【第65話 田中、時空の狭間へ】
こんにちは。
御覧いただき、ありがとうございます。
舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」
是非、お楽しみ下さい。
もう一度過去へ行き、その事実と向き合う決心をした、俺と咲良ちゃん。
視界の端で田中がこの場の誰よりも号泣していた。
なんでだよ。
クロさんは安心したように、ふっとひとつ鼻で笑った。
「腹太鼓、ひとたび叩けば定め事さえも、水面に揺れる若草のごとし」
クロさんが妖力を集中させ、空間が歪み始めた。徐々に体が歪みに飲み込まれていく。行くぞ。そう決心した時、アトロさんが身体を起こし最後の力を振り絞ってクロさんの力を律した。
「律!」
歪みが止まり、アトロさんは少し笑って再び気を失った。
「あっ! この野郎!」
田中がまたアトロさんの頭を容赦なく引っ叩いている。
「このキツネ野郎! やばい、歪が閉まっちまう。おい、1回出ろ。中途半端に体入ってっと、飲み込まれっちまうぞ!」
「それが……」
「体が動きません」
俺たちの体はアトロさんの律のせいで、空間の歪みと共に動きを止めていた。
「おい、馬鹿! 律されてんじゃねぇ! 抗いやがれ!」
「うぉおおおお!」
さっきまでアトロさんの頭をバシバシ叩いていた田中が歪みの中に飛び込んできた。
「わぁ! なんかちょっとぬるい!」
「おい、田中何やってんだ、あぶねぇ! 巻き込まれっちまうぞ!」
田中は俺たちよりも歪みの中に入り込んで、その中から俺たちを引っ張り入れようと腕を回した。
「市民を守るのが警察官の役目! 殉職上等!」
懸命に引っ張るも、足が固定されてるかの様にもビクともしない。俺も動かそうとしてみるけど全然動かない。
「死を美化してんじゃねぇ!」
ギギギと不穏な音を立て歪みが閉じて行く。
「してませんよ! めちゃくちゃ怖いです! でも、僕は警察官である前に、こいつらのお兄ちゃんなんです! 友達のひとりやふたり救えなくて、何が警察官ですかー!」
歪みの窓がどんどん小さくなっていく。ダメだ間に合わない。
「うぉおおおおおおお!」
諦めかけたその時、ふっと体が軽くなり動くことが出来た。
田中が歪みに巻き込まれてゆくその力で、俺たちも中へと引きずり込まれた。眩い光の中俺は叫んだ。
「田中―!」
「徹! 咲良ちゃんを頼んだぞ!」
田中の腕が時空の流れに引っ張られ、俺達の体から徐々に離れていく。
「田中! 絶対手離すなよ!」
「離すなよで思い出したんだけどさ、押すなよって言われて本当におさあ~!」
何かを言いかけて田中の腕が俺たちから離れてしまった。
田中の声が小さくなっていき、そして聞こえなくなった。
時空の流れに身を任せながら俺たちは6年前の耶志眞町を目指した。
神社では眩い光と共に時空の歪みが消え、そこに徹と咲良と田中の姿はなかった。
「……おい、のりひこ……紀彦!」
クロが田中を探すも周囲にその姿はなかった。
歪みがあった場所に田中の警察帽が落ちていた。クロは重い体を引きずりその帽子を拾い上げた。
「……ったく……馬鹿野郎が」
ここから、田中の時間旅行が始まる。
人類の運命をかけた、時間旅行が。
完結するまで毎日18時に更新されますので
楽しみにお待ちいただければ幸いです。
2025/06/08までに「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。
全部で4部作ありますこのシリーズ。
恐らく全てがラノベ化されると思いますので
そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。
応援の程、よろしくお願い致します。




