【第19話 緊張と無言と友達】
こんにちは。
御覧いただき、ありがとうございます。
舞台原作「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」
是非、お楽しみ下さい。
頭はフル回転している癖に、いざ鈴森さんを前にすると余計な事ばかりを考えて言葉が何も出て来ない。
俺と鈴森さんは無言で石段に座り、目の前に広がる畑を見渡していた。キュウリと茄子が大収穫だ。
いや、そんな事を考える為にここに座った訳じゃない。
あれ? そもそも俺ちょっと離れて座り過ぎた? 1.75人分くらい間開いてるけど。もっと近くに座れば良かった。あーでも今更距離を詰めたら変だし! だー! ちょっと待て! その前に早く何か喋らなきゃ。何か! 何か話題を……!
カナカナカナカナカナカナ……。
おいヒグラシ。今は鳴くな。今だけは鳴くな。
空白の時間がより浮き彫りになるだろ。何でも良い! 何か喋りかけるんだ!
「あの!」
また変な声出た。でも声が出た。いいぞ。ここからだ! ここから俺は青春を始めるんだ!
「小学校一緒だったんだね! 全然知らなかったよ!」
いいよいいよ。明るく話しかけられた。共通の話題からまずは入ろう。
「そうですね」
「いやーぼ、俺、忘れっぽいからさ」
そうだ。一人称は【俺】にするんだ。その方が男らしいだろ?
「いえ、私も記憶になかったもので、すみません」
「え!? いやいやいや! あ、あの……」
しまった。彼女に謝らせてしまった。そんなつもりじゃないんだ。俺はただ……普通にお喋りがしたかっただけなのに……。
カナカナカナカナカナカナ……。
ヒグラシ。お前が正しい。この状況にはお前がぴったりだよ。
長い。時の流れがめちゃくちゃ遅い。誰か喋れよ! いや、喋るのは俺しか居ないんだけどさ。
時間が経てば経つ程、口がどんどん重くなっていく。
今汗をかいているのは夏のせいなのか、俺のせいなのか、ダラダラと服の中を汗が流れていく。あぁ、何て凡ミス。さようなら、俺の青春。
鈴森さんがスッと立ち上がり、前へ出た。
「あぁ! も、もう帰る時間だったよね! ごめんね、呼び止めちゃって」
そしてこんな気まずい空気にしてごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。今までありがとうございました。もう話しかけたりしませ……。
「お友達ってなんでしょう?」
「え」
「町田くんが、お友達になって下さいって言ってくれて……すごく嬉しかった」
え。
「けど、お友達って何でしょう」
「え、あ、えぇっと……」
友達……。難しいな。何をもって友達と呼べるんだろう。
そんなの習ったっけ? 習うとしたら道徳の時間だな。真面目に授業聞いてなくてごめんなさい。謝るから俺に答えを教えて下さい。
「僕は難しい事は分からないけど、あの時。鈴森さんの顔を見た時に、なんか笑って欲しいなって。笑顔が見たいなって。そう思ったんだ」
鈴森さんの背中に精一杯の、自分の言葉で語りかけた。
あの時、鈴森さんの横顔には他人事とは思えない、深い悲しみと、そして生きることへの願いを感じたんだ。
長い細い髪が夕陽に照らされてキラキラと揺れている。とても綺麗だ。今、鈴森さんの表情は見えないけれど、一体どんな顔をしているのだろう。
カナカナカナカナカナカナ……。
え!? あ、なに? 今の小っ恥ずかしい台詞! まるで告白じゃん! 違う違う違う! そんな出会って間もないのに告白なんて馬鹿じゃん! ドン引きじゃん! 今世紀最大のやらかしpart2だよ!
「あ! すっ、鈴森さん! 今の、こ、あの、こくは」
「なるほど。笑って欲しい。と思うのが友達でしょうか?」
そう言って振り返ると、鈴森さんはいつもの表情をしていた。いや、正確にいうと、俺には少しだけ元気そうに見えた。
「え? あ、うん! そう! そうなの! やっぱり友達の笑顔は見たいよね! 友達ならね!」
「そうですか。分かりました。ありがとうございます。では」
鈴森さんは俺の横にある鞄を拾い上げ、背を向けて石段を登り始めた。
「あ! もう帰るよね! じゃあね!」
俺は日々成長している。見ろ俊介よ。俺はもう女子にひとりで話しかけることも出来るし、さよならの挨拶も出来るんだぞ。
言ってて自分が恥ずかしい。
ふと鈴森さんが振り返った。振り返ってくれるなんて思ってなかった。目が合い心臓が大きく飛び跳ねる。
「あ」
声が漏れた。
声でよかった。
「町田くん」
「はい!」
「……」
「……」
「さよならっきょ」
「……」
「……」
カナカナカナカナカナカナ……。
しばらく俺を凝視した後、鈴森さんはスッと石段を登って行ってしまった。
小さくなってゆく鈴森さんの背中を見てしばし考えたが答えは出なかった。
「今のは一体……」
鈴森さんの座っていたハンカチを拾い上げると、まだ微かな温もりを感じた。
それを綺麗に畳みポッケに入れる。まだ確定じゃないけど、多分きっと俺は家に帰ったら新しいハンカチをポッケに入れるだろう。
完結するまで毎日18時に更新されますので
楽しみにお待ちいただければ幸いです。
2025/06/08までに「バック・トゥ・ザ・君の笑顔」は完結します。
全部で4部作ありますこのシリーズ。
恐らく全てがラノベ化されると思いますので
そちらも合わせてお楽しみいただければ嬉しく思います。
応援の程、よろしくお願い致します。




