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第3章 第5話 手を繋ぐ

がっはっはとがさつな声が廊下にまで届く。



田中は少し眉を顰め、Inovexの扉を開く。



「おっさん案外やるじゃん、うちで雇ってやろうか?」



「がはっ、クソ生意気だが一応褒めてるとみなして許してやる、最近俺は上機嫌なんだ。よかったな小僧。」


そう笑いながらアキラを睨みつける新宮。


田中はその脇を黙って通り過ぎる。


そんな田中を目ざとく見つけた真帆が言う、田中さん、お帰りと。


何となく気恥ずかしくなった田中はぼそりと呟く。ただいまと。



「おう、田中。どうだ俺の番組見たか。良かっただろ笑っただろ。

なははは、これからはあれよ視聴者とダイレクトにってやつよアップロードせんといかんよなこれからは。」



これでもかとがさつを前面に出して新宮が笑う。



「アップデートですね。ええ、拝見しましたよ。確かに以前拝見した企画より数段良くなっていました。正直驚きました、これが東堂社長の仰っていた新宮さんの能力なんですね。」


田中が眼鏡をふきながら新宮に答える。



「ああん?なんでここで東堂が出てくんだ。


あいつは何にもしてないだろうが、視聴者の企画に俺が編集つけてキャストと現場が魂込めたんだ。東堂なんかあいつなんかもうなんにもしてねえだろうが。


お前さん眼鏡かけてる割に案外抜けてんな。」



「企画出したんも、あんたにその企画任したんも全部東堂のおっちゃんじゃねえか。


だからメガネは東堂のおっちゃんが凄いって言ったんもわからんのか。」




Inovexの冷蔵庫を漁り終わったアキラが新宮に突っ込む。



「やかましい、無職がウロウロ会社ん中入ってきてんじゃねえ!」


おでこを軽く小突かれるアキラ。




あ、いて。



「新宮さん、暴力は止めてください。アキラさんじゃなきゃコンプライアンス違反ですよ。」



真帆が新宮を注意する。



「いや、なんで俺ならええんよ真帆さん。いや別にこれくらいええけど。」



アキラが真帆に絡む。



「え、アキラ君社員じゃないし。配信でとんでもないことやってるし。」



「あ、配信見てくれてんの、なら許そう、良かったなおっさん、俺が上機嫌で。」



新宮とにらみ合うアキラ。



「普通に暴力事件ですけどね、Inovexオフィス内で暴力事件発生、人気番組ディレクターと超人気Youtuber白昼の乱闘劇。これ記事書けますね。」


珍しく田中も冗談に乗っかる。



「あ、こら田中。やめろ俺はやっとバラエティが撮れるんだよ忖度しろ!」



Inovexオフィス内は混沌としていて、そんな空気が居た堪れなくて、もうその一員に自分は入れないのだと噛みしめて。



大崎若菜は扉を開かずにその前を立ち去った。






桜井恵梨香は起業家だと言われる。ビジネスを起業して成長させるからだそうだ。



桜井恵梨香は実業家だと言われる。ビジネスを運営して経済活動を行うからだそうだ。



桜井恵梨香は企業家だとも言われる。起業家より一寸堅いんだそうだ。よくわからない。



特にそんなものになろうと思ったわけでもない。


勉強して、遊んで、儲かりそうだから会社やって。つまらないから手放して、盛り上がりそうだから又買って、そんなことをしていたら、周りに人が集まっていた。


もう誰の顔も覚えていないけど。




才女だなんだと持ち上げられて、悪い気もしなかったから、派手に立ち回ればみんな喜んでくれるから、賑やかにしていたけれど。




あ、やばっ、そう思った時には遅かった。


森大央と紫藤英治、悪くてかっこいいおじ様たち。


かなう相手でなかったけれど、小娘相手に本気で叩き潰してくれた。あんな怖い思いはもうこりごりだ。



東堂ちゃんあなたもかっこいいけれど、まだまだあの頃の紫藤ちゃんには及ばないわよ。




桜井恵梨香は仮面をつける。道化の仮面で世を渡る。

世捨て人は達観してるものだから。道化の視線で世を茶化す。





「はいはい、エリカチンCHですよー。世の中ばかばっか、ホントばかよね、この間もさ、」


