【第71話 お父さん】
こんにちは。
御覧いただき、ありがとうございます。
舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」
是非、お楽しみ下さい。
晶のおじさんが買い物袋をぶら下げてエプロン姿で帰宅した。
辺りを見渡し、そして優しく微笑んだ。この場に味方側の大人が来てくれて少し安心する。
咲良ちゃんはおじさんを見て駆け寄った。
「お父さんこの人! この人がお母さんを! お母さんを!」
涙ながらにおじさんにすがりついてお父さんと呼んだ。
6年ぶりに咲良ちゃんはおじさんをお父さんって呼べた。
「咲良! 咲良お前感情が……」
おじさんが驚いていると、あいつは咲良ちゃんの背中めがけて霊力を放った。
買い物袋をその場に放り投げ、その霊力をおじさんは弾き咲良ちゃんを庇った。重い衝突音が夕暮れの神社に木霊する。
「おまえ、いい匂いしないなぁ。頼むから死んでよぉお~」
少し怒ったようにそいつは悔しそうにしていた。
「何ですか何ですか、僕は実の娘が感情を取り戻したって言うのに、お父さんって6年ぶりに呼んでくれたのに……感動してる暇もない訳ですか」
晶のおじさんがゆっくりとあいつに近付いてゆく。
顔はいつもの様に優しく微笑んでいるが、唇を少し噛みしめている。
数珠を使いあいつはまたおじさんに霊力を放った。
今度は直撃して、どんっと鈍い音がしておじさんが前のめりになる。
「へ、へへ」
ゆっくりと顔を起こすおじさんを見て笑いが消える。
表情は先ほどと変わらないままおじさんは語り掛ける。
「お前か。お前が娘の笑顔を奪ったのか」
「く、くるなぁぁ」
時計の針を巻き戻す様に手で術印を作り、そして放った。
先ほどよりも強く鈍い音がした。
おじさんはそれを避けようとしない。それは後ろに俺たちが居るからなのか、その痛みを、最愛の奥さんを、娘の笑顔を失った痛みを、6年間の苦しみをその体に刻もうとしているのか。
それでもおじさんは倒れなかった。
「お前が俺の愛する妻を、美希さんを奪ったのか」
「うわぁあぁああ」
あいつの表情から笑みが完全に消える。
汗が噴き出している。
「お前が私の家族を、悲しませたのかぁぁぁあああ!」
晶のおじさんは吠えた。
怒りを顕わにして、感情を抑え込んできた気持ちを思いっきりぶつけた。
「うわぁああああああああああ」
至近距離まで近付かれてパニックになったあいつは、晶のおじさんに連撃を加えた。
何度も何度もおじさんの体が揺さぶられる。
どんっどんっどんっ。
絶え間なく続くその霊力の攻撃をおじさんは全て受け止めた。
片膝をつき動かない。
あいつは霊力が尽き肩で大きく息をしている。動かなくなったおじさんを見て笑いが込み上げてくる。
「ふへ、ふへへへ」
おじさんがゆっくりと立ち上がるとその気味の悪い笑いは消え、顔には絶望が浮かぶ。恐怖で足がすくんでいる。
おじさんが顔を上げると、怒りの表情ではなく、穏やかで芯のある顔をしていた。
樹齢1000年を超える御神木を見た時と似ている。
大きな決して抗えない優しくも厳しく全てを見て来た様な、そんな大きさがそこにはあった。
「その罪を今償え」
ゆっくりと近付きながらおじさんは唱えた。
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い」
近付いてそっとあいつの胸に手を置いた。
「幸え給え」
「かはっっっ」
一度だけ苦しそうに息を吐き、そして糸がぷつりと切れた様に後ろへ倒れ込んで静かになった。
「咲良……」
「お父さん……お父さん!」
咲良ちゃんがおじさんの元へ走ってゆきその大きな胸に飛び込んだ。
どんなにお父さんに甘えたかっただろう。
どれだけ「お父さん」と呼んで欲しかっただろう。
どれだけ、その手で愛する娘を抱きしめたかっただろう。
「おかえり」
その大きな手が咲良ちゃんを優しく包み込んだ。
完結するまで毎日18時に更新されますので
楽しみにお待ちいただければ幸いです。
2025/06/08までに「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。
全部で4部作ありますこのシリーズ。
恐らく全てがラノベ化されると思いますので
そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。
応援の程、よろしくお願い致します。




