【第30話 使えない部下たち】
こんにちは。
御覧いただき、ありがとうございます。
舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」
是非、お楽しみ下さい。
やる気には満ち溢れているモイラに対し、アトロは指示を出す。
「この土地の全てを調べ上げろ」
「かしこまりました!」
返事は良い、とても。
「おい、お前たち」
バタバタと騒がしい足音が四方八方から駆け寄って来る。
「ふぁい!」
「ふぁい!」
「ふごっ!」
3人は口をいっぱいに膨らまし何かをモグモグしながら精一杯の返事をした。
「何を口にしている」
「イナゴだし~」
金髪のくりんくりんに巻いた髪を揺らし、ギャルの様な恰好をした女の子が答えた。
「勘違いしないでよね!」
大きな赤いリボンを頭に付けたつり目の女の子は、腰に手をやり少しドヤって2番目に答えた。
「ふぃふぁごでし!」
返答する気持ちだけを見せ3番目に答えたこの子は、ふわふわとした髪の毛に可愛いお花を編み込んでおり、無邪気な笑顔を見せた。
「早く飲み込め」
アトロは顔色ひとつ変えずに言った。
いつもの光景なのだろうかアトロは少し視線を外し空を仰いだ。
誰が見ても分かる。彼はもう何かを諦めている。
「大きいの食べるからだよ~」とギャル。
「食い意地張ってる女子なんて超キモイ!」と赤リボン。
「そうかな~」とふわふわ笑うお花畑。
彼女たちに怒られている自覚はないのだろうか。
3人でキャッキャと楽しそうに跳ねている。
「よく居ましたよね。昭和の田舎にこんな子供たち」
モイラがわざわざアトロの視界に入ってきた。
とってもいい笑顔である。
昭和と言ってもそれは戦後までである。
すっかり高度経済成長期を終えた今の時代に誰がイナゴを食べようか。しかも歩きながら。
「例え居たとしても、女児がイナゴを頬張りながら歩くなどこの時代とそぐわない。律さなければ」
アトロの口調が少し鋭くなる。
眼前に手をかざしこれからお仕置きでもしてやろうかという時。
「でも~原宿じゃタピオカ飲みながら歩くらし~よ~!」
と、ギャルが反論した。
「え、キモイ。イナゴ食べすぎて胃がキモイ」
とお腹を押さえて赤リボン。
「そうかな~」
とにこにこしているお花畑。
「ねぇ、今から原宿系女子目指そうよ~」
お花畑の提案にはしゃぐ3人。
まだ見ぬ都市への憧れと妄想を繰り広げているのだろうか。アトロに怒られそうだった過去など微塵も残ってはいなかった。
「何年前の話をしている」
かざした手を降ろしながらアトロはもうすっかり怒る気力すら失ってしまっているようだった。
「目指すのは勝手だが口から出ているイナゴの脚をしまえ」
まるで爪楊枝を口に加える食後のサラリーマンの様に、口からイナゴの脚が出ている。
「やっべ」とギャル。
「やっぱキモイ」と赤リボン。
「そうかな~」と花畑。
皆でちゅるんとイナゴの脚を口の中に吸い込んだ。
「お前たちここが観測地点だ。周囲の妖気を調べ上げろ」
「ちょり~っす」ギャル。
「ふんっ、別に調べてもいいけどね」リボン。
「ねぇ、あの雲イナゴに見えない?」花。
え~どれどれ~? あれだよ~? あ、本当だ~。
「おい」
別にイナゴなんかに惹かれないわよ。それよりあっちの雲の方がイナゴに見えるわよ。
「おい」
パネェ! あれが頭? 馬鹿ね、あれが脚であれが触覚よ。
「おーい」
ねぇどこから食べる~? あたしはもぅ胃がキモイからいいわよ。やっぱ脚じゃね!? 頭は最後っしょ? あ、好きなの最後に取っておくタイプだ~。
「おい!」
「「「っ!」」」
静まり返る3人。
頭についたフサフサの耳が少ししょげている。怒られる事が分かっている犬とか猫だ。
「くれぐれも人前でイナゴを食べるなよ」
「つらたん」
「イ、イナゴなんか食べないわよ!」
「焼いて、塩でも美味しいよね~」
えー、超理解! 馬鹿ね、焼き味噌もあるじゃない。だって塩の方が……。
「こらっ!」
アトロが頭を引っ叩こうと手を振り上げると3人は一目散に逃げて行った。
「怒らないから四足歩行だけは止めなさ~い!」
もう信号2つ目まで離れている。こうゆう時だけ動きは早い。
「まったく。まだ子供だから許してはいるがあいつらも律さなければならんな」
アトロが振り返るとそこにモイラの姿はなかった。
「モイラ?」
ロータリー横のエノコログサの群生にしゃがみ込むモイラの姿を見つけ、後ろから近付き声を掛ける。
「モイラ」
ビクッと肩が弾んだ。ゆっくりと立ち上がる。
背を向けたままなかなかこちらを振り返らない。後ろからでも分かるほど膨らませた頬っぺたがゆっくりと動いている。
「モイラ」
恐る恐る振り返るモイラは、徐々に咀嚼を止めて頷いた。
「モイラ……頷くではなく返事をしろ。モイラ」
「ふぁい」
「イナゴだな。イナゴを食べているんだな」
「もうふぃわけ」
口からイナゴの破片が出ている。
「今は喋らなくていい」
オヴェ! 手にぐちゃぐちゃのイナゴを吐き出すと、潤んだ瞳でアトロへ差し出してきた。
「これでなんとか……」
「結構だ」
そう言うと何故か彼女は嬉しそうにそれを再び口にいれた。
要は分かっていないのだ。
何故怒られているかの本質が。
「平和な町だな」
空を仰いだ。またひとつアトロは何かを諦めた。
「えぇ、そうですね」
やっと飲み込んだモイラが元気よく答えた。
「モイラ、君も律さなければならない」
そう言われるとモイラは少し考える素振りを見せ言った。
「苦渋の決断ですね」
「誰のせいだ」
またこの耶志眞町に、変な人物が集合しつつあった。
完結するまで毎日18時に更新されますので
楽しみにお待ちいただければ幸いです。
2025/06/08までに「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。
全部で4部作ありますこのシリーズ。
恐らく全てがラノベ化されると思いますので
そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。
応援の程、よろしくお願い致します。