適当に皆が望む言葉を吐いてればいい、そしたら少しは喜ぶ奴もいる。そんなもんよ。






東堂勝吾は書類を眺めている。長い指がページをめくる様は男の堀口から見ても様になっている。



「あんた、もてんだろな。」




堀口が場を和ますように軽口をたたく。



「生憎と、この口は誰かを喜ばせるより怒らせることのほうが得意なようでね。ついぞロマンスには縁がない。」



東堂は堀口を見もせずに答える。



うそつけ、堀口は心の中で悪態をつく。


自分も口は立つほうだと思うがなにも自分の不利な状況で議論を吹っ掛ける必要もない。

第一ただの隙間を埋めるためだけの話題だ。



「いつ流せる?」



「まだ弱い、この被害者の友人知人はいないのか。同年代の異性だけが証言者じゃ少し弱い。」



「情だと?この二人はそんな関係じゃないぞ。」



「関係ないさ、記者の君なら知ってるだろ、いい大人が二人でいればそうみなすのは君らの得意技だろうに。

世間は君らに飼いならされてる、そういうもんだと割り切るしかないさ。ま、自業自得だな。」



「性別を伏せて流せば、ち、わかった。もう少し時間をくれ。」


堀口は悔しそうに東堂の元から書類を回収すると社長室から出ていく。



「予定調和の作り物に価値などないよ。」



東堂は誰もいない社長室でそっと息を吐く。






ほうと、松岡は内心舌を巻く。




桐山玲奈、なるほど優秀だ。


東堂への憧れ、崇拝が強すぎるあまり少し視野の狭くなっている面はある、が頭の回転も悪くない。


何より若さ故か性格か柔軟性が抜群だ。


本人は上手くやっているつもりなのだろうが彼女の思惑などバレバレだ。

東堂の役に立つ為にこちらへ探りを入れるスパイでも気取っているんだろうが、それならそれで役に立つのだ。


肝心なのは彼女が敵であると認識している自分からでもしっかり学ぼうとする姿勢だ。

これも東堂の為、いや違うこれこそが彼女の本質だ。


なるほど東堂も罪作りだが、確かに致し方ない面もあるか。




松岡は不憫な者を見る目で彼女を見つめる。



なんですか?このじじいいい歳こいて色気づいてます?気持ち悪い目で見ないで欲しいです。



想いなど言葉にせねば伝わらぬものなのだ。



「これでいこう。RePurgeとは違った形で、我々の手で新たな報道の本質をみせるのだ。」



松岡は微笑みながら言った。



玲奈は頷きながらも不安そうな表情を浮かべた。



RePurgeは、東堂のやり方は彼女にとって衝撃だった。


これこそが報道。

そう天啓を受けたかのようなインパクトの後に松岡の作るこの番組。地味で代わり映えのしない報道番組、こんなものが今の視聴者に受けるのだろうか。ましてや東堂を外形的には裏切ってまで玲奈が選んだ番組。これで良いんだろうか。




所詮古い感覚の老害狸が考えた企画、時代の流れに取り残された哀れな郷愁でしかないのではないか、そんなものに巻き込まれてセピア色の爺のメモリーにされては堪らない。




「でも、これで本当にいいんでしょうか?その、なんていうか地味じゃ。」



「良いと思います。」


大崎若菜が静かに自分の意見を述べた。



大崎若菜、松岡は正直期待していなかった。正直存在を認識していなかった。


RePurgeが始まって浅沼の横にちょこんと座っている添え物みたいなのがいるな、ああ添え物なんだな、と思ったくらいだ。



「大崎若菜を私に下さい。」



だから玲奈がそう言った時にも、使いやすい手駒を手元に置きたいのだなとそう思った。地味で目立たない、よくこれをアナウンサー志望で採用したな、と木村を叱った。


後で調べたら採用の責任者は松岡だった。全く記憶にない、ないしあっても木村に謝罪はしない。組織とはそういうものだ学べよ木村。



その大崎が控えめに主張した。松岡は少し興味がわく。




「何故そう思うかね?」



「この番組は、RePurgeのカウンターになる番組なのだと思います。先鋭的で尖った報道のRePurge、確かにその刃は視聴者に刺激を届け派手なムーブメントを巻き起こします。でもあの番組は東堂社長のやり方だけでは大和テレビはダメになります。」



