表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/75

【第39話 田中の叶わぬ恋】

こんにちは。

御覧いただき、ありがとうございます。


舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」


是非、お楽しみ下さい。


 一目惚れだった。


 田中はスーツパンツが好きだった。

 スカートよりもスーツパンツがお尻のラインが美しくちょっと強い頼れるお姉さんに見えて好きなのだ。



 きっと仕事もバリバリこなして部下からも信頼されていて職場じゃちょっと怖いくらいに思われてるんだけど、ふとした時に屋上で風にあたりながら「なんで私っていっつもこうなんだろ……」って弱音を自分だけに見せてくれて、いつもの真面目で少し怖い眼は、涙で歪みメガネの奥が揺れている。そんな彼女を後輩の僕は後ろからそっと抱きしめる事しか出来なくて……。



 そんな妄想をしていた。

「バチボコタイプじゃないか!」

 田中は声に出していた。

「え?」

 赤メガネの美人が振り返る。


「ははは、いいんですよ。子供は元気過ぎるくらいがちょうどいいんです」

「すいません。この子たちがご迷惑を」


 お団子美人がお辞儀をした。お辞儀も好きだ。お辞儀した時に見える、メガネ越しではない君のそのままの瞳が好きだ。


「いえいえ! いいんですよ奥さん。市民の愛を守るのが僕の役目ですから。その市民の中にはもちろん僕も含まれる訳で、どうやってこの目の前で見つけてしまった愛を守るかと言うと」




 君を木陰まで連れて行き壁ドンならぬ木ドンする。


 ショワショワショワ……。


 その瞬間から、この世界は蝉の声とふたりの心臓の音だけが支配するんだ。


「あ、あの」


 彼女は少し頬を赤らめ困ったようにこっちを見上げる。

「奥さん、あなたに法律違反の嫌疑がかけられています」


 彼女の目を真っ直ぐに見据える。北海道の道よりも真っ直ぐに。


「あの、一体どんな罪が……」

 うろたえる彼女にそっと耳打ちするのさ。


「美しすぎる罪です。職務質問します。あなたのお名前は?」


 それからふたりは……。




「モイラすまない。遅れた」

「旦那さ~~~ん!!!」


 せめて妄想が終わってから出て来てくんないかな?

 なにさ。灰色のスーツなんて着こなしちゃってさ。この辺で作業服じゃない人なんて俺くらいだよ?

 だからこそこの制服のカッコよさが際立つってもんじゃないの。


 田中はいたく不満そうだった。


「あ、お巡りさんすみません。この近くの神社ってあの階段を行けばいいですか?」

「あ? 神社ですか? あーアレですわ。あそこぎゃーん行って、グッてきたらカッて曲がったりなんしたりして、最終的にはペロっとしたら神社ですわ」

 田中は鼻くそをほじりながら答えた。

 嫉妬とは人をこうも醜くするのか、田中のそもそものポテンシャルなのかは、とてもイーブンだ。

「何か分かんないけど、お前まあまあ最悪だな」

「はい?」

「いえ、ありがとうございます」

「モイラさん! ご家族でご参拝ですか?」

 田中はしれっと名前という個人情報をゲットしていた。

「ええまあ」

「お気を付けて!」


 潔く旦那に渡して身を引く。

 そして相手を気遣いながらも彼女が見えなくなるまでその背中を見送る。

 紳士だ。俺はなんて紳士なんだ。

 田中は襟を正し後3ミリしかない自尊心を保たせた。


「あいつの発言ときば過ぎじゃね?」

「とき・ば?」

「時と場合?」

「正解~!」


 女の子たちもふたりに着いて行った。

 仲の良い夫婦じゃないか。家族で参拝するだなんていい事だ。

 その幸せはそっとしておいてあげよう。

 別に付け入る隙が無いって訳じゃない。強がってもいないさ。

 田中の景色が少し歪んだが、家族が石段を登りしっかりと背中が見えなくなるまで見送った。

 それがせめてもの、彼に出来る精一杯のことだった。


「さってと! あの野郎と離婚して俺と結婚するように神社に向かってお願いするか!」


 両ひざをパンッと小気味よく手ではたき、鳥居に向かう。今のところこの男は最低である。


「おや? 何か落とし物があるぞ?」


 田中は小さい小銭入れのような巾着袋を鳥居の傍で見つけた。多分さっきまではなかったものだ。

 となるとこれはさっきまでここで遊んでいた、あの女の子たちの落とし物かもしれない。


「ね~! 君たちのじゃないのか~い? おーい!」


 虚しく田中の声だけがこだまして返って来た。


「ダメだ。なんだろうこれ」

 巾着を拾ってみると、何だか妙に柔らかいし角ばっている? 揉むとガシュガシュした手触り。パチンとガマ口を開けて中を覗くと濃い緑の影が視界を遮る。


 ブブブブブブブブブブッ!!!


「いやぁぁぁぁあああああああ!」


 一斉に巾着の中から大量のイナゴが飛び出してきて、そして田んぼへと消えていった。


 すっかり腰を抜かし地面に座り込んだ田中はイナゴの消えていった田んぼを見つめていた。まだ自分の声が少しこだましている。

 お尻の土埃を払い冷静に田中は立ち上がり、大きく息を吸った。



「……いや、イナゴファミリーやないかい!」



 我に返った田中は立ち上がり後を追った。


 へこへこと腰を抜かしたまま。




完結するまで毎日18時に更新されますので

楽しみにお待ちいただければ幸いです。


2025/06/08までに「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。


全部で4部作ありますこのシリーズ。

恐らく全てがラノベ化されると思いますので

そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。


応援の程、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