覚醒する怒りの炎
ある日、桜は「ずっと行ってみたいカフェがあるんだ。テレビでも話題になってるし、一緒に行こうよ」と提案した。尚樹は軽く「いいね、今度行こうか」と返事をした。しかし、数日後、尚樹から突然のメールが届く。
「そのカフェ、昨日友達と行ってきたよ!めちゃくちゃ美味しかったし、もう一度行く必要はないかな。俺、人気の場所はあんまり好きじゃないし。」
桜は驚きと失望を隠せなかった。自分が行きたいと話していた場所に、先に友達と行き、その上「もういい」と言われたことに、深い寂しさを感じた。それでも桜は「なんで私と行く前に友達と行っちゃうの?私を優先するって言ったじゃない」と問いただすことができず、「あ、そうなんだ…」としか言えなかった。
その後も尚樹は、桜の提案した場所に友達と先に行くことを繰り返した。彼は「もう一回行く必要ない」と毎回軽く言い、桜は次第に自分が軽んじられているように感じ始めた。しかし、尚樹に対して強く言えない桜は、ただ心の中で不満を募らせていく。
また別の日、桜は「新しくできたショッピングモールに行きたいんだ。今度一緒に見に行こうよ」と提案した。尚樹はいつも通り「そうだな、行こう」と気軽に同意した。
しかし、数日後、尚樹は再び友達とそのショッピングモールに行き、桜に自慢してきた。
「この前友達とあのモールに行ってきたんだよ。新しいお店がたくさんあったし、結構楽しめたけど…まあ、あそこは一回行けば十分かな。君はどうせいつでも行けるし、俺ももういいかなって感じ。」
桜は再び失望感を抱いた。「なんでいつも私が言った場所に、先に友達と行ってしまうの?」と心の中で問いながら、尚樹の行動に対する苛立ちが募る。しかし、尚樹に直接聞いても彼が適当な言い訳をするだろうと思い、黙って聞き流すことしかできなかった。
尚樹のこうした行動は何度も繰り返された。桜がどこかに行きたいと言うたびに、尚樹は必ず先に友達とその場所を訪れ、桜に対して「行ったよ」と自慢してくる。尚樹は「自分は先に楽しんだ」と言いたいだけなのだろうが、その行動によって桜はどんどん傷ついていく。
桜は「私と一緒に行くことが大事なんじゃないの?」と思いながらも、尚樹に対して何も言えなかった。彼が自分と楽しむことよりも、自慢することに価値を見出しているのが明らかだった。そのことが、桜の心の中で、尚樹への信頼を徐々に薄れさせていった。
バレンタインの日、桜は尚樹が生チョコを「向こうで食べてきたよ」とニヤニヤしながら言った瞬間、心に嫌な予感がよぎった。
「まさか…捨てた?」と考えた。
心の中で動揺しながらも、桜は恐る恐る尚樹に尋ねた。
「ねぇ、本当に向こうで食べたの?もしかして、捨てたんじゃないよね?」
尚樹の態度は明らかに不自然だった。桜が「まさか捨てた?」と問いかけた時、彼はすぐにニヤリと笑い「いや、食べたって」と返したが、その口調には全く信頼性がなかった。
尚樹の手には生チョコの跡形もなく、部屋のどこにも食べた形跡はなかった。桜は尚樹が嘘をついているのを感じていた。彼の軽薄な態度が、その事実を 雄弁に物語っていたのだ。
「なんで、わざわざ捨てたの?」と桜は心の中で問いながら、彼の態度に怒りが湧き上がった。生チョコを作った自分の努力や気持ちが、こんな風に無下に扱われるなんて耐えられなかった。
尚樹は、まるで桜を試すかのように、わざと「捨ててやった」という雰囲気を醸し出していた。彼はニヤニヤと薄笑いを浮かべ、チョコをどうしたかを問いただす桜の視線を避けるように振る舞った。「食べたって言ってるだろ?」と、明らかに嘘臭い返事を繰り返す彼の姿は、まるで桜を小馬鹿にするような態度を示していた。
桜は胸の奥で強い違和感を感じた。尚樹の言動には、明らかに桜を侮辱する意図が込められているように思えた。「何でそんなことするんだろう…?」と心の中でつぶやきながら、尚樹の自己中心的な行動に、深い虚しさを感じ始めた。
「こんな人と付き合っている意味があるのだろうか?」と自問するたびに、尚樹への不信感がますます強まり、桜の胸の内で、怒りがマグマのように沸き上がっていった。尚樹の薄笑いを目の当たりにした瞬間、心に針を刺されたような感覚が走り、何かが弾けた。
「嘘ばっかり…私をなんだと思ってるの…?」桜の声は震えていたが、同時にその瞳には炎のような光が宿っていた。彼女の心の奥底で、何かが覚醒するのを感じた。
突然、部屋の空気が一変した。温かさが消え去り、代わりに熱風が桜の周囲に渦巻き始めた。彼女の意志に応えるかのように、炎の召喚獣フレンバルアが具現化した。彼の姿は巨大で、燃え盛る翼が部屋全体を覆い、明るい炎の光が闇を切り裂いた。その瞬間、部屋中が赤い光に包まれ、熱気が増した。
「何だ、これ…?」尚樹は驚き、怯えた表情で後ずさりした。しかし、もう遅かった。桜の目は怒りで燃え上がり、フレンバルアの赤い瞳とシンクロしていた。
「もう、嘘は聞き飽きたの…!私の気持ちを踏みにじるなら、その代償を払ってもらうわ…!」桜の声は怒りで震え、彼女の周囲に熱波が巻き起こった。フレンバルアの翼が大きく羽ばたくと、部屋全体が一瞬にして灼熱の世界へと変わり、尚樹を逃げ場のない炎の牢獄へと閉じ込めた。
「嘘ばかりついて、もう燃え尽きてしまえ!」桜の叫びとともに、フレンバルアの炎が尚樹を完全に飲み込み、彼の姿は炎の中で消えていった。
部屋の中は再び静寂に包まれたが、その空気は燃え立つ怒りの残り火で熱を帯びていた。桜は深く息を吐き、炎の召喚獣が消えるのを感じた。彼女は心の奥底で、自分の感情を解放できた安堵感が広がっていくのを感じた。
「もう、私は戻れない」と心の中でつぶやき、これからの自分に目を向ける。尚樹の存在は消えたが、彼の不誠実な行動は桜の心に深い傷を残したままだった。
だが、その安堵感の後には、これからの自分の選択に対する不安が押し寄せていた。