ほう?松岡が面白そうに続きを促す。



「な、なに言ってるのよ大崎さん。東堂社長の改革があったからこそ今の大和テレビは持ち堪えてるんじゃない。それに視聴率やスポンサーだって回復傾向に。」




玲奈が東堂へのリスペクトを隠すこともなく若菜に反論する。なにがスパイだ。


玲奈の反論に大崎は焦ることなく頭を振るう。




「疲れちゃいませんか?私、東堂社長の改革を否定してるんじゃないです。すごいなあって尊敬してます。でも、刺激ばっかりじゃしんどくないですか?」



「え、でも、だってそうしないと大和テレビはあのままじゃ。」


玲奈は大崎の返答に言葉が詰まる。



「ええ、玲奈さんおっしゃるとおりです。あの時死に際の淵も淵だった大和テレビを救うにはあの方法しか、東堂社長にしか救えなかったと私もそう思います。


でも崖から少し上がれたら少し休憩したくないですか?

ふっ、て呼吸を整えたくないですか?


だから、今。ほんの少し息を整えられる状況になった今だから、この番組が良い。私はそう思うんです。」



大崎若菜の答えに松岡も玲奈も唖然として暫くの沈黙が部屋の中を包む。



その沈黙を破ったのは松岡だった。



「いや、素晴らしい。君の今の弁は私が言語化できなかったこの番組への想いそのものだった。君は本当に素晴らしいアナウンサーだ。君を採用した私も鼻が高いよ。」



「覚えて、下さってたんですか」



松岡の言葉に驚く若菜。



「当たり前だろう、私は自分が関わった面接に来ていた人間の事は採用不採用に関わらず全て覚えているよ。


それが人生をかけて我が社に応募してくださった方への礼儀だと思っている。


まあ最近は年齢のせいか思い出すのに時間がかかってしまうことも多いのだがね、君の事はよく覚えているよ大崎若菜くん。」



嘘臭いなあと玲奈は松岡の言葉を聞いていたが、感動している若菜の前でそれを言い出すほど野暮ではない。




それに、



「わかったわ、大崎さん。私たちでこの番組、絶対に成功させましょう。」


若菜の言葉に感動したのは自分も同じなのだ。やってやるぞ、と、その気持ちなのだ。



「はい、松岡さん、桐山さん、よろしくお願いします。」



大崎若菜は立ち上がり、ぺこりと二人に頭を下げるのだった。






新番組「手を繋ぐ」は恙なく放送を開始、大崎若菜は初めてのメインMCだったが錚々たるコメンテーターに話をふり番組を回した。



派手さのない報道番組、新技術の開発やそれを取り巻く日々との努力苦労、どのような分野でこの技術が生かせるのかの深掘り。




これが東堂改革の次なる一手?


他局の関係者、記者。それに視聴者は戸惑った。

此処に何を隠してる?俺たちに、私たちに今度は何を仕掛けてきた?良くも悪くも今の大和テレビは東堂の色が強くこびりつきすぎている。



「素晴らしい技術と、その研鑽。コメンテーターの皆様の深い知識で広がっていく世界を垣間見えることができたように思います。今日は皆様本当にありがとうございました。」



初めての大役を堂々とこなした大崎若菜が司会席からカメラに向かい深々と礼をする。



そして椅子から立ち上がりスタジオの中心にゆっくりと歩を進める。

堂々とした、けれどもやはり若干の緊張を含んだ表情で歩く彼女を演者もスタッフも、そして視聴者も見守る。


身振りを伴い語りだす若菜、それは過剰過ぎず主張しすぎることのない自然な仕草で。



「さてこの技術、アイデア有識者の方々から様々な意見をいただきましたが、視聴者の皆様はどう思われましたか?私ならこんな使い方をしたい、こんな分野に応用したいきっと色々な意見があると思います。



