【第66話 だって僕らは、生きているから】
こんにちは。
御覧いただき、ありがとうございます。
舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」
是非、お楽しみ下さい。
光が治まり俺たちが目を開けるとそこは6年前の耶志眞町だった。さっき俊介たちと来た場所だ。
「来た。6年前の耶志眞町。……田中は居ないみたい……行こう咲良ちゃん!」
もう俺たちを邪魔するオグマもストスも居ない。昔の俺たちが居る場所も、お母さんがそこに来る事も分かってる。
「はい。たぬき公園へ向かいましょう」
俺たちはたぬき公園へと走った。
また同じ事が起こる。でもどうしようもない。俺はどうしたら……。でも運命を変えなきゃ。そんな思いがぐるぐると頭をループした。
オグマとストスに邪魔されなかった分、少しだけ早くたぬき公園に着いた。
明るかった空はじんわりとオレンジを帯びて、柔らかな温かさを肌で感じていた。
少し遠くの見付からない場所から昔の俺たちを、無邪気に遊ぶ俺と咲良ちゃんを眺めていた。
咲良ちゃんがなかなか目の前の光景を直視出来ないでいる。
これからどんな事が起こるか分かってしまっているから。最初に6年前に来た時よりも、今が絶対不安で怖いよね。
「咲良ちゃん、大丈夫。僕がついてる」
俺は咲良ちゃんの手を強く握りしめた。
そんな俺の手も震えている。一緒なら、きっと運命を変えられる。
「これから起こる事は……運命は変えられないのでしょうか?」
目と鼻の先に俺たちが忘れてしまった過去がある。
それはまだ痛みも悲しみも知らなくて、俺と咲良ちゃんは友達で、咲良ちゃんは笑ってて。
そんな過去を見ながら、咲良ちゃんがポツリと呟いた。
「咲良ちゃん……」
「私は……私は、美希さんが目の前でいなくなるのに……私はなにも出来ないのでしょうか」
「辛いよね」
そんな月並みの言葉しか出て来ない自分が憎い。
「辛いですよ。もうどうしようもないくらい。私はなんて無力なんだろうって。今すぐにでも私は……私は美希さんの元に駆け寄りたいのに。お、お、おか、おか」
咲良ちゃんが「お母さん」と言おうとしている。
口が震え喉がきつく閉まり、声が出ない。
そしてもう呼べない事が分かると、自分に抗う事を止めてしまった。
「……名前でしか呼ぶことが出来ないなんて」
「無力じゃない。咲良ちゃんは無力なんかじゃない!」
「だって……だって私は、私にはどうする事も出来ない。自分の大好きな人を目の前で亡くし、ただそれを見ている事しか出来ない。……たぬ神さまの神社の巫女のくせに。どうせ……どうせ私に運命は変えられない……」
咲良ちゃんの顔から色が消える。
それは無表情ではなく虚無。
何もかもを諦めようとしてるんだ。
自分の無力さに、運命の残酷さに全てを諦めようとしてるんだ。
握り返してくれた手も力を無くしだらんとした。ただ俺が手を握っているからそこにあるだけ。
俺は咲良ちゃんの手をもう一度強く握りしめた。
分かっていても、言葉にするのは勇気がいる。
それが形となって決定してしまうみたいで。
言葉にするのは、怖い。
「そうだよ。運命は変えられない」
声が震える。
「え?」
咲良ちゃんは驚いて俺を見た。
俺は真っ直ぐに昔の俺たちを見て言った。
「もう起こってしまった過去は、変えられない」
「でも……じゃあ、じゃあ何でわたしは……」
「クロさんが言ってた。お母さんは自分が死なない事じゃなくて、咲良ちゃんが笑顔で生きれるように願ったって」
俺が泣いちゃダメなんだ。
俺よりも咲良ちゃんの方が何倍も何十倍も辛いんだから。
でも、俺は涙を止める事が出来なかった。
咲良ちゃんの方を振り返り肩を掴み、咲良ちゃんの目を見る。
目の奥が泣いていた。俺はその奥の涙を拭ってあげたい。
「きっとこれから起こる事は変えられない。でも、未来は変えられる! だって僕らは生きているから!」
幼い2人の後ろから白装束の男がやってきて小さな咲良ちゃんの腕を掴み歩き出した。
完結するまで毎日18時に更新されますので
楽しみにお待ちいただければ幸いです。
2025/06/08までに「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。
全部で4部作ありますこのシリーズ。
恐らく全てがラノベ化されると思いますので
そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。
応援の程、よろしくお願い致します。




