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【第9話 怪しい✕関係=2】

こんにちは。

御覧いただき、ありがとうございます。


舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」


是非、お楽しみ下さい。



「やあ、こんにちは!」

 遠くから、いや、遠くなのにデカい声が響いてきた。振り向くと作務衣に可愛いクマちゃんのエプロンを付けた大柄の男がちょうど石段を登り切るところだった。エプロンの面積が全然足りていない。その大柄の男に向かって鈴森さんは「おかえりなさい、晶さん」と言った。お知合いですか?


「ただいま、咲良ちゃん。おぉ! 君たちは金城さん家の彩夏ちゃんに、霧崎さんとこの俊介くんかい!?」

「おじさ~ん!」

「お久しぶりです」


 金城と俊介はその晶と呼ばれたおじさんの所へ駆けていった。え、何か楽しそうに話してるけど誰? とりあえず着いて行く。

「小学校卒業して以来だから……5年ぶりかい!?」

 あいつらは何か昔話に花を咲かせている。すんごい話に入りづらいが俺も一応声を掛けておく。

「あの、はじめ、まして?」

「おぉ! 君は町田徹くんかい!」


 おじさんは目と口を大きく開けて驚き、大声で笑った。周辺のカラスが一斉に飛び立った。圧巻である。

 あぁそうか。こいつらと小学校の話をしてたんだから俺の事も知ってるはずだよな。また恥ずかしい事を。俺の脳みそは一体何を蓄積させてるの? 大丈夫? 脳死してない?


 「そうかそうか! いやあ元気そうで何よりじゃないか!」

 そう言って笑いながら俺の肩をバシンバシン叩いてくる。うん、普通に痛い。


「咲良、町田くんとはご挨拶したのかい?」

「はい」

 それを聞いてにっこりと笑うと、晶のおじさんはまたデカい声で笑った。もう近くにカラスは居なかった。

「おぉ! いかんいかん」

 ハッと我に返り、そろそろ陽が沈むから帰りなさいと促された。

「またおいで」

 夕陽がおじさんの笑いジワに影を作り、じんわりとその深さを浮かび上がらせていた。絶対いい人だなと思った。

「はい! また背中登らせて下さいね!」

「いやー彩夏ちゃん大きくなっちゃったから、もうオジサンには無理かな! だっはっはっはっは!」

 そう言ってまた、目の前の大きな山が揺れた。

「鈴森さん、じゃあね」

 金城が手を振ると、鈴森さんは軽く頭を下げて挨拶し、振り返って歩き出した。


 女同士はいいよな、そんな気楽に挨拶出来て。せっかく出会えたのにもうお別れか。何となくもう会えないような。そんな寂しい気持ちになった。

 って顔を多分してた。俊介が俺の背中を強く押した。「ぐぅ」変な声が出て、鈴森さんが振り返ってこっちを見た。目が合う。言え。言うんだ。町田徹!