なので、観てください、来てください、そして触ってください。この番組は自分の自分たちの技術やアイデアを知ってほしい、使ってほしいという方を募集します。


そして、そのアイデアを知りたい、使いたい方も募集します。私を、この番組を使ってください私たちは対立することを楽しみます。でもそれと同じかそれ以上に対話して協力し合うことを楽しめるでしょう?」



「手を繋ぎましょう。」



若菜のコメントをもって番組が終わる。大崎若菜の表情は照れたようなはにかんだような、いまだ少女っぽさの抜けないあどけない笑顔だった。





放送終了を確認しスタジオの奥の扉から外に抜け出す二人。



「大崎若菜、これは、化けるぞ。」



「もう化けてるのよ。」



ふん、と鼻を鳴らす玲奈。


そうかもな、と肯定し松岡は局の廊下を歩いて行った。






打ち上げの会場は、賑やかな居酒屋の一角。



ビールと焼酎のグラスが並び、スタッフや出演者が集まり、和やかな空気が漂っていた。


大崎若菜は少し疲れた顔をして、けれども満足そうに周りの笑顔を見つめている。


玲奈が隣に座り、笑顔でビール瓶を持ち上げる。



「今日は本当にお疲れ様。完璧だったわ。」



「ありがとうございます。」



若菜は少し恥ずかしそうに笑いながら、グラスを差し出す。



「でも、ほんとに初めてのことばかりで、緊張しすぎて」



「それも含めて、素晴らしかったのよ。あなたがあなたの言葉で話してた。だから今日はあれが最高なのよ。」



玲奈が言う。



「素晴らしいMCだったわ。」



「いや、まだまだだと思います。」


若菜は恥ずかしそうに目を伏せたが、その表情は少し晴れやかだった。



「当たり前じゃないの、今日の最高は今日のあなたの最高なのよ。私たちはもっともっと成長して最高を更新し続けなきゃならないのよ。」



玲奈がグイっとビールを飲み干す。


若菜は思わずその言葉に驚いたが、すぐに笑いながら言った。




「そうですよね。今日はでもうん、楽しかったです。」



「そうよ、私たちは私たちのやり方で楽しいを届ければいい、色んな楽しいが集まったら大和テレビは一番楽しくなるのよ。



私の楽しいと、若菜の楽しいと、東堂社長の楽しいと。


松岡、はいらないわねあれはダメだわ純粋に物事を楽しめる性格してない悪だくみばっかしてるからダメだわ。まあみんなの楽しいが集まったら前みたいな、いや前よりもっと健全で楽しい大和テレビが復活できるのよ。」



なんだか座った眼をしながら玲奈は他のスタッフのところへ出向いて行き、若菜が玲奈から解放されるのを待っていたスタッフ達に晩酌され、若菜は笑って恐縮したり、びっくりしてまた笑ったり。


