第二王子との婚約ならお断りします。
第二王子との婚約をお断りします!
彼が、第二王子だから?違います。
彼が、遊び人だから?違います。
彼が、横領しているから?違います。
彼が、罵倒してくるから?違います。
彼が、仕事を全部押しつけてくるから?違います。
私は、第一王子の婚約者なのです。
と言おうとしたら、先を越されたー!
とうとう婚約発表の日がやってきてしまった。
「まぁ、マリー様ったらオリヴィア様にまたいやがらせを?だからオリヴィア様は涙をこらえていらっしゃるのね。今日の発表で、第二王子の婚約者はマリー様と確定してしまうと思うと。。オリヴィア様がおかわいそうだわ。」
「もともとオリヴィア様と第二王子は相思相愛でいらしたのに、マリー様が第一王子から第二王子へ婚約者を変えようとするから、こんなおかしなことになってしまったのですわ。いくら第一王子の容体が好転しないからといって、一度決めた相手を見捨てるなんて。。。王子よりも王妃の座をお求めなのかしらね。」
「一年前に第一王子が落馬されたときは心底同情しましたけれど、こんなに短い月日の中でマリー様の印象が変わるとは。。」
「本当に。それにしてもマリー様は相変わらず誰が話しかけてもニコリともされないのですわね。オリヴィア様はお辛い中でも必死に明るく振舞われているのに。。国母として、社交や政治の場でも、常にこのような対応をされるおつもりなのかしら。。。ドレスだって、もう少し品位のある流行をふまえたものにされればよいのに。。。」
めでたい席なはずなのに、ささやかれる悪口。
気にしない気にしない、と自分に言い聞かせる。
息を吸って、吐いて。
こんな日々も今日でおしまいにできる。
大丈夫。作戦通りにやれば、うまくいくはず。
従者がラッパを鳴らし、陛下が立ち上がった。
「皆の者、此度は我が愚息、レイ第二王子の婚約発表のために貴重な時間を使い、集まってくれたことに誠に感謝する。後ほど歓談の場を設けておるため、早速ではあるが、婚約者の発表をいたす。レイ第二王子の婚約者は、このフォスター家のマリー嬢だ。」
陛下は壇上にいる私に視線を送り、拍手した。
貴族たちは、小さな拍手をマリー嬢に贈った。
「さあ、マリー嬢。皆に挨拶しておくれ」
私は大きく息を吸った。
「陛下、お集りの皆様、このような場を設けてくださり、誠にありがとうございます。先ほどご紹介にあずかりました、マリー・フォスターと申します。出身は温泉の地として有名なバースズ領です。」
一度頭をさげる。
「誠に勝手なが・・・」
すると、同じく壇上にいた第二王子が私の横に立った。
「バースズ領のマリー・フォスター嬢!私は、第二王子の名のもとに、此度のあなたとの婚約をお断りする!貴殿の悪行の数々を、かのオリヴィア嬢が告発してくれたのだ。彼女と集めた証拠を基にあなたを断罪する!そして、父上。オリヴィア嬢の勇気あふれる行動に国として敬意を示すために、彼女と僕の結婚をお許しください。弱きものに手を差し伸べ、悪しき行動を律しようとする清い心を持つ彼女こそ、国母にふさわしいと思われます!なによりも、私は彼女との真実の愛に目覚めたのです!!!」
一瞬、時が止まった。
しんじつの・・・あい?
それよりも、まさか婚約拒否を第二王子に先を越されるなんて。。。。!!!
計画が狂った!!どうしよう!!!
固まる私を見て、勝ち誇ったかのようにオリヴィア嬢の表情が緩み、ゆがんだ。
「陛下、ご無礼を大変失礼します。僭越ながらレイ第二王子のお話をぜひお聞き入れいただきますよう、私からもお願い申し上げます。」
そして、オリヴィア嬢は優雅に美しく、それはお手本のような礼をしてみせた。
オリヴィア嬢、自分なら何をやっても許されると思ってるでしょ!
本来なら陛下に話しかけられる前に話しかけたらダメなんだからね!
いや、そんなことより、私の計画!!!