「あ、鈴森さん! さようなら!」

「はい、さようなら」

 再び鈴森さんは頭を下げ、丁寧に挨拶をしてくれた。めちゃくちゃいい子。めちゃくちゃ嬉しい。



 神社の奥に消えていく晶さんと鈴森さんを見送り、俺たちは石段を下り始めた。

「案の定覚えてなかったな」

「全然覚えてない。ってか「晶さん」って何? どーゆー関係なの!? 怪しい関係なの!?」

「鈴森さんのお父さんだよ」

 彩夏が振り返って俺に答える。

「何かよそよそしくない? 何で自分の父ちゃんをさん付けで呼んでんの?」

「多分お父さんだけじゃないけどね。私たちとも昔はよく遊んでたんだけど、突然」

 鈴森さんの話をしていたら、3百段ある石段もあっという間に終わってしまった。

「なあ、お前鈴森さんの事何も覚えてなかったんだよな?」

 だから何度も言ってるじゃねぇか。俺が100%悪いんだから掘り返すんじゃねぇよ。

「え? あ、おう」

 ちょっと不機嫌な返事を俊介には返しておいた。

「そっか、じゃあ行こうぜ」

 何だよ。何が聞きたかったんだよ。


 ブロロロロ……キキッ。

 ふいに1台のタクシーが止まった。こんな田舎のこんな場所でタクシーなんて珍しい。

男が2人タクシーに乗っている。少し太った男は降りるやいなや扇子で扇ぎ始めた。いや、もう夕方だからそんなに暑くないだろ。

 もうひとりスーツパンツとワイシャツを着た黒ずくめの男が支払いを終えて降りて来た。


「ささ、九条さんこちらです」

「分かってるよ、あの階段を登ればいいんだろ」

「いえ、あれは人様の家に繋がる階段ですね」

 あ、その気持ち分かるよ。田舎って公道かと思ったら私道だったとか、その辺の堺がすげぇ分かりづらいよね。

「おい木下」

ドスの効いた声で九条と呼ばれた男は言った。

「はい! すいません。でしゃばった真似を」

「頭いい。今日1頭いいよ」

「ありがたき」

「でも、俺の方が頭いい」

「ごもっとも」

 もう既に会話が頭悪い。


「なんだあいつら」

「最近県議会員になった奴だよ。太った灰色スーツが九条正義。隣の真っ黒が秘書の木下悟朗。町内会でも幅を利かせてるらしいぜ」

「お母さんあいつらの事嫌いって言ってた!」

 石段を登り始めた九条と木下の背中に、金城はあっかんべーをした。ま、確かに好きになるタイプじゃないな。

「ほら、さっさと帰ろうぜ」

「明日も補習あるしな」

「それはお前だけな」

「あたしもお腹空いちゃった」

「そうだよ。だから早く帰ろうぜ。夕飯時はいい匂いがしてきて嫌なんだよ」

「さてはお前減量中だな?」

「ウチ、今日はメンチカツだって~!」

 嫌味ったらしく金城が俊介にすり寄る。

「俺ん家はハンバーグカレーだぜ~。ご飯大盛で食ってやるよ」

 どむっ。「ぐふぅ」俺の胸に俊介の重いパンチが響いた。

「彩夏ちゃんは覚えておいてね」

 何で彩夏には言葉だけなんだよ。男尊女卑の逆バージョンだぞお前。



 その日家に帰ると本当にご飯を大盛にした。し、おかわりもした。妙に食欲がある。嬉しい気持ちと超絶緊張したせいで満腹中枢が馬鹿になってやがる。

 ベットに横になり鈴森さんの事を考える。確かに可愛い。可愛いしめちゃくちゃいい子だ、きっと。そしてこの胸はめちゃくちゃドキドキした。でも、それでもこれが恋かどうか俺には分からなかった。あの時の鈴森さんの表情に魅せられたのは事実だ。けどそれだけじゃなくて、何て言うか命に対する憧れ? みたいな輝きを感じた。そして俺はそれを深く理解出来た気になった。いや、鈴森さんの事何も覚えてなかったくせに何言ってんだよな。


 でも、彼女のその感情に俺は寄り添いたいと思ったし、そうしなきゃいけない気がしたんだ。あの無表情の中には憧れや希望、それとは反対に絶望や諦め。そんな沢山の想いが詰まっていたように感じた。ちょっと拡大解釈し過ぎか?


「もっと笑った顔とか、色んな顔が見てみたいな」


真っ暗な天井に独り言が溶けていった。カーテンの隙間から月の光がぼんやりと揺らぐ。エアコンをつける事も忘れ、その日はいつの間にか眠っていた。


 その日の夢は、小学校6年生の頃の夢だった。教室の後ろに貼ってある習字をずっと眺めていた。これは夢じゃないな。記憶だ。子供の頃こんな事をしていた気がする。端から端まで皆の習字を何度も何度も見返したが、俺の見たいものはそこに無かった。


 俺は、何を探していたんだろう。




2025/06/08まで毎日18時に更新されますので

楽しみにお待ちいただければ幸いです。


2025/06/08で「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。


全部で4部作ありますこのシリーズ。

恐らく全てがラノベ化されると思いますので

そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。


応援の程、よろしくお願い致します。

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