酒の酔いも手伝って感情がいつもより少し大げさになってるなと、そんなことを思いながら宴会をやり過ごした。




宴会の終わり、皆と別れタクシーに乗った若菜は思い出す。


次の会議で使う資料を自分のデスクに置いたままだったと。



明日はオフだ、出来れば会社に行きたくない。

誰かにメールで送ってもらう?そのお願いのほうが気で気疲れする。

酔いのまわった頭でそれだけ判断すると若菜はドライバーに行先の変更をお願いする。



「大和テレビにお願いします。」



今日が終わって明日になってる、そんな時間でもテレビ局には人が多い。

放送の時間が減って、スポンサーが居なくなって局内の空気がずっと沈んで。ネットを見れば皆怒ってて。誰かがどこかで言い争って、誰もがそこらで諦めていた。




自分のデスクから資料を取り出すと、仕事中のスタッフに軽く挨拶しオフィスを後にする。


少しだけ元気になった。


あの頃は会社の中が陰鬱でまるで自分の心がはみ出しているみたいだった。


嫌だった。


暗くてじめじめしてそれでも誰かに構って欲しくて。なのに自分から動く勇気もなくて。

何故だか採用されてしまったアナウンサー、研修も試験も頑張った。

発声練習もしたし、なんだか怪しそうな自己啓発のセミナーにも通ってみようとした。浅沼さんに止められたけど。



いけないな、と若菜は思う。


少し酔い過ぎている。



嫌なものが出てきそうになっている。


蓋はしてるんだけどな、元々がこうだからふとしたことで蓋なんて空いてしまう。

若菜は水を買いに自販機に向かう、確かこの先の職員トイレのところに。




若菜は局の自販機がある場所をすべて把握している。誰も知らない若菜の特技だ。地味に役立つが誰にも自慢したことはない。



「大崎?」



自販機の光の中に誰かいる。



「東堂社長?」



「お疲れ様です、東堂社長。」



若菜は男を東堂だと視認すると大げさなアクションで礼をする。



東堂はそのテンションに驚きながら。ああ、酔ってるのかと納得した様子で、



「水か?どれがいい?」



と若菜に聞く。



「えと、じゃあその水を。」


東堂は若菜の差し示す水を買うと、キャップをひねりほれと差し出す。



「ありがとうございます。」



「どういたしましてだ。」



「手を繋ぐ。良かったぞ。」



東堂が若菜にそう声を掛ける。



「え、ご覧になったんですか」



「ああ、勿論。RePurge以来の新報道番組の立ち上げで桐山と大崎の番組だそりゃ見るよ。」


東堂は当たり前だと言う。今までといつもと何も変わらない東堂。それが若菜には痛い。



「社長、すみません。」



「何を謝る?」



東堂は不思議そうに今日の番組を思い返そうとする。



「違います、私は私たちはRePurgeを、東堂社長を裏切るような事をしてしまいました。私は、それに、RePurgeを批判するようなことを番組で。」



下を向き、肩を震わしながら謝罪する若菜。



「そうか?番組を見ててもお前がRePurgeを批判しようとする意図があったようには見えなかったぞ?お前はお前の言葉で言いたいことを正直に言ってたように俺には見えたが、違うのか?」



東堂は再び若菜に問いかける。



「い、いえ。社長の仰る通りです。批判する意図なんて玲奈さんは勿論私にもこれっぽっちもありませんです。」



親指と人差し指がもうついてるだろ言うくらいの小さな輪っかを作って力説する若菜。



「わかった、わかった。と、いうかわかってるとそう言ったよな俺は。」



「で、でも私たちは社長を裏切って。」



「だからそれもなんだ?お前ら俺の個人情報や社外秘を持ち出したりしてるのか?それならわかった、しかるべき処置をとってやる。任せろ。」



東堂が三度若菜を問い詰める。



「そ、そんなこと、」



「だから気にするな、お前らがやりたいと思ったんだろう?それともやりたくないのか?

それなら何とかしてやるが、お前らの移動は正規に社内で辞令が下りてるものだしな、時間はかかるぞ?」



「や、やりたいです。私はあの番組がやりたいと思ったんです、思ったからこそ社長や浅沼さんを裏切って。」



「それの、何が裏切りなんだ?第一お前らは俺の何だ?使用人か?奴隷か?

違うだろ、同じ組織に所属して役職がちょっと違うだけで俺もお前もやることは変わらんだろうが。」



不味い、蓋が開いてしまう。若菜は東堂の言葉に揺さぶられる。


このままではいけない、驚かれる、叱られる、呆れられてしまう。そんなのは、ダメだ。顔を伏せろ東堂の顔を、その瞳をその唇を見てはいけない。



「好きに生きろ。」



じゃあな、と東堂は大崎に告げるとエレベーターの方に去っていく。



去っていく東堂の足音を聞きながら大崎若菜はしばらく顔を上げることが出来なかった。




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