陛下は眉をひそめ、私を見た。
「マリー嬢、レイ第二王子、これは一体どういうことかね?この場で、このような事態を起こすと、どうなるか分かっておるのか?」
レイ第二王子の顔が少し青ざめた。
その間に、私は必死に自分を落ち着かせ、作戦を軌道に戻そうとする。
「陛下、誠に勝手ながら、私からも今回の婚約のお話をお断りさせていただきたく存じます。わたくしは第一王子と婚約させていただいております。そのため、このお話は私にはもったいないものでございます。」
一同が息をのむ音が聞こえた。
「どういうこと?この婚約はマリー嬢が懇願したものと聞いておりましたわ」
「え?お互い望まない婚約ってこと?」
「マリー様の悪行とは、嫌がらせの他にもあるのかしら?」
レイ「え?!うおっほん。父上、マリー嬢もこう言っているのです。この婚約をなかったことにしてください!」
マリー「陛下、私の意向は以前からお伝えしておりましたが、そのたびに陛下は、現在の情勢が私の希望を許さぬものだとおっしゃっておりました。私は国のためなら身を捧げる覚悟でしたが、今回、どうしてもお耳に入れておかねばならぬ事柄がございます。ぜひ、それをお聞きの上、あらためてご検討いただけますでしょうか。こちらの書類をご覧ください。
あ!そ、そして、、れ、レイ第二王子とオリヴィア嬢のおっしゃる、あ、悪行の証拠というものを、こ、コピーでもよいので、み、見せていただけないでしょうか?」
レイ「こんな大事な場で父上のお耳にいれなければならぬこととは、なんだ?!おまえ、父上に何か話す前に俺を通せと言っただろう!父上の時間は貴重なんだ!俺は何も聞いていないぞ!俺にも、その書類をはやく見せろ!」
マリー「は、はい!こちらにコピーがございます。こ、この式典が始まる前に申し上げようとしましたが、オリヴィア様との時間のほうが大事だとのことでしたので、お見せすることは叶いませんでした。あの、わ、わたしの悪行とは、、あの証拠とは、なんでしょうか。。」
レイ「お前の悪行の証拠は、これだよこれ!おっと、手が滑ってしまったな。悪いが、拾ってくれ。それはコピーだから、お前にやる。で、なんだこれは?。。。。まーた難しい言葉ばかり並べて、分かりにくい書類を作ったな。。いつも言っているではないか、万人に分かりやすいように書類は作れ、と。一瞬で内容がわかるようにせねば、会議や決定の妨げになる、とな。これ以上、時間をとらせてはならない。この書類の内容を簡潔に申せ。」
マリー「レイ第二王子、こちらは横領の証拠です。お金の流出元は、貴族の税金、そして私の毎月の献上金、流出先は第二王子ですが、宝飾店や服飾店からの請求が多いことから、私以外の女性にお使いになっているようでございます。」
レイ「なっ・・・!!」
ざわざわざわざわざわ
陛下「・・・・どうやら、本当に罪を犯しているようだな。直ちに査問委員会を策定し、こちらの書類の精査を依頼しよう。皆の者、本日の式典は中止だ。お詫びとして、オーケストラと飲食物はそのままとする故、しばし歓談し、踊り、宮殿での時間を楽しんでほしい。
レイモンド伯爵、査問委員会の人員策定と開催を直ちにせよ。衛兵、しばらく誰も城の外へ出すな。証拠の隠滅を図られたら困る。
フォスター男爵、レイ王子、オリヴィア嬢、マリー嬢は私とともに控室へ。その他、関係のありそうなものは第1客室へ通しておけ。」
レイ「ち、父上?!?!」
陛下「手錠をかけていないのは温情だ。さぁ、ゆくぞ。」
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結論から言うと、第二王子は貴族が収める税金の一部を「未来王妃教育費」「未来王妃品位保持費」として流用していた。王位継承が決定していない中での流用は違法だが、配下の者たちは王位継承後の待遇を考えて目をつぶっていたようだ。金品などを受領し、美味しい思いをしたものもいるようだった。
