【第2話 ちょっと頭の悪い普通の高校生さ】
こんにちは。
御覧いただき、ありがとうございます。
舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」
是非、お楽しみ下さい。
けたたましい音が真っ暗な世界に響いてくる。この音とは長い付き合いだ。中学生になった俺に母親が買ってくれやがった目覚まし時計だ。おかげで平日は毎朝決まった時間に起きなければならなくなった。
目を開けると窓を隠すはずのカーテンは端へと追いやられ、夏の容赦ない日差しが部屋の中に不法侵入している。母親の仕業だ。
いそいそと布団から這いだして高校の夏服に袖を通す。海開きもとっくに終わって「もうしばらく制服は着なくていいよ」って学校から言われたはずなんだ。つまりは国が学校に来るなって言ったはずなのにそいつは「ただしてめぇは来い」って俺を含む成績不良者に告げてきた。俺が何をしたって言うんだ。テストを俺なりに頑張っただけじゃないか。それの何が悪いって言うんだよ。成績だよ。
階段を降り、炊きたての匂いが立ち込めるリビングへと向かう。「いただきま~す」は節約して無言で食べ始める。朝だから省エネも致し方ない。むしろ温暖化防止へ貢献しているのだ。寝ぼけ眼で朝飯を口に頬張る。ほかほかの白飯に味噌汁。納豆。卵焼き。いつものラインナップに加え今日は明太子がメンバー入りしている。20%引きのシールが貼ってあるそれに朝からテンションが上がる。白飯は明太子で食べたくなったので、納豆は味噌汁に入れ、明太子でそのほかほかを掻き込み、忙しく朝食を終わらせた。
母親に早く行けと言われる前に家を出る。それが俺のルールだ。それがもう鞄を持とうとしている瞬間に言われようものなら秒で学校に行きたくなくなる。「やろうと思ってたのに! もうやりたくない!」現象だ。正式な名前は知らん。まあどの道玄関を開けた瞬間に部屋に引き返したくなるのだが。
外へ一歩踏み出すや否や蒸し暑い臭い空気が鼻に流れ込んできて、身体が肺から暑くなる。夏って空気臭くない? コンクリとか草とか熱されて臭いんだよね。
いつもの様に狸の置物に一礼して家を出る。なんで夏休みなのに学校に行かなきゃならんのだ。俺のせいなんだけど。
補習はいつも通り、普段の学校と変わらない時間から始まる。せめて10時スタートにしてくれないか。夏休みは面白い番組が多いんだよ。ダラダラしたいんだよ。分かりますかね?
補習は多目的室で行われる。教室のある校舎から渡り廊下を渡った2階にある。フルスクリーンで映画を観たり、演劇部が稽古をしたりする部屋でこの部屋は冷房が効くから好きだ。それ以外は嫌いだ。
配られたプリントに目を通すと長々と文字が書いてあり最後に「この時の作者の気持ちを答えよ」と添えられていた。答えてやろう。そんなもんは「知らん」だ。
窓を隔てて「パコン、パコン」とテニスの音が聞こえて来る。こんな暑い中よくもまあやるもんだ。金城が少し長いポニーテールを弾ませながらボールを追いかけている。何故そんな暑い中で笑っていられる。そもそもボールと追いかけっこして何か楽しいのかね。犬じゃあるまいし。金城は俺の幼馴染で小中高校と腐れ縁というか、まあそもそも田舎に住んでて地元の高校に行くと自然とそうなる。
俊介も今頃部活頑張ってんのかね。ここから見えない体育館にも想いを馳せてみる。俊介も金城と同じく俺の幼馴染だ。炎天下の中ボールを追いかけるよりはマシだが、何が楽しくて殴り合いの練習をしているのか俺には理解できない。多分あいつはやべぇ奴だ。勉強も出来て、ボクシングでもなかなかの成績を収め、しかも女の子にもモテる。何か相当悪い事をしているに違いない。
そう言えばヤンキーって何でモテるんだろうな。なんでなん? だって校則も守ってないし、怖いし、頭も悪いじゃん? 補習にも来てないし。いや、来たら来たで肩身狭くなるからいいんだけどさ。何でモテるん? で、俊介はヤンキーじゃないのに何でモテるん?
そんな事を考えながらこんがり焼けていく地面を見ていると現代文の先生が俺に質問をしてきた。これが不意打ちってやつだ。甘く見るなよ? 俺は様々な事を思考しながら視野はめちゃくちゃ広いんだ。俺はビシッと言ってやったね。
「すいません、聞いてませんでした」って。
視覚と聴覚は別さ。
2025/06/08まで毎日18時に更新されますので
楽しみにお待ちいただければ幸いです。
2025/06/08で「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。
全部で4部作ありますこのシリーズ。
恐らく全てがラノベ化されると思いますので
そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。
応援の程、よろしくお願い致します。