた。
「スポンサー対応、大変だったんですよ?」
真帆の言は、事実報道局の課長がもう20社に頭を下げ終わって、また次の電話に出ている。そんな状況を東堂が見れば実感するだろう、しかし当の本人は。
「ほう。」
この一言。
「一部上場企業の社長がテレビでコスプレしながら宙吊りになるのは如何なものかって言われたんです!!!」
「いや、コスプレではなくて、降臨だよ。」
「どっちでもいいです!」
真帆が真面目な顔で睨む。
「だいたい、落っこちたりしたらどうするんですか。」
東堂は肩をすくめ、カップを持ち上げる。
「ちゃんと練習したさ。」
「っ!」
真帆の拳がギュッと握られる。
「勝手なことばかりして、大体よく技術が協力しましたね。」
東堂はニヤリと笑う。
「脅した。」
「はあ?脅した??」
「ああ。ちゃんと、次の契約の話とかしたら協力してくれた。」
真帆の眉間に皺が寄る。
「そんなことに権力使わないでください!」
真帆の怒りのボルテージが最高潮に達しようとしたその瞬間
東堂は静かにカップを置き、真帆を見た。
「結果は?」
「ほ?」
「結果だよ。番組はどうだった?」
「、、、」
「視聴率は? 反響は?」
「、、、」
「スポンサーは? 株価は?」
真帆は言葉に詰まる。
確かに、視聴率は跳ね上がった。SNSも爆発し、話題性は抜群。スポンサー対応は大変だったが、それ以上に広告価値が跳ね上がり、結果としてプラスになっている。
「それでも、私は事前に相談してほしかったんです。」
真帆は腕を組み、低い声で言った。
東堂は小さく笑うと、カップを持ち上げた。
「次は考えるよ。」
「本当にですか?」
「うん、多分。」
真帆は深いため息をつくと、こめかみを押さえた。
「もういいです。」
そう言いながら、東堂が紅茶を手に取ろうとすると真帆の手がスッと伸びる。
「経費削減です。」
「おいおい、それはないだろ。」
東堂の声に真帆はニコリと微笑みを返しお辞儀して去って行く。
「やれやれ。」
その姿を見送ると東堂は肩をすくめ微笑を浮かべるのだった。
玲奈はスマホを机に放り投げた。
「なんで社長がクレーンで降臨してくるのよ。」
新宮は腕を組み、無表情のままモニターを見ている。
画面には、東堂がゆっくりと降り立つシーンがスローで流れていた。
玲奈は大きく息をつく。
「これ、事前に知ってたら全力で止めたんだけど。」
「まあ、誰も知らなかっただろうな。」
新宮はスマホを取り出し、画面をスクロールする。
玲奈も手元のスマホを開いた。
視聴者の反応は爆発的だった。
#東堂降臨
#社長の遊びが本気すぎる
#カッコよすぎて逆に許せる
「なんなのこれ。」
コメント欄には楽しげな投稿が並ぶ。
【東堂やべぇWWW】
【こんなん笑うしかない】
【いや普通にかっこいいのズルくね?】
【ルルーシュかと思ったら東堂だった】
玲奈は画面をスクロールしながら、ふっと息を漏らした。
「こっちが真面目に考えてるのが、バカみたいに思えてくる。」
「結果は出てるからな。」
新宮がスマホを覗き込み、淡々と言う。
玲奈は机をバンッと叩いた。
「いやいやいや!! そもそも社長がこんな目立ってどうすんのよ!!」
新宮は肩をすくめる。
「まあな。でもこれしか無かったって気も俺はしてるぜ?」
「それはそうなんだけど。」
玲奈は大きく息を吐き、画面の中の東堂を睨んだ。
「ふざけるなよ!!!」
松岡の怒声が会議室に響いた。
山岡はビクッと肩を揺らす。
「どういうことだ、山岡!!」
松岡は机をバンッと叩く。
の勢いに、置かれていた書類が舞い上がった。
「なんで東堂が出てくるんだ!? 俺は聞いてねえぞ!!」
「そ、それは」
山岡は視線を彷徨わせる。
「想定外でした。」
「想定外?」
松岡の目が鋭く細められる。
「お前、東堂は動かないって言ったな?」
山岡は唇を噛む。
「それがどうだ?東堂が空から降ってきて番組は東堂ショーだ。」
「っ」
「どう責任をとるんだ山岡。」
松岡が詰め寄る。
山岡は汗を滲ませながら、必死に言葉を探した。
「私も、東堂がここまでやるとは思わなかったんです。」
「思わなかった?」
松岡は冷笑する。
「思わなかった、知らなかった、わかりませんでした。
自分の能力の無さを束に上げる便利な言葉だなあ、なあ山岡。お前あの時こう言ったな。」
山岡は何も言えない。
「東堂は動けません、何も打つ手はありませんってな」
山岡は歯を食いしばる。
「打つ手がないから空から降ってきたじゃねえか、なんで協力させた?」
松岡の皮肉に、山岡は震えながら答える。
「あいつ技術の会社の連中を契約で脅して、まさかあそこまで強引に。」
松岡の声が、低く冷たく落ちる。
「何がまさかだ。そらやるよそれくらいあいつは神木の一番弟子だぞ。」
「まいい、お前木村に辞令書かせてやるからしばらく関西行ってこい。」
山岡が慌てて言葉を絞り出す。
「ま、待ってください。次、次は必ず。」
松岡は深く息を吐くと、山岡を睨みつけた。
「次があるなんて思うからお前らみたいなのは仕事ができないんだよ。まあ向こう着いたらたこ焼き送ってくれ。孫が好物なんだ、温かいままで頼むな。」
そういうと松岡はもう山中を見ることなくどこかに電話を掛ける。
その姿を呆然と眺めていた山岡だったが、しばらくして扉を開くと肩を震わせ退出していくのだった。




