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【第42話 時を戻す能力】

こんにちは。

御覧いただき、ありがとうございます。


舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」


是非、お楽しみ下さい。


「こいつらを信仰させろ」

「かしこまりました」


 煙が晴れると、俺らと同い年くらいの男の子が立っていた。

 本を片手に持ち、金縁の古風な眼鏡をかけ、眼鏡を落っことしてもいいようなチェーンを垂らしている。

 少しよれた茶色のYシャツにチノパンを履きサスペンダーでそれを止めている。


 「頭良いですよ僕!」って言いながら歩くよりも分かりやすい人が、あ、いや、多分人じゃないけど。が、そこに居た。

 オモイと呼ばれたそいつはお構いなしに話し始めた。


「みなさん不思議に思われた事はありませんか? どうしてこの町の至る所にたぬきの置物があるのかと」


「うん、確かに!」

「庭先とか玄関に必ずあるよね」

「何を隠そう! この町はたぬきの神様、クロさんによって守られている町なんです!」

「テッテレー! すげぇだろ!」

 テッテレーは信じられないかもしれないけど、大の大人がちゃんと声に出して、そしてちゃんとポーズをキメた。


 まあそれはさっき聞いて理解はしてないけど、とりあえず分かった。え、そんなにこの町には神様がごろごろ居るの?

「みんなも神様!?」

 金城は目を輝かせて質問した。

「クロさんは神様ですが、僕らは俗にいう妖怪、妖です」

「何が違うの?」


「簡単に言うと信仰されているかどうかです。妖が長く生きていると、神へと昇華する事があるんです。僕らは元々普通のたぬきだったのですが、クロさんに拾われて一緒に居る内に妖になった。っと言った感じです」


 ほほう。たぬきが信仰されると神様になる事があるらしい。ふむふむ。続けて?


「この町には成人の儀式というのがあります。二十歳の成人を迎えると、この町にはたぬきの神様が居るという事を伝えられます」


 通りで俺たちは何も知らなかった訳だ。

 で、晴れて大人の仲間入りを果たすと教えられる門外不出のこの町の秘密って訳か。


「だから紀彦兄ちゃんは普通にクロさんを知ってたし受け入れてたのか」

 クロさんがニヤリと笑った。


「俺たちの力の源はなんだと思う? それはお前らの信仰心だ。人に存在を認められてこそ俺たちは力が使える。そしてもうひとつ。お前らからお供え物を貰わなきゃならねぇ」


 お供え物? 饅頭とか酒とか金か? 金はない!

「事の大きさによって、俺が記憶を貰う」

 記憶も無いぞ! ん? 記憶?

「それで徹は……」

「何だよ?」

「あ、いや……」


「そのふたつだ。俺を信じる事。そして俺に記憶を供える事」

「だから俺たちに存在を明かした」

 何だか俊介の中で合点がいったらしい。

 その合点を俺にも教えて欲しいものだ。


「そこのボウズが思っちまったからなぁ。運命を変えたいって。そして俺にも、お前らの運命を変える義務がある」

「義務?」

 俊介は子供の頃から良く先生に質問していた。

 質問力があるんだな。だからこうして俺と雲泥の差がついてしまった。見習いたいもんだ。


「俺はまだお供えもん以上の」

「お師匠さん」

 クロさんが何かを言いかけたが、それをロノさんに止められた。

「わーてるよ! ま、そんなとこだ。さっさと信じろ、そして供えろ」

「でもそんな急には……」

 さすがにノリのいい金城でもこの状況には着いていけていないようだ。俺も同意だ。


「【百聞は一見にしかず】ですね」

 オモイが得意げに言った。俺だってそのくらいのことわざは知っている。知的キャラもこんなもんか。


「どれ。時を司る神、たぬ神様の力を見せてやろうかね」

 そう言ってクロさんは、たぬきの狛犬……って何だか意味が変だな。狸なのか犬なのか分からないな。(※狛狸と言うらしい)

 まあとにかくその土台みたいな所からぴょんと飛び降りてクロさんはまたオモイを呼び出した時のように構えた。

 またオーラみたなのがクロさんからニュルニュルと出てくる。気持ちの悪い。

 最高潮にオーラが高まってゆく。心なしか肌がピリピリとしてくる。何だかよく分からない恐怖と不安にかられる。


「よーおっ!」

 クロさんが手を大きく振りかぶった。

「ちょっと……」

 金城が声を上げたところで、その振り上げた手はクロさんのお腹に振り下ろされ「ぽんっ」と心地よい音を鳴らした。

 そして、クロさん達は目の前から消えた。


「待って下さ……あれ?」

「どこに行った?」

 さっきまでの禍々しいオーラも消え去り、そこにはいつもの風景が広がっていた。

「どうだ?」

 後ろから声をかけられた。

「きゃっ」

「わぁ!」

「うぉ!」

 振り返ると、クロさん・ロノさん・オモイが立っていた。


「瞬間移動!?」

「そう見えても仕方ありませんね。でも正確には」

「時が進む速度と同じ速度で時を戻した。つまり、実質時は進んでねぇ。わーっしゃっしゃっしゃ!」

「その間に私たちが移動した」

「お師匠さんは時を戻す神様なんですよ」

「妖力を使える者は多少抗う事が出来ます」

「ほら早くしねぇか。あと腹括んのはお前らだけだぜ?」


 金城、俊介と見合う。

 鈴森さんは俺たちをただ真っ直ぐに見ていた。その目を見れば分かる。

 これが真実なんだって事が。


 まだ出会って1ヶ月も経ってないけど、俺にはその出会いがとても大切な事の様に思えていた。

 もちろん鈴森さんを好きだっていう気持ちもあるのかもしれないけど。それだけじゃない。

 鈴森さんをこの神社で見た時から、彼女のあの命を切望する目を見た時から、俺はその理由が知りたかった。

 その目の奥にある悲しみを取り除きたかった。そしてそれは俺にとって当然の衝動だった。


 鈴森さんはクロさんを、たぬきの神様を信じている。

 神様とか瞬間移動とか正直全然全くもってよく分からないけど、クロさんを信じる事が鈴森さんの運命を変える事になるなら、鈴森さんが笑ってくれるのなら、俺はクロさんを信じる!



「僕は……運命を、鈴森さんの運命を変えたい」



「感じるぜぇ~お前の信仰心をビンビンになぁ」

 クロさんは俺の胸をドンとひとつ叩くと、満足気に笑った。


 青緑赤の子供たちが何やら慌てて帰って来た。

「あわわわわ」

「ねぇねぇねぇ」

「誰か登ってくるよー!」

「馬鹿野郎! 報告じゃなくて足止めしねぇか!」

「確かに!」

「盲点!」

「さーせんっした!」



 仔狸たちがクロさんたちの後ろに隠れ終わったちょうどその時、鳥居から見慣れない人たちが境内へと入ってきた。




完結するまで毎日18時に更新されますので

楽しみにお待ちいただければ幸いです。


2025/06/08までに「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。


全部で4部作ありますこのシリーズ。

恐らく全てがラノベ化されると思いますので

そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。


応援の程、よろしくお願い致します。

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