これは最近知ったことだけど、私の実家は毎月「献上費」として仕送りを送っていたらしい。それも第二王子のポケットマネーとして使われていたそうだ。これも、婚約者になるらしいからいいよね、ということで目をつぶっていたらしい。
だけれど、宮殿で私と少しでも関わったことがある人は気づいたはずだ。私は第二王子が担うはずの仕事を押し付けられ、忙しさに目が回りそうになる日々を送っていた。形式が決まっている書類でも分かりにくいと突っぱねられ、公式な書類と重ねて第二王子専用に書類を作っていた。その上、王妃教育の時間のために睡眠を削っていた。そんな日々では3食満足に食べられるわけもないし、日光に当たる時間もないので肌は不健康に青白く、ドレスや宝石も最後に仕立てた日も思い出せない。今日来ているドレスは侍女が昔のドレスをリメイクしてくれたものだし、宝石は母から借りたものだ。
毎日「愛想がない。笑顔の一つもできないのか?声が小さすぎて聞こえない。もっとハキハキと話せないのか?そんな話し方だと、みんなの時間を無駄にする。仕事面でも俺の役に立てないのか?使えないな。」と罵られながらも、必死に生きていた。
だから、第二王子が、私に、お金を使ったことはない。
お金はほとんどオリヴィア嬢に流れていた。第二王子は浮気性なので、他の女子との交流にも使われていたようだ。そこまでは私が調べ上げ、書類としてまとめていたので、控え室で事情聴取された。
しかし、オリヴィア嬢は他の女性にも宝石やドレスが贈られていたことを知ると、狂ったように叫び、髪を振り乱しながら第二王子を問い詰め、ビンタをくらわせて、連行されていった。
ビンタは、見ていてマジで気持ちよかった。すぱーーーーんって、あんなにいい音がするんだね。
第二王子も横領の罪で幽閉されている。処刑も検討されているようだが、王妃が首を縦に振らないらしい。
まぁ、あんなやつでも息子だものね。。
真実の愛も、王妃の座も、豪華な暮らしも、ぜーんぶ手に入れられると信じていたオリヴィア嬢は正気を失ってしまったようで、今では獄中で枕を愛おしそうに抱きしめながら話しかけているそうだ。
レイ王子は、幽閉先で「おれは、この国の王なんだ。これも、あれも、それも、俺の物になるべきなんだ!この美貌さえあれば、女にだって困らない!最高級の物を俺に献上し続けろ!」と主張しているらしい。本人の主張はさておき、税金がもったいないので、獄中貴人の扱いになっているそうだ、
ちなみにいうと、オリヴィア嬢と第二王子がいう「私の悪行の数々」はでっちあげで、主に「嫌がらせで水をかけられた」などの器物破損を訴える内容だった。実際は、オリヴィア嬢が私にしたことだったり、他の方とのいざこざを私名義にされていただけだった。第二王子の代わりに様々な打ち合わせに参加していたことで、アリバイを立証することが出来た。
そして、私の婚約者である第一王子は、第二王子が幽閉されてから2週間後に意識が回復した。
1年前の落馬事故は、第二王子が仕組んだ事件であった。そして、意識の戻らない第一王子の点滴に少量の毒を混ぜ、意識が戻らないよう、少しずつ体が弱っていくよう看護師を買収していたのだった。
その看護師も、連行時には第二王子との真実の愛を叫んでいたのだけれど。。。
こうして国にも、私にも平穏が訪れた。
あれだけ引っかき回した第二王子だけれど、一つだけ、感謝していることがある。
私はもともと人前で発言することが苦手だった。でも、第二王子の代理を必死に務める中で数々の会議に参加し、あの婚約発表の場で(全然作戦通りじゃなかったけど)ご婦人方も含む面々の前で発言したことで、以前より堂々と出来るようになった。
笑顔も絶賛練習中だ。
第一王子には、まだ作り笑顔が怖いと言われてしまうけど、そのうちに笑顔の練習の成果をレイ第二王子やオリヴィア嬢に見せに行こうかな。
あなたたちのおかげで、ここまで成長することが出来ましたよ!ってね。
ご一読くださり、ありがとうございます。
思ったより反響があって、ビックリしていると同時に、とても嬉しいです。
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